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リアクション
第16章 それは未練か、執念か
「よく解らないですけど、何だか見覚えのある根っこですねぇ」
成り行きのままコーラルワールドにいるキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が、事情がよく解らないままに、アールキングの根を見やった。
「邪悪な意思を感じるのですぅ。
かかって来るなら、三枚におろしてキャンティちゃんの爪とぎ板にしてやるですわ〜」
某有名猫のパチ……よく似たようなゆる族であるキャンティの、一体どこから発せられているのか不明な、フシャーという威嚇音と共に、爪ではなく、銃での牽制攻撃。
だが、弾丸は幹にめり込むばかりだ。
「ちぃっですう!」
舌打ちしたところで、背後からの援護射撃で、幹が抉らるように爆ぜ、木片がばらばらと散らばった。
振り返ると、聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が対物ライフルを構えている。
「こんなこともあろうかと」
「ひじりん、流石です〜」
「……ですが、大したダメージでもなさそうですね。
お嬢様、どうやらこれは、エリュシオンの帝都で見た、アールキングの根と同じ物のようでございます。
くれぐれもお気をつけください」
「すごいですぅ〜ひじりんは何でも解るんですねぇ」
「いえ……先刻からやたら周囲より「アールキング」という単語が耳に入りますので」
「がっかりですぅ〜」
まるでコントのような二人のやり取りに呆れつつも、周囲の契約者達も、それぞれ行動する。
アールキングを、スポットに到達させるわけには行かないのだ。
「なあセルウス……じゃねぇや、ユグドラシル……様?
イルミンスールがあのアホキングにぬっ殺された後、どうやって蘇ったんよ?」
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の問いに、ユグドラシルは怪訝そうな表情をした。
ユグドラシル!? と、そこで初めて外見セルウスの存在に気付いた聖が反応する。
「私はぁ、先代のイルミンスールとは、別ですよぉ。
あのイルミンスールが死んだ後に、植えられたんですぅ」
イルミンスールが説明する。
だからイルミンスールはまだ五千歳。世界樹としては全くの下っ端で、雑草呼ばわりされている。
「あれ、そうだっけ? じゃあ無いの、復活する方法。無いの?」
「……それを知ってどうする」
正にそれを成す為に今、カラスはアールキングの根をコーラルネットワークに送ろうとしているわけだが、アキラの意図が読めずにユグドラシルは問う。
「それと同じことをすればあのアホキングも蘇るかなって」
得意げに言ったアキラに、二人は唖然とした。
つまり、アキラはカラス同様、アールキングの復活を目論んでいるのか。
「アールキングを、ですかぁ?」
「だってイルミンスールもアールキングのこと気にしてたじゃん。
そんなヤツが守護する国の人間だもん、そう考えてもしょーがないじゃん」
アキラの言葉に、イルミンスールは激しくショックを受けた顔をした。
「仮にアールキングが成長して悪さしても、早くても数百年はかかるんだろ?
そんときゃぁ俺ぁもーとっくに死んでるだろーし、そんな数百年後のことまで知ったこっちゃーないしな!
あーっはっはっはっは!」
大爆笑するアキラの前で、イルミンスールは青ざめ、ユグドラシルは、軽蔑の目をアキラに向けた。
アキラは、視線を受けてにやりと笑う。
「それに、そんときゃーその時代のヤツラが何とかすんだろ」
「何とも出来なかったなら、お前が、数百年後に世界を滅ぼす者となるわけか」
ユグドラシルは、低い声で言う。
それは、アキラにとっては数百年後の関係ない未来でも、世界樹達にとっては明日の話だ。
自らが世界樹となる世界以外を認めず、世界創造の手段として、パラミタを滅ぼそうとしたアールキング。
永い永い時を経て、ようやくその脅威が去ったと思えたところだったのに。
アールキングの復活を望むのは、お前の国の人間だから、と、そう言われたイルミンスールは、酷く衝撃を受けている。
「何だよ、アールキングも、マナがパラミタを託した世界樹の一本だろうし、その気持ちは汲んであげたいじゃん」
「……成程、お前は何も知らないのだな」
「……アールキングはぁ、ニルヴァーナの生まれですぅ……」
か細いイルミンスールの言葉に、アキラは首を傾げた。
「あれ、違うの? うーんまあいいや」
「去ね。
お前と話すことは無い」
口調に怒気を孕んでいる。
怒らせたかなーと思いながら、アキラは言われるままに世界樹達から離れた。
「仕方ない。自力で何とかしよう。
あの根を持ち帰って植える」
「ポケットに入るかシラ?」
パートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、しみじみ見上げる。
人形サイズのアリスにとって、あの根はアキラが見るより更に巨大だ。
「バッカ、あんなにいらねーよ、ほんのちょこっとあればいいんだ。
よしピヨ、とりあえず薙ぎ払え!」
ジャイアントピヨに指示を出し、アキラは余計な部分の伐採に取り掛かった。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は世界樹達に、コーラルワールドを、コーラルネットワークから切り離さずに済む方法は無いかと訊ねた。
「決まってる。アールキングより先にスポットを「確保」して、聖剣を差し込めば」
清泉 北都(いずみ・ほくと)の言葉に、「そうですぅ」とイルミンスールが頷く。
「よろしく、お願いしますぅ」
世界樹達は、スポットが何処にあるのか知っていそうなものだが、と北都は思ったが、ぱらみいを殺そうとした自分が問うても、答えてくれない気がした。
あの時の選択は、今も後悔していない。
選択をしないことは、ハルカを見殺しにすること。北都には、その方が耐え難いことだった。
だが、せめて『スポット』については、聞いておきたい。探しているものが何か解らないのでは話にならないからだ。
「『スポット』とはどんな物なのか、教えて貰えないでしょうか?」
北都の問いに、イルミンスールは、森の奥を指差した。
「地面に光の粒が集まって、円が描かれているのですぅ。
魔法陣ほどには複雑ではないですけどぉ、似たようなものですねぇ」
言って、イルミンスールは、ふと北都に微笑んだ。
その笑みが、慈愛を含んだようなものであることにドキリとする。
子供の姿を借りているけれど、そして、ユグドラシル達には雑草と呼ばれて子供扱いされているけれど、自分とは桁違いの、五千年という長さを生きた存在なのだと気付かされる。
「……人も、私も、一人で全部を護ることは、できませぇん」
「……?」
「でもぉ、自分では届かない先にいる人にもきっと、護りたいと思う人、思われる人がいるはずですぅ」
一人では不足でも、そうして補い合って、先の先にいる人にまで。
「あなたが、あなたの友達の為に選択したことを、責めたりしないですぅ。
でも、私達は私達の友達の為に、心配したり怒ったり、しますけどぉ」
だから、頑張ってくださぁい、と、送り出され、北都は、パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)と共に森の中を巡る。
クナイから渡された、『禁猟区』の施されたハンカチは、ポケットの中だ。
「見つけたら、連絡するよ」
「ええ」
別れ際、北都の言葉に頷いて、ルカルカはちら、とHCを装備しているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を見た。
コーラルワールド内では、HCによる通信が可能らしい。
ニキータ・エリザロフは、パートナーのカーミレ・マンサニージャ(かーみれ・まんさにーじゃ)から聖剣を受け取った。
「じゃあ、そっちはよろしくね」
都築中佐の行方を気にしているニキータは、彼のパートナーであるテオフィロスの元にカーミレを向かわせ、自分はスポットを探すことにした。
「はい。お姉様もお気をつけて」
HCを持っているカーミレと別行動になるので、北都達との連絡は、ニキータから定期的にテレパシーを送ることにする。
そうして彼等は、手分けしてスポットを探した。
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