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戦乱の絆 第二部 最終回

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戦乱の絆 第二部 最終回
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 パラミタから地球人を排除する。
 その己の願いを果たせるのであれば、それがどんな形だろうと何でも良かった。
 滅亡だろうと分断だろうと同じ事。
 その後に自分がどうなるかなど、関係の無い話――。
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は言った。
「こう好機が何度も訪れてくれるなんて、運はあたしに味方してるのかしら」
 繭中央へと向かう通路。
 帝国へ分断の協力の申し入れた彼女は、龍騎士と、そして国頭 武尊(くにがみ・たける)らと共に、門へ続く通路の防衛に当たっていた。
 通路、といっても、手すりの無い大きな橋のような場所だった。
 外壁エリアから、繭の真ん中に鎮座する中央エリアの間には深い深い溝がグルリと存在している。
 外壁エリアからは、この橋と同じように繭糸の塊が幾本も中央エリアへと伸びており、まるで中央エリアを支えているような格好になっていた。
「メニエス様、そしてわたくしの悲願のため……このミストラル、この戦いに全てを賭けましょう」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が言う。
「そろそろ、連中が来る頃か」
 武尊が猫井 又吉(ねこい・またきち)を見やり、
「仕掛けは?」
「抜かりねぇ。
 外壁エリアの出口にも仕掛けてある。チンケな爆弾だが連中の隙は誘えるはずだぜ」


 だが、又吉によるトラップは夢見によって再び見破られることになる。


「龍騎士は私たちが抑えるわ!
 新星はメニエスを!」
 李 梅琳(り・めいりん)が自らの隊を率いながら、皇 彼方(はなぶさ・かなた)らロイヤルガードと共に龍騎士の方へ展開していく。
「了解しました」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)はラスターハンドガンを抜きながら、隊の仲間へ自分たちの目標を告げた。
 メニエスたちに対処すべく団員たちが、冷線銃を放つ又吉を牽制しながら駆けていく。
「ここは、是が非でも通していただきますわ
 島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が荒ぶる力を解き放ち、皆を強化しようとしながら続けた。
「もしかしたら、大帝の言うとおり、シャンバラと地球の分断こそが最善の選択なのかもしれません。
 それでも、私たちシャンバラ国軍は女王陛下を信じ、最後までご命令に服して戦うのみです!」
「相変わらず、そりの合わない連中だな」
 と言った武尊が蒼き水晶の杖を振るい、ヴァルナが放つはずだった力を霧散させた。
 サンダーブラストを放とうとしていた乃木坂 みと(のぎさか・みと)が、自身の魔術の消失に小さく呻き。
「申し訳ありません、洋さま」
「この、姑息な手段を!」
 パワードスーツで完全武装した相沢 洋(あいざわ・ひろし)がレーザーで武尊を狙い撃つ。
「当たるか」
 レーザーの軌跡を潜り抜けた武尊がサンダークラップを梅琳たちの方へと放ち、彼女たちの技をも封じていく。
「いつも通りの戦い方が出来ると思うなよ」
 そして――
 メニエスの放ったファイアストームがジーベックたちを飲み込んだ。


 武尊の作戦は効を奏した。
 帝国はシャンバラの先陣部隊を押さえる事に成功し、後は他箇所の龍騎士による包囲網が完成するのを待つばかりだった。
 しかし、シャンバラ側の後方の守りと陽動の成功がここで効いてくることになる。
 シャンバラ側が稼いだ時間の経過に伴い、徐々に数の差が優劣を逆転させ始める。

「地球人の居ないパラミタ――
 それが、あたしの夢、理想……!」
 メニエスは満身創痍といった状態になりながらも、次々に魔法を撃ち放っていた。
 スキル封じの手段は早々に途切れており、
 打ち倒しても打ち倒してもシャンバラの者たちは立ち上がり、己へと迫って来る。
 やがて、彼女たちは橋の縁へと追い込まれていた。
「退け! 俺ァ目玉のオッサンに言いてぇことがあるんだよ!」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)のトライデントをミストラルがカタールで受け、弾く。
 と――側方へ回り込んでいたゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の放たった矢がメニエスを貫く。
「ッ、メニエス様!」
「――しつこいのよ!!」
 メニエスは怒号と共にエンドレス・ナイトメアによる闇でハインリヒたちを地に倒れ込ませた。
 どうせ彼らは、すぐにヴァルナや天津 亜衣(あまつ・あい)レナ・ブランド(れな・ぶらんど)らによって回復、強化されて向かってくることになるだろう。
 対して、こちらはダメージを蓄積しながら、相手とは比較にならない速度で消耗させられていっている。
 向こうの方で戦っていた龍騎士が敗北したのが分かった。
 武尊と又吉はまだ保っているようだったが、それもすぐに尽きるだろう。
 だが、そうだとしてもメニエスに退く気は無かった。
 口腔に溜まっていた血を吐き捨て。
「ここは通さない……。
 今度こそ、あたしの願いが叶うというのに――
 貴様ら如きに、邪魔をされてたまるものか!!」
 と、彼女が自分たちを狙う契約者へと魔術を放った直後。
 眼前に気配が溢れた。
 それは、超霊によるモンスター。
 赤黒い肉塊に咲いた幾つもの亡者の口が開かれ、メニエスへと衝撃波を伴う奇声を発する。
 普通に遭遇していたならば、大した相手では無かっただろう。
 しかし、今は余りにもタイミングが悪過ぎた。
 メニエスをかばうために飛び出したミストラルが見えた。
 刹那、ゴッという衝撃。
 そこでメニエスの意識は途切れた。

「――ッ!!」
 ゴットリープは橋の縁へと駆けて、手を伸ばしていた。
 モンスターの放った衝撃波によって吹っ飛ばされたメニエスとミストラルが橋の外へと放り出されて、
 ゴットリープの手の届かない先、どうしようもなく深い溝へと落下していく。
 後方では新星の仲間たちがモンスターを撃ち倒している音がしていた。




「――ここまで辿り着いたか」
 無数の光の鎖で組み上げられた巨大な『門』。
 側近の龍騎士と共にアルコルドは、そこに立っていた。
 辿り着いた契約者たちに背を向け、門に手を置いている。
「門を、開けて頂けないでしょうか?」
 ジーベックが言う。
「貴方がウゲンの超霊を押さえてくださっていることには感謝しなければならない。
 このように対立してしまっているとはいえ、貴方の力によって最悪の事態が防がれているというのは事実です。
 出来るならば、貴方に不要な危害を加えることなく此処を通りたい」
「頼む、アスコルド大帝」
 神条 和麻(しんじょう・かずま)蒼井 静(あおい・せい)が続ける。
「もう、これ以上争う意味なんて無いはずだ。
 誰かが傷つく道を選ぶ必要はない」
「そこに一人でも多くの人を救える道があるなら、私たちはそれを信じ抜く……だから――」
「我にも、それを信じろと?」
 大帝の声に感情は無かった。
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は、一つ息をついた。
 彼はシャンバラの契約者たちの中に居た。
 ゾディアック内部の戦いでウゲンの側へついていたものの、結果として英照をウゲンより助け、シャンバラに損害を与えることは無かった。
 それを証言する者も多く、彼はシャンバラの作戦へ参加することが許可されたのだった。
 天音は大帝の背を見つめ。
「一つ、聞かせて欲しいのだけど。
 地球との繋がりを断ったところで、パラミタの崩壊を止めることはできないでしょ。
 やがてアトラスが寿命を迎え大地を支える神は失われる。
 分断が叶えられた後――貴方は、『全ての平和』のためにどうするつもりなのかな」
「世界の絆が断たれた後、完全に世界が分離するまでの間にブライトオブシリーズを集め、ニルヴァーナへの道を開く。
 そこで、我らは汝らの手を借りることなくパラミタの民を救う方法を探ることになろう」
「待て」
 言ったのはルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)
 彼は厳しい視線で大帝を睨みやりながら、固い声で問いかけた。
「つまり、ニルヴァーナには侵略をしに行く訳ではないのだな?」
「侵略を目的としているわけではない。
 我が望むのは、パラミタに住まう多くの民を救うことのみダ」
 返ってきた言葉に、まだ何か言いたげなルオシンを軽く見やってから天音は言った。
「パラミタの民を救う――
 そこには当然、シャンバラの民も含まれているのだと思うのだけれど。
 分断によって起こり得るかもしれない大量のパートナーロスト。
 西シャンバラの大地の崩壊。
 これだけの犠牲に加え、この分断が地球とパラミタに滅亡をもたらすかもしれないという事については、どう考えているのかな?」
「過去、地球に魔法などが残ったように分断が必ずしも全てを別つとは限らぬ。
 そして、西シャンバラは既に避難を始めていると聞く。
 分断が行われたとて、大地が崩壊するのは地球との分離をほぼ果たした頃だと考えられる。
 当然、我ら帝国も避難の協力を惜しむ気はないしナ。
 とはいえ……。
 今回の分断が実際にどのような事象をもたらすかは、全ての者にとって可能性の域を出ぬことが多い。
 ましてや、その先に起こり得るだろうことは自身の視点から測れる憶測のみ。
 だが――この分断は前女王アムリアナが望んだことダ。
 アムリアナが世界の滅亡を願っていたと、汝は思うカ?」
 大帝の言葉は続けられる。
「アムリアナの考えを我が代弁してやろう。
 2つの世界が結ばれたことにより、互いの文明は爆発的な進化を遂げている。
 これは今後加速していくだろう。
 世界にあるのは、その速度に耐えられる者ばかりではない。
 軋轢もまた加速していく。
 既に、正常なバランスは失われているといっていい。
 今までとは比べ物にならぬほどの歪み。
 その巨大な歪みは争いの連鎖を産み続ける」


「そんな理屈はいい!
 それより、お前は今はもうアスコルドで御人良雄なんだろ!?」
 夢野 久(ゆめの・ひさし)が叫ぶ。
「御人もコントラクターなんだぞ!?
 分断しちまったらどうなっちまうか分からねえのはお前もじゃねえか!」
「先に言ったように、予測できぬ部分があるのは確かダ。
 だが、確定されている部分もある」
「……少なくとも地球人である御人良雄がパラミタから離れようとする、という事か?」
 佐野 豊実(さの・とよみ)が言う。
「今、貴方の体は物理的に融合を果たしている。
 その体内に御人君の動脈が走っているくらい物理的に……」
 だから容易に分離させることは出来ない。
 だが、世界の分断の作用を用いれば?
 そして……良雄の力を手に入れた大帝が、今度は良雄の意識を邪魔な異物であると考えているのだとしたら――
「つーか御人! 聞こえてるか!? いや、聞こえてろ!!
 まさか忘れてねえだろうなァ!
 立川もコントラクターなんだぞ!!
 惚れた女に危険な橋わたらせる気かテメー!!」
「その件は、もう終わってますわ」
 大帝の傍に控えていたサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が言う。
「終わってる……だと?
 どういう事だ?」
「その件は、『御人良雄自身が既に決着をつけている』のです。
 そうでしょう?」
 サルガタスが、その場へ姿を表していた立川 るる(たちかわ・るる)の方を見やった。
「メール、ご覧になったでしょうに……引き返さなかったのですわね。
 まだ未練が?」
「ななーななーー!!」
 立川 ミケ(たちかわ・みけ)が何かに気づいたらしく怒りをぶちまけていたが、残念ながら、その鳴き声の意味を理解できるものは只の一人としてその場に居なかった。
「良雄くん……」
 るるが、大帝の背を見やる。
 そして、彼女は、
「世界の平和まであと一歩だね!
 良雄くんも頑張ってるっていうから、応援しにきたよ!」
 表裏皆無な笑顔で言った。
 サルガタスの口元がヒクッと揺れる。
「るるはこの戦いが終わったら合コンするんだ。
 それで出会った人と海や山で摩訶不思議アヴァンチュールでロマンチックもらうのー」
 アヴァンチュールって辞書で引いたら『冒険』って意味だったよ、と補足がされてから。
「知ってる人も知らない人もたくさん呼んで楽しい合コンにしたいなぁ。
 で、良雄くんも……ううん、良雄くんはアスコルドさんがいるから、誘うわけにはいかないよね。残念」
 るるが楽しそうに続ける言葉を横に、サルガタスが少々苛つきを覗かせながら大帝の様子を見やる。
 大帝の肩は小刻みに震え、その声は「る……る……」と繰り返し始めていた。
「あ、そうだ。良雄くん、さっきメールありがとね」
 そこで、るるの声が初めて少し陰った。
「『忘れてほしい』なんて書いてあったから、少しビックリしちゃった。
 でも……ごめんね。
 るるが良雄くんを忘れられるはずなんてないよ」
「る……るる、さん!!」
「だって……るる、『ずっと、ずーーーーっと友達でいようね』って、言ったでしょ?
 だから、今までもこれからも、るると良雄くんは何があっても絶対ずっと『友達』だよ!!」
 ――ずっと『友達』だよ――『友達』だよ――『友達』――ずっと――
 その言葉は、無情に反響して繰り返されながら消えて行った。
「ごぶふぅっっ!!!!」
「ア、アスコルド様!?」
 側近が崩れ落ちそうになった大帝の体を支えようとする。
 しかし、大帝はすぐに何でも無かったかのように立ち、『アスコルド』の雰囲気に戻った。
「希望から絶望のコースか」
 豊実が煙菅を食みながら零す。
「御人君のことだから、それほどダメージは深くないとは思うが。
 なむ」
 哀れな男のために、彼女の手が合される。