校長室
リアクション
● 自機イコンフロンティアに乗るリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)と赤城 花音(あかぎ・かのん)は、近づいてくる敵イコンを機晶ブレード搭載型ライフルとツインレーザーライフルの二丁撃ちで打ち崩した。 「クリストファーさんの案では、敵を二手に分割させるようですね」 と、リュートが言った。花音は「了解だよ!」と答えた。 「ネフェルティティ様が宮殿に辿り着くためには、進路上の敵を倒さないといけない! ボクらで道を切り開かないと!」 花音はそう叫んだ。胸の中には、特別な思いがあった。 花音とリュートの二人は、ネフェルティティが呪われ、ダークヴァルキリーとなっていた時代のことを深く知るわけではない。だけども、次なる女王の座をアルティメットクイーンに渡してはならない、ということはわかる。少なくとも花音は、それが正しい道だと信じていた。 「そりゃ、力ある人がみんなを導くっていうのは、間違ってないと思う……。だけど、それだけじゃないはずだよ! 苦しんで、悩んでいくからこそ、得られるものもあるはずなんだ! ボクは、自分の頭で考えることを、放棄するつもりはない!」 花音は思いの丈をぶつけた。 それを聞いたリュートは「そうですね」とほほ笑んだ。彼もまた、同じ気持ちだったのだ。 二機の部下イコンを連れたリュートは、フロンティアを動かして進路上の残された敵のもとに接近した。そして、二丁の銃を使い分け、次々とそれを撃破していく。左右に構えた部下イコンの要は、そう簡単に解けるものではない。三機の火力が、敵を圧倒した。 「戴冠式の成功のため……頑張りましょう、皆さん!」 リュートは通信機を通じて、仲間たちにそう呼びかけた。 ● 自機イコン稀緋斗に乗る上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)と、そのサブパイロットの戒 緋布斗(かい・ひふと)は、味方全体の位置をレーダーで捕捉し、それぞれに指示を出すことに集中していた。 先がどうなるかは、唯識にはわからない。アルティメットクイーンが女王にふさわしいとも、ネフェルティティが次期女王になるべきだとも、考えたことはない。だが、唯識には薔薇の学舎の生徒たる誇りがある。ルドルフ校長の意思を信じて戦うことは、唯識にとって十分な戦いだった。 「それにしてもルドルフ校長って、お芝居がかった感じじゃなくて、普通に話せばもっとカッコいいと思うんだけど……」 唯識は与太話のつもりでそんなことを言い出した。 緋布斗はそれに対し、「それが美しさというものなのでしょう」と返した。 「美しさかぁ……」 唯識にはあまり理解できない感覚で、理解に苦しんだ。 ルドルフ校長のことは尊敬しているが、時々、その感覚についていけないことがあるのだ。 悩む唯識に、緋布斗は言った。 「『美しい』というのは『誠実であれ』ということではないでしょうか」 それを聞いた唯識は、目を丸くした。 なるほど。確かにそれは言えてるかもしれない。少なくともルドルフ校長にとっては、そうすることが誠実たる証なのかもしれない。目から鱗が落ちた気分で、唯識はほほ笑んだ。 「……うん、わかったよ、緋布斗」 「そうですか?」 逆に緋布斗は、自分で言っておきながら、それが唯識にどう影響したかわからないでいた。とはいえ、ひとまずは、唯斗が納得してくれるならそれでいい。そのつもりで、緋布斗は「それなら、よいのですが……」と言った。 「誠実であれってことだよね。僕も、ルドルフ校長みたいに頑張るよ」 唯斗は笑い、そして通信機を通じて仲間たちに言った。 「敵、分散確認終了! これより包囲に入る!」 モニターに映る敵影の数は、左右に分断され、知らずのうちに道を作っていた。 「僕らもクリストファーたちを応援に行こう」 唯斗はそう言って、稀緋斗を移動させはじめる。そのとき、緋布斗はぼそりと言った。 「君は十分、誠実ですよ」 もちろんその声は唯斗には届いておらず、緋布斗のほほ笑みを知る者も、誰もいなかった。 |
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