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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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「ここが、空京大学か。まったく、キマクに比べたら、なんて人が多いんだ。臭うぜ、臭うぜ。奴ら、絶対ここに隠れてやがるぜ」
 空京大学の校門前で、如月 和馬(きさらぎ・かずま)がキョロキョロと周囲を見回した。
 如月和馬が捜しているのはパズラ・キマクたちだ。現在行方知れずだが、キマク家の者を取り込むことができれば、キマクでの一定の地位を確保できると如月和馬はにらんでいるらしい。だが、はたして、それが正しいのか的外れなのか……。
「はあ、いったい、それに何の意味があることやら。でも、まあ、可能性を一つずつ確かめて潰していくのは間違いではないというか、和馬らしいというか……」
 アーシラト・シュメール(あーしらと・しゅめーる)が、深い溜め息をつきながら、意気揚々と人捜しをする如月和馬を手伝って周囲を見回した。アーシラト・シュメールとしては、すでに失脚した者に価値が残っているなどとはとうてい思えない。とはいえ、無意味であるなら、無意味であることを自覚するためにこういったステップも必要なのであろうと考えて割り切っている。
「パズラ・キマクはBLが大好物と聞いたことがあります。この付近の、いかがわしい同人書店か、執事喫茶あたりを捜してはいかが……」
「それだぜ!」
 何か閃いたのか、アーシラト・シュメールの言葉を最後まで聞かないうちに、如月和馬が駆けだしていった。
「人の話を最後まで……。もう、いつも通りですね。和馬、待ってください。和馬ー!」
 やれやれと溜め息をつきながらも、それほど嫌ではないといった態度で、アーシラト・シュメールは如月和馬の後を追いかけていった。
「行っちゃったかな……」
 如月和馬たちが姿を消したことを確認すると、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が物陰からそそそっと姿を現した。
「あっ、来た来た。ミリアさん、こっちです、こっち」
 そんなミリア・アンドレッティの姿を見つけた九十九 刃夜(つくも・じんや)が、大きく手を振った。
「九十九さん、しーっ、しーっ」
 あわてて近づいてきたミリア・アンドレッティが、静かにと指を唇に当てて焦る。
「どうしたんですか?」
「今、ちょっと怖い人たちが校門の所にいたんです」
 如月和馬たちのことを指して、ミリア・アンドレッティが言った。男性恐怖症のミリア・アンドレッティにとっては、如月和馬のようなパラ実生は大の苦手だ。
「怖い人? 大丈夫ですよ、僕がいますから」
 九十九刃夜が、安心するように言う。
「ええ。それで、待ちましたか?」
「いいえ、今来たところです」
 お約束通り三十分前に来ていた九十九刃夜が、パターン道理に答えた。
「それじゃあ、行きましょうか」
 そう言って歩き出す九十九刃夜の三歩後から、ミリア・アンドレッティは歩き出した。
 
    ★    ★    ★
 
「やっぱ、やんなくちゃだめか?」
 空大の訓練場で、日比谷 皐月(ひびや・さつき)翌桧 卯月(あすなろ・うづき)にむかって言った。
「当然でしょ。今の自分の姿を見ても、そうだとは思わない?」
 翌桧卯月が、日比谷皐月の姿を指さして言い返した。
 その日比谷皐月は、騎士らしい鎧で全身をガードした上で、分厚い溶岩の盾を持っている。武器としては疑似神格槍を持っているが、実質防御主体の装備だ。それを心配するかのように、おつきの武官の少年がチルーの首をなでて落ち着かせながら後ろの方から見守っている。
 対する翌桧卯月の方は、かなりの軽装だ。鎧は、動きやすさを重視して身体のラインにぴったりとした胴鎧となっている。その上で腕と足に部分鎧を着けて補っている。メイン武装は弓ではあるが、格闘をも視野には入れている。こちらは、後ろの方でガーゴイルと獅子たちが咆哮をあげて応援していた。
「これか? 分かっちゃいるけど、これがオレの戦闘スタイルだからなあ。耐え抜いての必殺の一撃。ぶっちゃけ、それしかできねーんだよな。それより、こんなことしている間にも何か起こったりしないかって思うんだが……」
 日比谷皐月が、自分の装備をそう説明した。
「それは気を回しすぎ。たとえ何か起こったとしても、そんなんじゃ他の人の足手まといだわ。寝言は、私を倒してから言いなさい」
 ここぞとばかりに、翌桧卯月が日比谷皐月を挑発した。これで少しでも奮起してくれればいいわけなのだが。
じゃ、いっちょやりますか
「行くわよ!」
 言うなり、翌桧卯月が弓を神速で連射してきた。すかさず、ファランクス体勢で日比谷皐月がガードする。
 サブマリンシールドは頑強だが、完全に防御体勢を取ってしまうと身動きがとれない。近づいてしまえば、弓を引いてる敵は無防備に近いだろうから、この体勢のまま威圧的に接近するしかないだろう。
 日比谷皐月は、決定打を与えられないままゆっくりと移動して間断なく攻撃を続けている。問題は矢の数だ。
痛くも痒くもねーな。それじゃ、オレには勝てねえ!」
 攻撃に耐えきってしまえば、必殺の一撃があると、日比谷皐月はじょじょに翌桧卯月を追い詰めていった。
「どうかしら」
 最後の矢の一本を、翌桧卯月が日比谷皐月の顔面にむけて放つ。すかさず、日比谷皐月がシールドで防御した。これで、もう敵に武器はないはずだ。
 だが、顔の前に掲げたシールドを下ろしたとたん、日比谷皐月は翌桧卯月の姿を見失ったことに気づいた。あわてて周囲を見回す。
「遅い!」
 背後から翌桧卯月の声が響いた。
 急いで振り返る顔面に、ブラインドナイブスで背後を取った翌桧卯月の長く編んだ髪の毛が、羅刹の武術で叩きつけられるようにして絡みつく。
「間合いが……」
 槍では、懐に入られては対応しにくい。髪の毛を叩きつけるための回転をさらに利用した翌桧卯月の手刀が日比谷皐月の首筋に決まる。かろうじて龍鱗化で防ぎはしたものの、さらに回転した翌桧卯月の足が回し蹴りを浴びせてきた。
 バランスを崩して日比谷皐月が倒れた。
 その手首を踏んで動きを止めながら、仁王立ちになった翌桧卯月が弓の弦を日比谷皐月の喉元に当てる。本気で動かせば、簡単に喉を断ち切れるだろう。
「待つだけじゃだめよ?」
 日比谷皐月の身体をまたぐようにして立った翌桧卯月が言った。
「ちゃんと攻撃できるように身体を鍛えないと。さあ、もう一本行くわよ」
 そう言って身をかがめると、翌桧卯月は倒れている日比谷皐月に手をさしのべた。