リアクション
第2章 懇親
ミルミとライナは喫茶店で準備を整えた後、ホールの手伝いに……寧ろ、雪遊びに繰り出した。
「みっるみちゃーんっ! むぎゅぅーっ!」
着替えて喫茶点から飛び出したミルミに抱きついたのは、もちろん牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)だ。
「ふにゃーっ。アルコリアちゃんもぎゅっ、ミルミちょっとよっきゅー不満なの。鈴子ちゃんが鈴子ちゃんが〜っ」
ミルミはアルコリアにぎゅうっと抱きつく。
元々忙しい鈴子が、ライナを迎え入れたせいで更に構ってもらえなくなりちょっぴりミルミは不満なのだ。
「ホールでは袋を沢山用意したパラ実生達が待ってるそうですよ。私もミルミちゃんをフクロに入れて持って帰りたいです」
「あうっ、やっぱりふくろにされちゃうのかな」
ミルミの服の裾を掴んで、ライナが不安気な目をしている。
「ライナちゃんもフクロに入れて持って帰るぅ〜」
その可愛らしさにアルコリアは思わずそう言い、2人を馬車に連れ込んで袋詰めして持って帰ろうと引っ張りかけるも、きゃぴきゃぴ歩いている百合園生を目にして思いとどまる。
ミルミのことはリナリエッタら沢山の百合園生が取り巻いている。それも全部むぎゅれば、それも全部袋詰めしたいじゃないか〜っ。
アルコリアは次なるターゲット、ライナに手を伸ばす。
「むぎゅむぎゅ〜」
「はうっ」
ぎゅっと抱きしめられてライナはびっくりする。
「まま……」
母親の温もりを思い出してライナは涙目になっていく。
「ぎゅむーっ」
変わらずぎゅっとアルコリアはライナを抱きしめ、愛おしみ続ける。
「も〜。百合園可愛い娘多すぎっ 転校するぅ〜」
「あー、アルママたのしそう〜。あたしも〜」
ハーフフェアアリーの樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)が、解放されたミルミにぎゅっと抱きついてくる。
「別荘にいた子だね。よぉし、ミルミの子分にしてあげよう〜」
ミルミは眞綾を抱きしめて羽を広げると、飛び立つのだった。
「ああーっ。ミルミちゃんが、ミルミちゃんが私の元から飛び立ってしまう〜」
慌ててアルコリアはライナを可愛がりながら、2人の後を追ってホールへと向う。
「アル……」
シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は軽く頭を抱える。
「ボク達ぐらい、確りしないと桜谷鈴子に合わせる顔がないと思わないか……?」
追いかけながら、声をかけるが完全無視でアルコリアは女の子達をむぎゅり続けている。
「治安の悪い一帯、警戒して警戒しすぎということもあるまい」
ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)は、ハーフフェアリーの子供達の姿を見ながらそう呟いた。
現代では見かけない種族の子供達がこうも治安の悪い場所に集まるとなれば、興味を持つ犯罪者も多いだろう。
「ボク達だけでも、警備についておこう。何も起きないのが一番だけどね」
シーマの言葉に、ランゴバルトが頷く。
「まてまてミルミ〜♪ 撃たれたら危険だぞ。外部の奴等が狙ってるかもしんねーしな♪」
ミルミに警戒を呼びながら地上から後を追うのはミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だ。
危険なことがあるかもしれないと、護衛のためについてきたミューレリアだが、雪景色や友人達の笑顔に心が弾んでいた。
「うおっ、雪像がいっぱいあるな、すげー! 大きい雪ウサギ? 可愛いじゃん。乗れそうだ!」
ホールの周りには、薫が作った、雪像が並んでいる。
大きな雪ウサギの目には、りんごが嵌められている。
象の長い鼻は滑り台になっている。
更に、パンダのお腹の部分がかまくらになってた。
「遊んでいってくれでござる。壊れても直ぐ直すでござるよ」
薫自身は、雪パンダの前でモチを焼いている。
「おーし!」
ミューレリアは早速、象の滑り台に上って、滑り始める。
(面倒くさいし、早く家に帰りたいな……)
対照的に、パートナーのバニラ・バージェヴィン(ばにら・ばーじぇう゛ぃん)は元気がなかった。
(でも、ミューがミルミちゃんとライナちゃんの遊び相手になってって言ったから……)
「雪だるまが沢山あるよ!」
ちょうど、眞綾を抱えたミルミが下りてきて、感激の声を上げたところだった。
「……ミルミちゃん、ライナちゃん、アリの行列でも眺めよっか……」
バニラはそう声をかける。
「んん? 雪に埋もれて見えないよ?」
「……それじゃ、氷柱が出来る様子を眺めよっか……」
やる気なさそうなバニラの言葉に、ミルミはんん?と考え込む。
「見てたって詰まんないし。よし、氷柱作ろうー!」
「つくろー!」
「……あっ……」
ミルミとライナがバニラの左右の腕を掴んで、雪が積もった場所へと引っ張っていく。
ミューレリアは2人にぐいぐい引っ張られるバニラの様子を、滑り台の上から穏やかな目で見守る。
「バニラどうにも暗いんだよな。遊び相手させることで少しは明るくなってくれるといいんだけど」
「引っ張りまわされそうでごさるな」
餅に海苔を巻きつけながら薫が言い、ミューレリアと微笑み合う。
「っと、私は遊んでる場合じゃねぇって! 楽しい雪像サンキューな!」
ミューレリアは薫に礼を言って、滑り台から飛び降りると、周囲を見回し殺気看破を使ってみる。
とりあえず、今のところ周囲に殺意や害意は感じられなかった。
○ ○ ○ ○
「オラオラ! 会長がいねぇと思ってタラタラやってんじゃないよ!」
分校長顧問であるキャラ・宋(
皇甫 伽羅(こうほ・きゃら))の怒声が飛ぶ。
「雪かきで疲れたんだよ。少しは休ませろよー」
「重労働しろってんじゃねぇ。お前らはあのオッサンと外の警備だ! うまいこと行ったらチョコやるからよぉ!」
「へいへい。チョコ1個で働かされる俺って……」
ぶつぶつ言いながら、
ブラヌ・ラスダーが焚き火の側から立ち上がって、警備へと出て行く。
ブラヌ達を見送った後、キャラはホールの受付へと向う。
そろそろ受付開始時間だ。
作業を行っていたパラ実生達が次々にホールへと集まってくる。
「作業を終えた方は、こちらから入場してください。その前に、ちゃんとうがいと手洗いをしてきてくださいね」
救急箱を持った
未憂が、手を振って分校生達に呼びかけている。
「ホールの中、きちんと綺麗にしたよー!」
パートナーの
リンもぶんぶん手を振る。
「みゆうちゃんとリンちゃんもご苦労さーん」
片付けを終え、溜め水で手を洗った者からうきうき♪しながらホールへ寄ってくる。
「それでは皆様、こちら記帳台の方へお並び下さい」
キャラがそう声をかけて、入り口前に来客達を並ばせて、所属と名前を記入した人物から丁寧な口調で室内へと招き入れる。案内した後、名前の横に人物の外見の特徴をこっそり略号で記入しておく。
「護身用を超える長物・大物の武器の類は預からせてもらうでござる」
宋子分(
うんちょう タン(うんちょう・たん))が、チェーンソーを持って入ろうとしたパラ実生の肩を叩き、手を差し出した。
「ケーキカットに必要なんだよ、俺と彼女達の最初の仕事、ケーキカットに!」
「……よくわからぬが、必要ないということでござろう」
なんだか訳の分からない絵空事を捲くし立てている分校生どもから、武器を強引に回収していく。
普段から分校に顔を見せている者、設立に協力した者、そして武器持ち込み禁止など、こちらの指示に従った者だけ入場を許可していく。
「よろしくお願いします」
「お越しいただき、ありがとうございます」
記名した百合園生に、キャラは微笑んで頭を下げ……直後に素通りしようとした厳つい男の腕をぐわしっと掴む。
「どこの分校のモンだテメェ、断り無しに神楽崎分校にゲソ入れようってのかァ」
素通りしようとした柄の悪い人物にはこうして豹変し、容赦ない言葉を浴びせる。
「見かけない顔でござるな。本日は定員的都合で、関係者のみしか入れないでござるよ。といっても、これから分校に通おうと思っている方を無碍にするわけにもいかんでごさるからな。ボディチェックにご協力願うでござるよ」
子分が厳つい顔の男を建物の影へと引っ張っていく。
「盛況でござりまするな」
少し離れた位置、受付を見渡せる位置に立っていた宋清(
皇甫 嵩(こうほ・すう))が近づいて、埋まったご芳名帳を1枚キャラから受け取る。
「予約制した方が良かったでしょうか」
キャラが長蛇の列を眺めて言った。
「入場制限が必要そうでございりまするな」
記された名前をちらりと見た後、清は丁寧に折りたたみ、懐にしまう。
「写しを分校長に届けて参ります」
伝令係に徹し、状況を伝えるために亜璃珠の元に急ぐのだった。
「おーほっほっほっ! 分校生はこちらに並んで下さい!」
受付の先、ホール玄関では
ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が高笑いと共に、分校生達を迎え入れる。
「武器はキャラさまに預けられましたわよね? しかし、本日は武器以外の持ち物も調べさせてもらいますわ! おーほっほっほっ!」
ロザリィヌもまた、亜璃珠の補佐を務めており、分校生達にとって逆らえない存在だった。
「抜き打ちの持ち物検査を行いますわー!」
ロザリィヌの言葉にブーイングが発生する。
「持ち込まなければ、構いませんのよ。見られたくない物はバイクの中にでもしまってくると良いですわ! ちょっとやそっとの物じゃわたくしは驚きませんけれどね! おーほっほっほっ!」
ロザリィヌの言葉を聞いて、多くの分校生達がぶつぶつ文句を言いながら外へと戻っていく。
「ちょ、チョコレートもらえるかもしれないから、そのお礼を持ってきてたりするんだよ」
膨らんでる懐を押さえながら、少年が小声で言った。
「なんて可愛らしい方ですの! でも、お礼なんて結構ですのよ!」
そんなものを貰った百合園生が男子に靡いてしまったら、ロザリィヌとしては大損害大損失である。
「あら、これは何ですの?」
錠剤の入った瓶だ。ラベルには風邪薬と書かれているが……。
「薬類の持込は禁止ですわ。風邪を引いているのならお客様に移してしまったら大変です。残念ですけれど、お帰りくださいませ!」
「なんだよ、細かいこと言いやがって〜」
ブーイングの嵐だったが、ロザリィヌは心を鬼にして検査を続ける。
とはいえ、護身に使うと思われる小型の武器くらいは「もしもの時には女の子達を護ってくださいませ!」と、容認するのだった。