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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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    ★    ★    ★
 
「あれはなあに?」
「んっ? あれかい。あれは、本って言うんだよ」
 膝の上に乗った彩音・サテライト(あやね・さてらいと)に聞かれて、緋山政敏が説明した。
「へえー。じゃあ、あれはあれは?」
 いろいろと指さされて、緋山政敏が一つ一つ説明しようとした。だが、そのとき、妙な悪寒を感じて、ブルンと身を震わせる。まるで、自分が何かの賭の商品にされたような気がしたのだ。
「どうしたの、寒いの?」
 心配した彩音・サテライトが、緋山政敏の顔を見あげるようにして訊ねた。
「いや、大丈夫。じゃあ、今度は絵本でも読んであげようか」
「わーい」
 緋山政敏に言われて、彩音・サテライトが無邪気に喜んだ。
 彼女は、巨大イコンの内部保安用機晶姫の生き残りだ。綺雲菜織との戦いで損傷し、命令やデータを初期化されたところを保護されて今に至っている。ロングTシャツを着てミニスカートを穿いた姿は、頭でっかちな幼児と言ったところだ。ショートの金髪にはヘアバンドを着け、つぶらな蒼い瞳でいろいろな物に興味をむけている。
 緋山政敏は銃型ハンドヘルドコンピュータで、彼の作った絵本の映像を空中に投影しながら語り始めた。
「昔々、ある所に、茨に囲まれたお城がありました。
 そのお城には、なんでも呑み込んでしまう、悪い龍が棲んでいたのです。
 龍の周りには、龍によって手下にされてしまったたくさんの黒騎士や子供たちがいました。彼らは、龍のお世話をするために、ずっとお城で暮らしていたのです。
 龍は、どんどんなんでも食べていきました。
 このままでは、龍のお腹が破裂して世界が壊れてしまいます。
 そこで、一人の女騎士と男の子が龍を倒しにやってきました。
 龍は命じます。その者たちを倒せと。
 女騎士と男の子は、無理矢理騎士や子供たちと戦わされて悲しくなりました。でも、二人だけでは龍を倒すことはできません。そのため、二人は自分たちの命で龍を封印することにしました。
 そして、黒騎士たちと子供たちもまた、永い眠りについていったのです。
 けれども、やがてその眠りを妨げる者たちが現れました。
 女騎士は、みんなに助けを求めました。その声を聞いた者たちが、城へと集まってきます。
 激しい戦いの中、龍は空へと飛びたちました。その背に乗った男の子が、自分の姿を剣に変えて龍を突き刺します。急所を突かれた龍は、火山に落ちてとうとう死んでしまいました。
 男の子を失った女騎士は、男の子の形見と共に石になってしまいました。
 けれども、みんなのおかげで、たった一人だけ、子供たちの一人が助かったのです。
 その子は、ようやく、目を覚ましたのでした。
 おわり」
「うーん、よく分かんない。でも、なんだか、知ってるようなお話だったー」
 ちょっと難しい顔をして、彩音・サテライトが言った。
「そう。聞いたことがあるのかもしれないね」
「この御本あるのー?」
「うーん、ちょっと待っててね、データを印刷してもらおう」
 そう言うと、緋山政敏が図書館のカウンターへむかった。その後を、彩音・サテライトがふよふよと宙に浮かびながらついていく。
「はい、これ」
 コピーサービスで、データを印刷製本してもらった緋山政敏が、彩音・サテライトに絵本をプレゼントした。
「わーい、ありがとー」
 その本を受け取ると、彩音・サテライトそっとそれをだきしめた。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、おかいものっ♪ おっかいもの♪」
 あさにゃんストラップ限定Verを腰から下げた富永 佐那(とみなが・さな)が、久しぶりの海京にうきうきしていた。
「さあ、いっきましょう。あなたも手伝って」
「はいはい」
 榊 朝斗(さかき・あさと)の手を引く富永佐那に言われて、立花 宗茂(たちばな・むねしげ)が背中を押して手伝う。
「おいおい、今度はどこに行くんだよー」
 両手に荷物の入った紙袋をいくつも持たされた榊朝斗が、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)に助けてくれーと叫んだ。
「ええっと、朝斗……」
 榊朝斗に買ってもらったでっかい竜のぬいぐるみをだきしめたアイビス・エメラルドが、どうしたらいいかと隣にいるルシェン・グライシスの方を仰ぎ見た。
「お買い物は、女の子の華よ。諦めなさい、朝斗。さあ、みんな、例の店にレッツゴー!」
 ひときわ乗りに乗っているルシェン・グライシスが、前方を指さした。
 その横を何かが走り抜けていく。
「ああ、あっちの路地が手薄そうやで」
「ほうか、ほならダッシュや!」
 ずどどどと、通りを謎のふたこぶラクダが走り去っていく。
「なんでラクダがこんな所に……」
「着ぐるみですから、ゆる族みたいですな。しかし面妖な……」
 驚いて立ち止まるアイビス・エメラルドに、立花宗茂が言った。
「待ってー。ちょっと、ちょっとだけでいいのよー」
 ふたこぶラクダたちの後を追いかけて、オルフェリア・アリスが富永佐那たちの間を走り抜けていく。
「なんという速さ、あれこそ真のパルクールに違いないよね。負けないんだもん。ドールちゃんお願いねー」
 そう言うと、鳴神 裁(なるかみ・さい)物部 九十九(もののべ・つくも))が、まるで障害物のポールをジグザグに避けるように、榊朝斗たちの間をみごとにかいくぐりながら、流れるように通りすぎていった。その先の角で、街灯の柱に手をかけると、くるんと直角ターンを決めてオルフェリア・アリスたちの後を追いかけていく。
「いい、いいですよ、裁さん、いや、九十九さんなのかな。とにかく、配信はバッチリです」
 鳴神裁(物部九十九)の走る姿を、シルフィードに似たイコンプラモの搭載カメラで撮影してネット配信しながら、ゼイゼイとドール・ゴールド(どーる・ごーるど)がかなり離れて後を追いかけていく。
 さすがに鳴神裁には追いつけないものの、複数飛ばしているイコプラのカメラは、鳴神裁(物部九十九)の姿をバッチリと捉えていた。もっとも、現在身体は鳴神裁だが、中身は憑依している物部九十九である。ぜひとも鳴神裁の運動神経を使って、格好いい自分の姿――とはいえ、見た目も何も鳴神裁であるから映像的には物部九十九の面影は何もないわけではあるが――を広く見てもらいたいという壮大な野望なのであった。
「待ってー、チャックー」
「もう、しつこい! 前足はん、こうなったら二手に別れるで」
「無茶言いまんがな!」
 そんなことをしたら、哀れふたこぶラクダさんバラバラ殺人事件になってしまうと、ふたこぶラクダ【前足】が叫んだ。
「海にむかう階段やー」
 転ぶなと、ふたこぶラクダ【前足】がふたこぶラクダ【後ろ足】に注意をうながした。
 ひょいひょいと、鳴神裁(物部九十九)が階段の手摺りを華麗なステップで左右に飛び跳ねながら下りてきた。途中で追いついたふたこぶラクダさんの背中でトンと宙返りする。
「うきゃあ、何すんねん」
「こ、転ぶ……」
「追いついたあ!」
 バランスを崩したふたこぶラクダさんの二人の背中に、オルフェリア・アリスが飛びついた。
「チャックは……ない? やっぱり、噂は嘘だったのですね!」
 ふたこぶの間にまたがって背中のチャックを確認したオルフェリア・アリスが喜んだ。その直後に、階段を踏み外したふたこぶラクダさんと一緒に転げ落ちていった。
「なんでやねーん!」