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リアクション
■ヴァイシャリーへ5
「皆さん、こっちです!」
遠くから学生が手を振っている。
水神 樹(みなかみ・いつき)だ。
「ヴァイシャリーはもう目の前です!
あとひと息ですよ!」
樹が手をかざす方角に、花の都が見える。
長い旅路から来る疲労で、生気を失いつつあった避難民達の目に、輝きが戻る。
何という美しい都なんだろう!
「さ、肩につかまって!」
カジカ・メニスディア(かじか・めにすでぃあ)は怪我人を優先的に、都へ誘おうとする。
周囲を警戒しているのは、万一の襲撃に備えるため。
「危ない!!」
小石につまずいた老婆を、樹は抱きとめた。
疲労困憊のようだ。
「あ、すまないねえ、足がもつれて……」
「気にしないで下さい」
樹は頭を振った。
「困っている時は、お互い様ですよ!
それに、ここまで来て怪我人なんて出したくないですし」
手荷物を預かる。
それから肩を貸した。
老人と、避難民たち全員にふわっと笑いかけて。
「ヴァイシャリーに着いたら、美味しい食事を食べましょう!
そしてぐっすり眠って、旅の疲れを癒して下さい」
「ありがとう、学生さん」
避難民達は最後の力を振り絞って、入口を目指す……。
……こうして、避難民達と学生達は、無事ヴァイシャリーへと辿り着けたのであった。
■
ヒラニプラ・機晶工房街。
「……無事にヴァイシャリーにつけたのですね?
よかった」
ホッとして、ラジオの電源をきったのは、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)だった。
「どうした? アリーセ」
壊れた機晶姫を修理する手を止めて、年老いた技師が振り向いた。
「また、ラジオが壊れたか?」
「んー、独り言ですよ。
お出かけですか?」
アリーセは席を立って、老人に手を貸す。
「行き先は、お弟子さんの店で?」
「ああ。悪いな、どうも足が悪くて……」
技師は足を引きずっていた。
だから逃げることをやめ、彼の子供とも言うべき機晶姫とともにヒラニプラに残ることにした。
そんな人達の為に、アリーセはせめて自分に出来る範囲の手伝いをしようと、ひとまずこの場にいる。
「これを見捨てることも、到底ワシにはできんからな……」
「お察し致します」
足下では、機晶姫のリリ マル(りり・まる)が本部と通信を行っていた。
えー、本部へ。こちらリリであります!
逃げ遅れた市民を発見したので『行動を共にする』であります。
いじょー!
そんなやり取りが流れてくる。
「いいのかい? アリーセ」
「よいのですよ、これで。それに……」
アリーセは聞き耳を立てた。
どこからか、笑い声が流れてくる。
子供達に、おとぎ話を聞かせているようだ。
誰かの親切な声も――。
「バカは私一人じゃないみたいですしね」
ふふっと笑う。
「今度、チェスの相手でもして頂ければ」
……そうして、アリーセと数名の学生達は残った住民達の役に立つのであった。