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第一章 ゆめのまたゆめ1
【マホロバ暦1190年(西暦530年) 3月15日 昼刻】
奈丹羽(なにわ)――
マホロバ太閤日輪 秀古(ひのわ・ひでこ)の命により、桜の花見が催された。
城の周り五十丁(約5キロメートル)四方を桜の木々が埋め尽くす。
ほかにも金銀と贅をつくした金堂、門、屋敷、胡麻堂が立ち並び、池や堀、滝までもが作られている。
この花見は秀古の威勢を見せつけるものであった。
マホロバ全土からは、諸侯、武将が集められた。
「桜の花はいつ見ても心が和む。美しいのう」
時の天下人の傍らには、鬼城 貞康(きじょう・さだやす)の姿があった。
貞泰はうかない顔をしている。
「どうした内府(鬼城)殿。花見の宴ぞ。もっとぱっと明るい顔をせぬか。それとも東方からの長旅で疲れておるのかなァ?」
「いえ、あいにくこの顔は生まれつきでござります。あまりにも立派な花見で、驚いているのです」
「ほう、そうであろう。このくらい、できぬようでなければ太閤とはいえぬ。このところ、くさることが続いたからなァ。世直しの桜ぞ」
「は。それにしてもよくここまで……」
貞康は言葉を飲み込んだ。
(戦で傷ついた世を建て直し、民のため、治世のためにやることが山ほどあるというのに……)
(乱心したのではあるまいな)
秀古はマホロバを平定した後、海外に目を向けた。
しかし、その遠征も、多くの将兵が異国の地で散った。
あとにはただむなしい戦いの傷跡だけが残ったのである。
「そういえば、扶桑の桜はつぼみをつけたまま。天子様は、まだお姿を現さないと伺っておりますが」
貞康は話題を変えようとしたが、太閤の声は力ないものだった。
「天子様にはずいぶんとじらされる。ここにいる者は皆、わしと日輪家に忠誠を誓った者ばかり。日輪あってこそのマホロバ、日輪あっての天下泰平。そのことをおわかりくだされば……のう、鬼城殿。私に万一のことがあったら……日輪家と天下の政治を見てくだされるか」
「突然に何を申されるか」
「突然ではない、急ぎじゃ。日輪家を見守る親となってくだされ。それができるのは鬼城殿のほかにはおらぬ」
秀古は織由家の主筋を滅ぼして天下をとった。
その同じ運命をたどるのではないかと恐れていたのであった。
秀古は自分の血族を縁組に鬼城一族へ差し出すとも言った。
「約束してくだされ。両家の絆を深め、決して裏切らぬと」
「無論。両家の絆が強くなれば、マホロバは平和となりましょう。喜んでお引き受けいたします」
「頼みましたぞ。日輪家を……天下の安泰を!」
貞康の言葉に、秀古はようやく安堵したようだった。
かつての自信あふれる秀古であれば、「自分に勝るものであれば、いつでも天下を取るが良い!」といったことであろう。
しかし今は、自分の権勢と身内ばかり気にかけている。
それも貞康にすがっている。
貞康はもの悲しく思った。
「さて、花見じゃ。花見。ここに来ている者の顔をよーく覚えておかねばのう……!」
秀古が病に伏したのはこの約一月後のことである。
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