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リアクション
Scene2 破滅の人形
「聞いて、リズ! 一ノ瀬ネットワークからコハクさんの情報をゲットしたわ!」
興奮して駆け込んで来た一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)に、パートナーの剣の花嫁、リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)は、
「それはどこの妄想ネットワークなの?」
と冷静に突っ込んだ。
「コハクさん、襲撃を受けたみたいでピンチなのよ!
助けに行かないと! そして今度こそ友達になるのよ!」
聞く耳を持たない月実の脳裏には、謎の敵に襲われ、危機一髪なコハクの姿が浮かび上がる。
「うわあああっ!」
「コハクさん、危ない!」
月実の銃が火を吹く。
謎の敵は倒れた。
倒れた敵の向こうに立つ月実の姿に、コハクの顔が輝く。
「月実さん! 来てくれるって信じてました!」
「ふふっ、当り前でしょう? コハクさんの為なら何処へでも現れるわよ」
「そんな……嬉しいです、月実さん。結婚してください」
「くすっ、気が早すぎよ……」
「阿呆か――――ッ!!!」
ハリセンの音が鳴り響く。
「いきなり結婚とか何その妄想! 酷すぎでしょ!」
げしげしと足蹴にしながらのリズリットの全力の突っ込みも聞こえない月実は、
「そうね、早く助けに行かなきゃ。
でもコハクさんて何処にいるのかしら」
と考え込んだ。
「あっ、そうそう、私の情報網によると、ヨシュアっていう人とコハクさんが接触していたんだわ。
ヨシュアさんは空京の人だったわね。
つまり、彼を訪ねて空京に行けば、コハクさんの居場所を教えて貰えるわ!
完璧ね、私! さあリズ、行くわよ!
今度こそコハクさんと友達になるわ!」
意気揚々と歩き出す月実に、リズは
「っていうか、コハクに会いたかったら蒼空学園に行けばいいんじゃないの?」
と思ったが口には出さなかった。
面白そうだったからである。
それに、また会いましょうと言っていたコハクの方は、既に月実と友人になったつもりのはずだ。
だがその会いましょうという伝言を、うっかりリズリットは月実に伝えていなかったが。
「……まあいいか。面白そうだし」
肩を竦めてリズリットは月実を追いかけた。
黙って辺りを見渡し、何事か考え込むように眉間を指で押さえ、もう一度周囲を見渡して、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は
「これはどうしたものか」
と呟いた。
「……今、現実を受け入れるのに時間がかかりましたね」
その隣りで、パートナーの守護天使、仁科 響(にしな・ひびき)が苦笑する。
「いやぁ、だってねぇ。
こんな状態だなんて思わないでしょう。
博士の家が、瓦礫の上に乗っかった飛空艇だなんて」
「そうですね」
弥十郎は、オリヴィエ博士と関わりは無い。
だが、友人であるコハクがお世話になった人がいると聞いて、話を聞いてみたいと訪れたのだ。
しかもやってきてみれば、博士は旅行中で不在だという。
「アポなしは、やはりまずかったでしょうか」
「うーん、とりあえず、近い内に助手の人が帰ってくるそうだからぁ。
その人が来るまで待ってみようかぁ」
響は足元に転がる本を取り上げて、溜め息を吐いた。
「ぼろぼろ……勿体無い……」
本だけではない。瓦礫に紛れて、色々な物が見え隠れしている。
「何か値打ち物とかもありそうな気がするねぇ。
ちょっと頑張って片付けてみようか」
弥十郎は、すっかり元僧侶スイッチが入ってしまって、掃除する気満々になっている。
「はいっ」
宝探しという響に、響もわくわくしながら頷いた。
まずは、状態のいい本を回収して、ジャンル別にまとめ、状態の悪い本はましな部分だけを取り出してファイリングする。
そんな手順を頭の中でシミュレートしながら、ノリノリで作業を始めた。
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、浮き島セレスタインにて非業の死を遂げた、ハルカの祖父、ジェイダイトの墓参りに来ていた。
「じいさん……。
俺はこの先、俺の心を救ってくれたハルカに恩を返し、ハルカのいるこの世界を護って行くとあなたに約束する」
墓前に誓っていた牙竜は、不意にはっと顔を上げた。
「…………今、じいさんの声が、聞こえたような気がした……?」
「いや、それ空耳だから」
ぽつり、と、パートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が小声で突っ込みを入れる。
「ハルカを頼む、と、言っていた気がする……」
「それ気のせいだから」
現実の声は耳に入らず、がばり、と牙竜は振り返った。
「何か……また再び、事件が起こり始めている予感がする……!」
「妄想だから」
ずざっ、と牙竜はオーバーアクションで身を翻す。
少し離れた所にとめてあったバイクにまたがった。
「でも勿論、あたしもハルカが心配だから!」
牙竜の後に続き、リリィもその後ろにまたがる。
バイクは、オリヴィエ博士の家を目指して走り出した。
「えっ、ハルカさんお留守なんですか?」
お土産を手に、ハルカに会いに来た高務 野々(たかつかさ・のの)は、留守番のウィングやボランティアでオリヴィエ博士の自宅の片付け作業に来ていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)達に、ハルカの不在を知らされて、がっくりと肩を落とした。
「そりゃ、連絡もしないで訪ねてきた私がいけないんですけど……でもだって、ハルカさんの連絡先知りませんし……」
あ、皆さんお疲れ様です、よろしかったらこれどーぞ、とお土産のお菓子を差入れに渡す。
「わーい! お菓子! お菓子!!」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)のパートナー、魔女のクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が目を輝かせて喜ぶのを見て、
「お茶もお淹れしましょうか。台所を借りても?」
と野々は微笑む。この場合の台所は勿論、飛空艇の台所だ。
「折角ですから帰る前にハルカさんに伝言をお願いして行きたいですけど……。
皆さん、ハルカさんや博士がお帰りになるまでずっとここにいらっしゃいます?」
「俺達は、ちょくちょく片付けの手伝いに来てるけど、博士が戻ってくるまでずっと、ってわけじゃないんだよな」
と、エースは、と顔を見合わせて言った。
「でもとりあえず、ヨシュアが戻ってくるまではいるよ?」
ルカルカがエースの言葉を引き継ぐ。
「ヨシュアってのは、博士の助手な」
「ねー、早く帰ってこないかな〜」
「でしたら、助手さんに言伝た方がいいかもですね」
そんな訳で、野々は片付けを手伝いつつ、ヨシュアの帰りを待つことにした。
同じく、ハルカに会いに来たついで、博士自宅跡地の片付けの手伝いもとやってきた風森 巽(かぜもり・たつみ)も、
「誰も行き先、知らないって」
と残念そうに言うパートナー、剣の花嫁のティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)に頷いていた。
この住宅跡地に、何か行く先が解るようなものが残されていないかと思ったが、そういったものは見つからない。
「ハルカちゃんにシャンバラを案内する、というようなことを言っていたらしいから、あちこち回るんでしょうね。
ツァンダ方面に向かったなら、自分で女王器を届けるでしょうから、ヒラニプラ方面か、もしくは葦原方面ですか……」
しかし推測の域を出ず、確定情報は無いので、仕方なく、とりあえず、博士自宅跡地の片付けの手伝い、である。
「ハルカが旅行に行っタ!?」
落雷の背景をしょって、それを聞いたレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)は叫んだ。
「それは……それは間違いなく迷子フラグネ!! 捜索しないといけないヨ!」
きっとハルカとはぐれてしまったと、途方にくれたオリヴィエ博士から連絡が入るに違いない。
そうとなれば! とレベッカはハルカ捜索の準備を始めた。
具体的に言えば、ハルカの似顔絵の用意である。
「レベッカ様……お気持ち解りますけど、気が早いと思いますわ……」
パートナーの剣の花嫁、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)がおずおずと言う。
「ていうか、2人とも、その格好なに!?」
ルカルカがぽかんとした顔で口を挟んだ。
レベッカ達のいでたちは、いわゆる「ミニスカメイド」というやつだった。
レベッカは健康的な生足を晒し出し、清楚な雰囲気のアリシアも、レベッカと揃いのミニスカメイド服に身を包んでいる。
どこぞのむっつりすけべが見たら、こっそり鼻血を拭きとっていそうだ。
最もレベッカは常日頃露出の激しい服装をしていたので、布の多さだけ見れば、むしろ今の方が露出が低い感じだが、普段の陽気さとメイド服が微妙に噛み合っていないのがある意味で新鮮だ。
そこがいい、というマニアは多そうである。
アリシアの方は、あつらえたようなミニスカメイドっぷりだ。
「片付けと言えばメイドヨ!」
びし! と親指を立てて、レベッカは主張する。
「メイドは親指立てない」
「メイドは正統派ヴィクトリアンスタイルしか認めません」
「突っ込みが素早過ぎるネ!!」
ルカルカとエースから同時突っ込みが入り、レベッカは泣きを入れた。
騒がしいことですね、と樹月 刀真(きづき・とうま)は呟いた。
それにしても、ヨシュアにハルカとオリヴィエ博士の行く先について聞きにきたのに、彼等より先に到着してしまった。
まさか途中でヨシュアに何かあったのだろうかと危惧する。
あまりに遅い場合は、探しに行った方がいいだろうか。
「それにしても、2人で旅行ですか……。
迷子になっていなければ良いんですけど」
ハルカを知る者なら、当然抱く心配を、刀真も抱いた。
何しろハルカの方向音痴ときたら、筋金入りだ。
「……ハルカ、迷子になったら、博士、一人で、探せるかしら……」
パートナーの剣の花嫁、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が不安げに呟く。
「……本当に『旅行』なのか……」
「刀真?」
「いや、無用の心配かもしれませんし、それを確認する為にも、ヨシュアの帰還を待ちましょう」
もしもハルカに何か不幸が降りかかるようであれば、全て自分が払う。
そう刀真は決めていた。彼女の祖父を屠り、それに対して自分に、祖父を助けてくれたと感謝した、あの少女の為に。
噂が、本人よりも早く走り回っている。
それは、噂の内容からしてみれば当然のことかもしれないが、ヨシュアが蒼空学園でコハクに女王器を渡した後、彼が空京へと帰り着くより先に、あちこちにその情報は流れていた。
事実の全てだったり、一部だったり、時に歪曲されたりしながら。
「オリヴィエ博士の家から、大量のエロ本が発掘されたそうですよ」
そして噂を聞き付けた、朱 黎明(しゅ・れいめい)の言葉に、パートナーの剣の花嫁、ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)は、
「はい?」
と首を傾げた。
あら? えっと? あの噂って、そういう感じでございましたでしょうか……?
「ふっ、やはりオリヴィエ博士も人の子。
女には興味無いようなフリをして、隠れてやってくれます。
ああいうのをむっつりスケベと言うんですよね」
ああ、これまでオリヴィエ様は男であるどころか、人間であることを黎明様に否定されていたのですね……と、ネアは思ったものの、今彼のセリフの中で突っ込む場所はそこなのでしょうか、と思っている内に、黎明はもう一度ふっと笑う。
「ともあれ、これは是非見に行かねばなりません。
大量のエロ本……楽しみです」
墓参りついでと不敵に笑う黎明に、乾いた笑顔を向けながら、こんなニヒルな笑顔で、頭の中ではエロ本のことを考えているなんて……と、ネアは頭を抱えたくなっていた。
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