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世界を再起する方法(第1回/全3回)

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世界を再起する方法(第1回/全3回)

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Scene3 遙かなる旅路

「ドンピシャあ!!」
 響き渡る怒号に、大小二つの人影が振り向いた。
 場所はヒラニプラ。山岳地帯の機械都市である。
「あっ、みっちゃん! 久しぶりなのです! 偶然なのです!」
 ぱっと顔を輝かせて、ハルカが光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)のところに走ってくる。
「偶然じゃないわ、アホんだらぁ。追って来たんじゃ。
 あんたら、善意のボランティア放って旅行とか、どういう了見じゃ。
 せめて一言残して行かんかい」
「ああ、そうか。悪かったねえ。
 旅行に行こうかって決めてから出発まで1日くらいしかなかったから、そこまで考えが至らなかったよ」
 後ろから歩み寄ったオリヴィエ博士が謝る。
「よくここが解ったね」
「ふ、俺の推理力を舐めるなよ」
 勘ではない。ちゃんと予測してここに来たのだ。
 それが当たっていて得意げにふんぞり返ってから、翔一朗は、
「ま、そいつはともかく、旅行なら俺も連れてってくれぇや。
 護衛の1人くらい、付けとかにゃあ危ないで!」
 と交渉する。
「え、それは別に構わないけど、そんな、ただの旅行だよ?
 護衛をつけなきゃならないほど危険かなあ」
 呑気なオリヴィエ博士に、日記をつけることを教えてやりてえと翔一朗は思った。
「博士、あんた以前、1人で旅してたらパラ実の連中に襲われたちうてなかったか」
「……そういえば、そんなこともあったかも」
「自宅に5人組の怪しげな奴が押し入ってきたとか言ってなかったかぃ」
「……そういえば、そんなこともあったかも」
「わー、それじゃみっちゃんも一緒に観光旅行なのです!」
 喜ぶハルカに、
「そうそう」
 と翔一朗は手を差し出した。
「お守り持っちょるか」
「どっちのです?」
 ハルカは、背負っている小さなリュックから、最早お守りの原型を留めていないお守りと、まだ新しいお守りを取り出す。
 1つは、冒険を共にしたお守り。
 もうひとつはバレンタインデーの時に翔一朗から改めて貰ったお守りだ。
「両方」
と、翔一郎はふたつのお守りに『禁猟区』を施した。

「あれ? ハルカちゃん!?」
 声が再び響いた。振り返ったハルカが、再びぱっと顔を輝かす。
「ヒーローさん!」
 ヒラニプラで、ヒーローショーの公演予定について考えていた神代 正義(かみしろ・まさよし)は、偶然の再会に驚いて駆け寄った。
「久しぶりだな! どうしてここに? ……まさか教導団に入学希望か?」
「違うのです。観光旅行なのです」
 ハルカが首を横に振る。
「というか、観光旅行の前にちょっと、ヒラニプラ登山でもしてみようかな〜と思ったけど、やっぱり諦めて、これから普通に観光旅行に行こうかな、っていうところ」
 博士の言葉に、翔一朗が視線を向ける。
「全くもー、はかせ迷子ばっかりで困りものなのです」
 ハルカの訴えに、笑ってごめんねと謝るオリヴィエ博士を、2人は同情の目で見やった。
「しかしなるほど!
 そういうことなら、シャンバラ地方のみならず、パラミタ世界を護る正義のヒーローであるこの俺に、ガイドを任せるべきだと思う!
 護衛もできて、一石二鳥!!」
 びっ、と親指を自分に向けた後、
「例えばヒラニプラ!
 俺が所属する教導団の所在地だ。機晶姫に関する技術なんか発展しているな!
 シャンバラ防衛は、教導団が担ってるんだぜ!」
 と勝手にガイドが始まる。
「例えばツァンダ。
 コハクが入学した蒼空学園があるところだな。交易なんか盛んに行われているぜ」
「まだ行ってねえぞ」
「例えばタシガン!
 霧に包まれた神秘的な、薔薇の学舎のある都市だ。
 しかし校長の趣味が特殊なので、あんまり近づかないように。ハルカちゃんなら危険は無いが! 性別的に!」
「だからまだ行ってねえっつうの」
「ザンスカール!
 ハルカちゃんが入学希望のイルミンスール魔法学校のある都市だ!
 ……魔法少女か……特撮ヒーローも面白いのに……」
 まだ引きずっている。
 というかそろそろ一発殴ってやめさせた方がいいだろうかと翔一朗が考えた時(ハルカも博士も面白そうに聞いているので頼りにならない)、ぴぴぴ、と、ハルカのリュックからメールの着信音が鳴った。
「何ィ!!?」
 リュックから携帯を取り出すハルカを、正義は愕然として見る。
「ハルカちゃん、携帯持ってたのかッ!?」
「バレンタインに博士にチョコあげたら、お返しに買って貰ったのです」
 ののさんからだ! と言った後、ハルカはきょろきょろと辺りを見渡す。
「ののさんに写メ送るのです。
 皆一緒に写るのです」
 カメラじゃあるまいし、通行人に携帯をお願いしての撮影である。
 しかしハルカはご満悦で返信を高務野々に送った。
「ちょい、その携帯貸せや、ハルカ」
 送信後、翔一朗がその携帯を取り上げる。
「俺が知ってるアドレス、全部移しちゃる。
 ハルカのアドレス知らんちうてショック受ける奴がいそうじゃけ」
 そしてその全員に、ハルカのアドレスを送信しておこう。
「あ、俺も、俺にもちょっと貸してくれ!」
 正義はハルカの携帯を受け取ると、着メロの設定をする。
「?」
「ふっふっふ、みっちゃん、ハルカちゃんの携帯にかけてみてくれ」
 着信音再生してみればいいのでは、というかお前にみっちゃん言われたくない、と思ったものの、言われた通りにかけてみれば、ハルカの携帯から、正義自作の、パラミタ刑事シャンバランのテーマが鳴り響いた。