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リアクション
イコン・ザ・フィナーレバトル! 10
「間髪入れずの攻撃か……まあ敵を引き付けるにはいい時間調整になるかな」
「セント・アンドリュー、マサチューセッツ、伊勢の攻撃により敵ゴーストイコンが接近。
動きにも異常はないところを見ると、マンドレイクも通常運行に戻ったようです」
高嶋 梓(たかしま・あずさ)の報告に湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が「了解」とだけ返す。
このまま敵を引きつける事が出来れば、土佐による攻撃で一気に掃討できる。
なのだが、そのためには突出してきている数十機をどうにかする必要がある。
「おーい亮一。突っ込んできてる奴等だけ相手にすりゃいいんだよな?」
「それなら任せておいて。吹雪のバックアップでそういうのは慣れてるからさ」
岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)、笠置 生駒(かさぎ・いこま)から通信を受けて亮一は考えるのをやめた。
一切の悩み事も消えて、迷いなく指示を飛ばす。
「土佐はこのまま敵大部隊に照準をロックを維持。
突出しているゴーストイコンは全て、天雷とジェファルコン特務仕様に任せる。
――頼んだ」
「りょうかいっと」
「さて、それじゃ爆発させるとするかな」
土佐の直上で守護者のように並び立つ二機、天雷とジェファルコン特務仕様。
こちらは二機、対して相手は十数機。
「こりゃーしんどいな。軽口叩かなきゃよかったか?」
「言わなくても分かると思うけど、真正面からゴーストイコン、多数接近中よ」
片目を瞑って苦笑いを浮かべる伸宏に山口 順子(やまぐち・じゅんこ)が現状を知らせる。
「ワタシ、この戦いが終わったら潰れるまで酒を飲むんや……」
「……いつもやってることじゃない。
ってかそれフラグっぽいからやめな!」
神妙な顔で欲望たっぷりの言葉を呟いたシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)に、生駒がすかさずツッコミをいれる。今まで立ててきたフラグはいくつか。
しかし、フラグは立てれば立てるほど、折れなくなるものだ。
「はっはっは! お互いしんどいだろうが、ここがふんばりどころだ」
「そうだね。でも負けてやんないよ、絶対に」
「おうよ!」
刹那、伸宏と生駒がゴーストイコンに向かって全速で前進。
スラスターを緩めることなく、アクセルをベタ踏みする以上の気概で相手に向かっていく。
「それじゃまずはワタシ、何時もの様にいきますか!」
ジェフェルコンが急停止した後、多弾頭ミサイルランチャーを発射する。
複数発射されたミサイルが次々とゴーストイコンに着弾するが、全てが当たるわけではない。
「数撃ちゃ敵にもミサイルにも当たるってな!」
20ミリレーザーバルカンを手当たり次第にバラ撒いて、着弾しなかったミサイルを誘爆させて敵を巻き込む伸宏。
一方の生駒はゴーストイコンの懐に入り込み、デュランダルを振るい敵を斜めに一刀両断する。
流れるようにして、試作型のカットアウトグレネードを投げて、相手のエンジン、レーダーを機能不全に陥らせる。
「今度は俺がぶった斬る番だな!」
大型の刀身を持つ高周波ブレードで突き出したまま、ゴーストイコンの腹部を貫き、
そのまま横へと一閃させて他のゴーストイコンを巻き込み斬りつける。
だが斬り込みが浅かったのか、敵が反撃に出ようとする。
「生駒っ!」
返事をすることもなく、生駒はゴーストイコンに無理やり体当たりして空を落ちる。
しばらくしてから生駒がその場を離れると数瞬後には伸宏の流星がごとき一射にゴーストイコンは打ち抜かれていた。
撃墜、爆発、大破、戦闘不能。
あれだけいたゴーストイコンが次々と脱落していく。
「……!」
殺気に気付き生駒が咄嗟に防御の体制をとる。だが、ゴーストイコンの攻撃に、イコンの右腕部をもってかれる。
「生駒! そいつで最後だ!」
ライフルで残りのイコンを倒した伸宏がそう叫ぶ。
生駒とゴーストイコンの距離は近く、爆発したら生駒もただではすまないかもしれない。
「……なら、何も残らないくらいの一撃でっ!」
生駒が残った左腕部で構えたのはバスターレールガン。
この距離ならば必中、だから彼女はトリガーを引いた。
瞬間、ゴーストイコンはバスターレールガンに飲み込まれて、爆破する間もなく全壊。
生駒の方も極近距離でレールガンを使ったことにより自身へのダメージを負うが、何とか堪えた。
「……いやー今回ばっかりはほんま死ぬかと思うたわ」
「じゃ生きてるね。そう思えるなら、生きてるよ、はは」
「先行していたゴーストイコン全滅!」
「――二人とも、ありがとう。
二人に続け。奴等にH部隊の咆哮を聞かせてやるんだ!」
伸宏、生駒に感謝をしつつ、敵大部隊の接近を確認した亮一が待ちに待った一撃を放った。
土佐の荷電粒子砲は、敵を飲み込み、無に還した。
「敵大部隊、消滅っ!」
「ウィスタリアと加賀に連絡、最後に思い切りぶちかましてくれ、ってな。
その後でセント・アンドリューにも連絡をいれてくれ」
土佐から連絡を受けた天城 千歳(あまぎ・ちとせ)。
「思い切りぶちかましてくれ、との連絡ありましたよ、龍一さん」
「分かった。遠慮なくやるとしよう」
既に大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)も加賀も準備は万端だ。
「砲撃を行った後は主目標への攻撃はウィスタリアに任せて、
俺たちはゴーストイコンを警戒する。……生駒が動けないようだからな」
「了解ですわ。では引き続き索敵を続行。
修理、補給に戻ってくるイコンの誘導もあわせて行います」
龍一は「ああ」と言って、イーダフェルト2号を見据えた。
ウィスタリアの方も言うまでもなく。
(ぶちかましてくれ、ですか。
もとよりありったけを撃ち込むつもりでしたから、無問題ですね)
ウィスタリア艦長、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)がゆっくりと立ち上がる。
「これより加賀との同時砲撃をイーダフェルト2号に行います。
その後、持てる弾・エネルギーを総動員します。以上です」
その説明は今後の方針を明確化すると共に、砲撃の合図でもあった。
加賀とウィスタリの同時砲撃が行われる。
イーダフェルト2号はかわせることもなく、真っ向から着弾。
そこかしこがボロボロになってきて、そのスピードも当初の半分程度にまで落ちている。
積もりに積もったダメージがようやく実りを結んだ。
「ったく、無茶するなよな」
「行けると思った」
「ドヤ顔で言うな!」
ウィスタリアの中で柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)がジェファルコン特務仕様の有様を見て、生駒を叱っていた。
「まあ、無事でよかったけどな。でももう戦うのは無理っぽいな」
「平気平気、この辺をこうイジって、ここはこーすれば大丈夫なはず……」
ボンッ!
誰もが音のするほうを振り向いた。
そこには小爆破を喰らった生駒が大の字で伸びていた。
「……いや俺が修理できるのはイコンだけだぞ!? おいいいい!」
桂輔の受難はまだ始まったばかり、かもしれない。