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リアクション
プロローグ 理想に包まれた村
柔らかい光に、その村は包まれていた。
一見、それは普通の光景だ。
だが、一晩この村に泊まってみれば誰もが気付くだろう。
この村からは、夕方の赤が。そして、夜の黒が駆逐されているということに。
太陽が沈み、月が昇っても。
月が沈み、太陽が昇っても。
その村を包む明るさは、少しも変わらない。
永遠の昼を約束された村。
例えるならば、そんな状況であるのだった。
「畜生、やってられるかよ! 俺たちゃ、死にに来た訳じゃねえんだ!」
だが、そんな村にやってくる者達がいる。
平和な光景には似つかわしくない武装に身を包んだ男達。
彼等は、魔法道具専門の盗賊団……のはぐれ者だ。
何かがあって逃げ出してきた彼等は、それでも手ぶらで帰る事を良しとしなかった。
言うなれば、こんな目にあってタダで帰れるかよ……ということである。
「おい、村があるぜ……」
「へへっ、呑気な面揃えやがって……俺達はこんな目にあってるっていうのによ」
「なんか歌まで聞こえてきやがる。ケッ」
自分勝手極まりない台詞を呟きながら、男達は腰の武器に手を添える。
小さな村の一つや二つくらい、自分達で充分に略奪できる。
それを元手に、新しい盗賊団を立ち上げたっていい。
こいつは、運が向いてきた。
そんな事を考えながら、男達は歩いて。
しかし、気付かない。
自分達の耳に聞こえてくる歌が、何なのか。
自分達の感情を巧みに誘導しようとする吟遊詩人の歌が、誰から発せられるものなのか。
「あら、冴えない顔して。如何にも落ち延びてきたって感じね。情けないわ」
そこには、わざわざマイクを使って挑発する綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の姿。
先程からの歌が、さゆみによるものである事は明白だ。
「な、ナメやがって……待てコラァ!」
路地の奥へと逃げていくさゆみを追いかけて、男達も路地裏へと入っていく。
その先にあるのは、袋小路。
つまり、傍目に見ればさゆみは追い詰められたように見える。
「チョコマカと逃げやがって……追い詰めたぞコラ」
どこまで行っても芸の無い台詞。
ワンパターンの思考。
しかし、それ故にさゆみの演技が活きる。
「ねえ……お願い、許して? 私の身体を好きにしてもいいから……」
「随分とムシのいいお願いじゃねえか。あ?」
この全ては、演技だ。
だが。さゆみの恋人であるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)にとってみれば、恋人の服に手をかけている男の存在が許せなかった。
「許さない……」
だからこそ。アデリーヌの使える限りの攻撃魔法が路地裏に炸裂する。
それは、容赦の無い攻撃だ。
アデリーヌ自身、怒りで意識を飛ばしかけているが故の手加減のなさ。
さゆみに当てないのは愛ゆえだろうが、盗賊達にとってはたまったものではない。
「に、逃げ……」
アデリーヌと、反撃に移ったあゆみの攻撃の中を抜けて逃げようとする男達も、当然居る。
戦意を捨てて逃げに移ったのであれば、男達だってそれなりの場数を踏んでいる。
だが、しかし。
さゆみ達にも、盗賊達にも大きな誤算があった。
さゆみ達もまたチームの一員であり、仲間がいるということ。
その仲間の中には、盗賊達が村を狙うという事を予測していた者も居るということ。
「逃がさないであります」
その盗賊達の退路を塞ぐように待ち構えていたのは、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。
さゆみ達が罠を張ったのを見て、更にその外側にこうして網を張っていたのだ。
ただ、吹雪の狙いは盗賊達を身ぐるみ剥ぐ事、ではあるのだが……それはさておき。
「ち、ちくしょう! なんだこの村ァ! なんでこんな奴等がいやがるんだ!」
「どうでいいから身ぐるみ置いてくであります」
どっちが盗賊なんだか分からない事を吹雪に宣告されながらも、最後の一人は意識を失う。
その男を路地裏に引きずりこんで金目のモノを物色しながら、吹雪は太陽の塔の方向を見上げる。
随分と少ないが、残りはまだ太陽の塔にいるのだろうか?
「今から間に合うでありますかねえ……」
煌々と輝く太陽の塔を見上げながら、吹雪はそう呟いた。
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