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リアクション
「くそっ! 邪魔すんな!」
ルカルカの支援に回ろうとしたエースとクマラに、ゴーレムの群れが攻め込む。
「残念♪ 援護は無理みたいよ!」
メニエスが、ルカルカに攻撃を仕掛けながら笑い、
「冗談でしょ! あんたなんてルカルカだけでじゅーぶん!」
と言い返しながら斬りかかる。
むしろ、背後からの攻撃を防いでくれるという点で、充分な援護だ。
ゴーレムは気配が感じ取れない。
周囲は混戦になっている。
だがルカルカは、前方に味方がいないことを確認し、飛び退いて距離をおくと、大技を仕掛けた。
「則天去私ッ!」
ゴーレム達がばたばたと倒れて行く。
しかしメニエスは、距離を開けられた時点ですかさず箒を掴み取った。
上空に逃れ、上からファイアーストームを放つ。
味方のゴーレムも巻き込んで、周囲に炎が吹き上がった。
「そろそろ白状しなさいよ! 女王器は何処?」
「知らないったら知らない!!」
炎の魔法を耐え切ったルカルカが、げほげほとむせながらも叫び返す。
その背後から、エースが自分に回復の魔法を飛ばしてくれるのを感じ取った。
黎明ははっとした。
メニエスの火炎の魔法に巻き込まれ、ゴーレムを操っている男の姿を見失ったのだ。
どこに、と思った次の瞬間、悲鳴が上がった。
「そこまでだッ!」
「ヨシュア!!」
ゴーレムの群れの中から手が伸びて、ヨシュアの腕を引っ張り込んだのは、ゴーレムを操る男、グロスだった。
「てこずらせやがって。こいつの命が惜しかったら、全員止まれ!
メニエス、さっさと片付けろ!」
グロスはヨシュアの首に短剣を突き付けて、がなるように叫ぶ。
「命令はやめて欲しいわね」
ムッとメニエスは目を眇める。
ついていけない展開にぎょっと目を見開いていたヨシュアは、自らの状況を把握すると、はあ、と溜め息を吐いた。
「……ああもう……」
非力な一般市民に過ぎないが、これでも自分は、他人に迷惑をかけずに生きてきたことだけは誇ってきたつもりだったのだ。
それが今、人質なんかになって、こんな足手まといになってしまって。
契約者に憧れていたけれど、それはこんな怖いことがやりたかったわけじゃなくて。もっとこう。
全くもう、恨みますよ、オリヴィエ博士。
「なっ!!?」
グロスは、驚いてヨシュアから手を離した。
驚いたのはグロスだけではなかった。
ヨシュアは、自分から、グロスの短剣に突っ込んで行ったのだ。
ヨシュアの首から鮮血が噴き出す。
「ヨシュア!!」
素早く反応して、倒れるヨシュアに佐々木弥十郎と仁科響が飛び付く。
「いい加減にしてもらおうか!」
そしてヨシュア達から引き離すようにして、仮面ツァンダーソークー1がグロスの懐に飛び込む。
弾き飛ばされるようにしてグロスは後退した。
「残念だったね。
お探しの女王器は、とっくにクイーン・ヴァンガードが確保していてここには無いよ」
信じるかは賭けだが、ソークー1はハッタリをかました。
「何だと!?」
グロスの表情が怒りに歪む。
「いつまでも、こんな危険な場所に置いておくと思うのか。
諦めるんだな!」
わなわなとグロスは怒りに震える。
「ちいっ! ここまで来て、何も無いとか、手ぶらで帰れるかあ!!」
グロスは血走った目で叫んだ後、ふっとそのことに気がついた。
「……そうだ、ここはゴーレム博士の家じゃないか。何で今迄忘れてたんだ!?」
それはあんたが馬鹿だからでしょ、というメニエスの言葉が聞こえたような気がミストラルにはした。
「はっは! そうだ、そうだった、まさしく俺向けの収穫じゃないか!」
見たところ、自宅は既に壊滅。
飛空艇はそれに向いていない。
ならば残りはひとつだ。
「メニエス! 床だ!」
「だから、あたしに命令しないで貰えるかしら」
独り言を返しながらも、「ミストラル」と合図する。
直後、爆音が響いた。
あちこちが吹き飛び、もうもうと煙が上がる。
「くっ……! ヨシュアは!?」
エースが咄嗟に確認する。
安全圏で、佐々木弥十郎と仁科響が彼にヒールを施す前で、パートナーのメシエ・ヒューヴェリアルとエオリア・リュケイオンが彼等を護っているのを見て安堵し、すぐさまメニエスに視線を戻した。
「ひっどおい! 苦労してここまで片付けたのにぃぃ!」
「てんめッ……!
折角片付いてきたところだったのに、よくも散らかしやがったな!」
ルカルカと朝霧垂が同時に叫んだ。
そこかい。と、パートナーの朝霧栞が内心で突っ込む。
「それは一旦置いとけ。あれ、見ろ!」
栞に指差されて、垂ははっとする。
床が陥没していた。
ぐらりと僅かに、飛空艇が傾ぐ。
「……地下室!」
垂は目を見開いた。
ゴーレム達が、ばたばたとひとりでに倒れて行くのを見て、ヨシュア達の前に立ちはだかって戦っていたアルゲオ達は、眉を顰めた。
その理由はすぐに知れた。
グロスが、ゴーレム達を操ることを放棄したのだ。
そして、代わりに、あらわになった地下から、ゴトゴト、バキバキと音が響く。
ぞろぞろと地下から這い出して来たのは、5メートルはありそうな、巨大なゴーレムの数々だった。
「ははっ!
人形使いの異名を取る、この俺様に相応しいゴーレム達だぜ!
貴様等を葬るのに使うのは勿体無いな!
女王器も無いのなら、もうここに用は無いぜ!」
「……! 待てッ!」
叫んだ目の前に、爆炎が広がる。
煙が収まらず、目くらましの意味の攻撃だと解った。
ようやく煙が引けば、巨大ゴーレム達も、メニエス達の姿もなく、最初にグロスが操っていたゴーレム達がごろごろと転がっているだけだった。
「ヨシュア! ヨシュアの容態は!?」
はっと思い出してルカルカ達が駆けつける。
はあ、と弥十郎は溜め息を吐いた。
「大丈夫。何とか間に合いました〜」
ほっと安堵の空気が広がり、やがて、ヨシュアが目を開ける。
「このバカッ!!」
怒鳴り付けられて、ヨシュアは小さくなって謝った。
「す……スミマセン……」
「……杞憂でしたか」
結果的に、鬼崎朔の思惑は、考え過ぎだったと知れた。
何か危険なことになれば助太刀に入ろうと、奇襲の機会を窺ってずっと様子を見ていたが、ヨシュアを護衛する者の数は多く、その心配もなかったようだ。
まさかヨシュアが自刃に走るとは思わなかったので、それに反応できなかったことは無念だが。
――そうすると、次の懸念は、鏖殺寺院の方である。
彼等はヨシュアの襲撃を諦めたのだろうか。
だとすれば、ゴーレムを強奪して、次は何処へ行くのだろう?
「大丈夫か?」
ラズ・シュバイセンの手に掴まって、意識を取り戻したアシャンテは立ち上がった。
「……役に立てなくて、ごめんなさい……」
戦闘中に倒れてしまうなんて。
「ま、次、頑張ろー」
ぽんぽんと肩を叩いて、ラズは軽く笑った。
起き上がろうとするヨシュアを案じて、
「大丈夫? もう少し休んでいた方が……」
と、一ノ瀬月実が声をかける。
「もう大丈夫。ええと……」
初めて見る顔に、ヨシュアが首を傾げた。
「あ、初めまして。私、一ノ瀬月実。よろしくね」
ええと。
その時、頭の中で、何か忘れている気がしたけれど、思い出せない月実だった。
私、何をしに来たんだったかしら。
惨状を見たヨシュアは、頭を抱えた。
地下倉庫のゴーレムが、全て持ち去られてしまっている。
「……博士、すみません……」
「急いで後を追えば、追い付くんじゃない?
多少大きくたって、皆で戦えば壊せるよ。博士には、一緒に謝ってあげるから」
慰めるようにルカルカが言ったが、そうじゃないんです、とヨシュアは言った。
「あの中に、1つだけ、一筋縄では壊せないゴーレムがあるんです」
「どういうことだ?」
エースが訊ねる。
「壊せないゴーレム、を、作っちゃったんです」
どう説明しようか、と考えて、ヨシュアは瓦礫に埋もれた地下を見る。
立ち上がって、瓦礫の中に下りて行った。
「……すみません。手伝っていただけますか。
この下を重点的に掘って欲しいんです」
前より滅茶苦茶になった瓦礫の上で、ヨシュアがある一点を指差しながら呼びかけた。
「そこに何かあるの?」
腕まくり、たすきがけながら、ティア・ユースティが訊ねる。
ホラホラ、タツミも〜と呼ばれたパートナーの風森巽も、瓦礫を踏み越えて歩み寄った。
「ドアがあります」
ヨシュアは頷いた。
「地下2階へのドアです」
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