リアクション
◇ ◇ ◇ 北都とクナイは、その場を探し当てた。 視界は利くのに薄暗い森の中で、その地面だけが仄かに明るい。 円と聞いていたのに、遠くから見えるそれが円ではなかったのは、その上に横たわる者があるからだと、ある程度まで近づいて気がついた。 「都築中佐……?」 スポットの上に、都築が寝かされている。 動かない都築の様子を見て、クナイが黙って首を横に振った。 「そんな……」 北都も都築の胸に手をあてる。 都築は、既に死んでいた。 脈も呼吸もなく、心臓も動いていない。 「じゃあやっぱり、テオフィロスの暴走は、パートナーロストだったんだ……」 北都は沈痛な思いで表情を曇らせたが、医学技能を持つクナイは疑問に思う。 「ですが……いささか違和感を感じます。 死体というより、強いて言えば、仮死状態というのが近いような気が致します」 間違いなく心臓は止まっているのに、身体は血の気を失っていないし、死後硬直も無い。 状況から推測し判断するなら、彼が死んでから、もう随分時間が経っている筈だ。 クナイの嵌めているデスプルーフリングに、【禁猟区】の反応による小さなヒビが入ったのを見て、彼は背後を振り返った。 アールキングの根が迫って来る。 「見つかりましたか……!」 スポット発見の先回りは出来たが、聖剣は間に合わなかった。 根が伸びて来る。 「暫く大人しくしてて貰いたいんだけどな……」 北都は襲い掛かる根を、ホワイトアウトで凍らせ、破砕する。 「北都!」 別の根が、北都の背後へ回り込んでいるのに気付いたクナイが、北都を抱きかかえてその場を離脱し、持ち上がる根を避けて、更に森の上まで上昇した。 「クナイ、此処を離れたら……!」 「大丈夫でございます」 と、クナイが地上を示す。 「お待たせ!」 北都から、HCで場所の連絡を受けたルカルカが到着した。 向こうからの連絡待ちだったニキータは、伝達が遅れたことから到着が遅れている。 「聖剣が届くまで、ルカが此処を護るわ!」 安全圏に北都を下ろし、クナイも援護に移った。 ルカルカは、根への攻撃よりも、スポットの防御を最優先とした。 「攻撃者のイメージが強いかもだけど、ルカは本来、守護者なのよ!」 霊刀布都斯魂と手甲神顕による結界で、スポットを二重に覆い、その周囲に自分と共に、ロイヤルドラゴンを配して動的盾とする。 ルカルカ達の頭上まで持ち上がり、上から潰そうと叩きつけた根は、ルカルカの結界を破壊することは出来なかった。 「ルカの結界、生半可に破れると思わないで!」 しかし、カラスの居る根の中心が此処からは遠いせいなのか、対象へ反射させる手甲の能力は、うまく発動しなかったようだ。 「効いてないっぽい?」 手応えの無さに、ルカルカは眉を寄せる。 「伝導中に拡散されたのかもしれない。随分枝分かれしているからな」 ダリルがそう推察した。 更にもう一度、二度結界への攻撃が失敗した根が、ずぶりと地中に潜る。 「させん!」 すかさず、ダリルがアブソリュート氷壁を展開、物理障壁としてその動きを阻害した。 障壁に激突した根はがくんと止まったが、更に集まる根は、とぐろを巻くようにスポットの周囲を覆い始める。 活性化を阻止する為、十六凪は、聖剣を持つニキータをペルセポネに狙わせた。 「行けっ! 此処は俺が引き受ける!」 だが、そこに現れた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がペルセポネを阻み、ニキータを先に進ませる。 「スポットが見つかったんだな……? 後は任せた」 「助かるわ! よろしくっ」 ニキータは、唯斗に後を任せて走る。 唯斗は当初、根の中心にいるカラスを何とかしようかと思ったが、強固に絡み合う根の中にいるカラスを引きずり出すのは容易ではなさそうだった。 てこずっている間に根の先がスポットを発見しては手遅れと判断して、スポットを探す者を援護する為に目標を転換、根と戦って動きを止めようと考えた。 「鴉、起動……」 枝分かれして、ニキータを追おうとする根に向けて、鬼種特殊装束【鴉】を起動、それにバーニングレッドを融合させる。 「喰らえ!」 炎を纏った一閃突きが、根を破砕した。 爆発するように飛び散った火の粉が、森の木々に燃え移り、木々が炎上しはじめる。 「しまった!」 ここは森の中だった。炎は植物であるアールキングに有効だが、同様に他の木々にも影響が強すぎる。 「ひ、酷い! 森を焼こうとするなんて!」 「不可抗力だ!」 ペルセポネの非難の叫びに、唯斗は怒鳴り返す。 「それにそれに! 植物の根を傷つけようなんて、可哀想なことは許しませんっ!」 「禍根なら、全て俺が引き受ける」 (他の奴等は、ちゃんと止めようとした……。だが俺は、独断でアールキングを殺した) アールキングは滅びた。 まだ残っているというのなら、全て滅ぼさなければならないのは自分の責任だと、そう、唯斗は考えた。 |
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