校長室
リアクション
● 愛機テュールに乗る鬼院 尋人(きいん・ひろと)と、そのサブパイロットの呀 雷號(が・らいごう)は、戦場を飛んでいた。それは出現した旧王都の裏側に近い空で、各学舎のイコン部隊や地上部隊が、魔物やゴーストイコンとさまざまな戦闘を繰り広げていた。 その戦場にあって敵の誘導に努める尋人は、雷號にふとこうたずねられた。 「尋人、本当にこれでよかったのか?」 それは、次期女王候補であるネフェルティティ、ひいては理子たちの側で戦おうとする尋人への問いかけだった。 尋人は「ああ」と答えた。 「本当の女王が誰が相応しいのかは、オレにはよくわからないけれど……でも、それでもオレは、あの女が女王になるのは認められない。自分たちの大事な世界を、シャンバラを、任せる気にはならないんだ」 尋人自身も、悩んだ末の答えだったのだろう。その声音には決然としたものが宿っていて、雷號はそれにわざわざ異を挟もうという気にはならなかった。もとより、彼は尋人と共にあることを選んで生きている。尋人の判断がそうであるのなら、それを同じように信じていくのが彼の生き方だった。 「お前がそれで良いのなら、かまわんさ」 だから雷號は、そう言った。 「どのみち戦わないといけないところまでは来ているんだ。今は、思い切り攻めるぞ!」 尋人はその言葉にうなずき、テュールを戦場へ向けて動かした。 右側に敵を引きつけるクリストファーたちと動きを合わせるため、尋人は左側へと向かった。テュールの動きに気づいたゴーストイコンが接近してきたとき、攻撃担当の雷號はそれをソウルブレードで切り裂く。逆に進路上の中間距離にいた敵には、彼はハンドガンの銃弾を撃ち込んでやった。 集合し、牙城と化していく敵イコンたち。尋人はそれに向かって、言い放った。 「さあ、来い! オレたちが相手だ!」 テュールのスラスターが、空に舞った。 ● イコンルドュテは、上空から勢いよく滑空した。 マントを翻し、敵イコンの目の前にまで迫ったルドュテは、まず蹴りを放って先頭の一機を打ち崩す。それから蹴った足を軸に宙返りしたルドュテは、その蹴り飛ばした敵イコンの頭部をウィッチクラフトピストルで撃ち抜いた。 まさに一瞬の出来事だった。ゴーストイコンたちは、そのあまりのスピードとパワーに圧倒されていた。 パイロットは、メイン搭乗者は清泉 北都(いずみ・ほくと)。サブ搭乗者はクナイ・アヤシ(くない・あやし)だ。 クナイは索敵と情報管理を担当し、北都はメイン機器を操作していた。敵イコンがこちらに圧巻されて沈黙したところを見計らって、北都はルドュテを突貫させた。ソウルブレードを装備したルドュテは、残る敵を接近戦へと持ち込む。 敵のゴーストイコンが放つビームライフル、それに高周波ブレードの刃を、木の葉でも揺らすように華麗に避けると、そのカウンターで頭部を貫いた。ソウルブレードの刃が、敵イコンの頭から飛びだしている。さらに北都は、ルドュテを動かして次々と敵を破壊していった。無駄な動きのない、一点集中の撃破。敵ゴーストイコンの爆破音が、戦場に轟いた。 そのとき、クナイが叫んだ。 「上! 敵機、来ます!」 索敵を担当している彼のモニタに、敵反応が映ったのだ。 警告を受けた北都は、すぐさま機体を翻し、振り返りざまにその敵イコンを切り裂いた。胴から上下に真っ二つになった敵イコンは、一瞬のタイムラグののち、爆発する。その爆風を受けて、ルドュテのマントはばさぁっと吹き飛ばされた。 「力ある者が女王となる。……その図式は、間違ってないんだろうけどね」 北都はつぶやいた。それは誰にとも向けたものでない言葉だった。 クナイは聞いてはいたものの、あえて返答しなかった。返答を期待しているわけでないことも、わかっている。 北都は続けるように、言った。 「だからといって、納得は出来ないもんだよ」 それは意思の再確認のように聞こえた。 ルドュテのソウルブレードが、光の粒子の音をぶぉんと立てた。 |
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