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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ここは……コスプレショップ……。帰らせてもらうよ」
 ルシェン・グライシスに連れられてきた店を見て、さっと榊朝斗が踵を返した。
「だめだめ、さあ入るの」
 ルシェン・グライシスと立花宗茂が左右からがっしりと榊朝斗を押さえ込んで店の中へと引きずり込んでいった。
「いらっしゃいませ☆ あ〜さ〜にゃ〜んv」
 ブルーのウイッグとグリーンのカラーコンタクトをつけ、ブルーのベストブラウスとセパレートタイプの袖、大きく横があいた巻きスカート、ロングブーツにストッキングという姿の店員らしき人が榊朝斗の前に現れて言った。
「何やってるんだ、佐那……」
 ちょっと冷たく榊朝斗が言い返す。
「何をおっしゃいます☆ 私はコスプレネットアイドル海音シャナですよお☆」
 うふんと、富永佐那がウインクしたが、榊朝斗は逃げだそうと必死に抵抗している最中で聞いちゃいなかった。
「ささ、いらっしゃいませ☆ あ〜さ〜にゃ〜ん☆ 魅惑の更衣室へ★」
「よせ、やめろー」
 有無をも言わせず、榊朝斗が富永佐那とルシェン・グライシスによって更衣室に連れ込まれていく。
「よせ、やめろって言ってんだろー。やめろー、お前らどこに手をかけて。やめてー、返してー。ああん、やめてください……」
 はらはらとなりゆきを見守るアイビス・エメラルドの前で、抵抗しているはずの榊朝斗の声がだんだんと弱々しくなっていく。
「まずは定番の、魔法少女マジカルメイド☆あさにゃんです★」
「やめてくれー」
「分かりました、一人では恥ずかしいのですね★ でしたら、私も一肌脱ぎましょう★」
「こ、こら、いったい何をする……やーめーてー」
「大丈夫です、誰も見ていませんから。お互いすっぽんぽんなら平気です★ ほら、魔法少女の、変身前のお約束ですし★」
「カメラ、カメラ……。ああ、忘れるなんて……。こうなったら、永遠に記憶です」
「こら、ルシェン、黒歴史増やすな!」
「かんせーい★ まじかるあさにゃん、あーんど、海音シャナ、惨状じゃなかった、参上★」
「記憶、記憶……。ああ、そうだ、携帯がありましたね」
 パシャ、パシャ。
「さあ、次はナースですよー」
「まあ、ステキ★ 猫耳ナースあさにゃんになりましょ〜★」
 パシャ、パシャ。
「さあ次、さあ次」
「うふふっ。黒いボブカットのウイッグと猫耳カチューシャと猫尻尾付ドロワーズ……★ 猫耳男の娘あさにゃんかんせーい★」
 そこまで来て、やっと更衣室のカーテンがサーッと開いた。
 ネコミミメイド姿のあさにゃんが現れる。なぜか、立花宗茂がぽっと頬を染めてわざとそっぽをむいた。
「朝斗、いえ、あさにゃん……」
 アイビス・エメラルドがボソリとつぶやいた。その姿を見て、富永佐那の目がキラーンと光る。
「アイビスさん★ 私は常々思っていたのです★ アイビスさんのような極上の素材を活かさないことはコスプレの神への冒涜に他ならないとっ★ なのでこのビスにゃんセットを着ましょう★」
「えっ? えっー!? ちょっと……」
 猫耳カチューシャ&猫尻尾ドロワーズというオプションの充実したメイド服を取り出すと、富永佐那が今度はアイビス・エメラルドを更衣室に引きずり込んだ。
 ややあって、ネコ耳メイドと化したアイビス・エメラルドが、あさにゃんの横にならべられた。
「記録です。メモリ容量の許す限り記録します!」
 ルシェン・グライシスが我を忘れて360度方向上から下から写真を撮りまくる。
「お揃い……、お揃い……。朝斗、これ、どうしたらいいんでしょうか……」
 ちょっとはにかんでうつむきながら、アイビス・エメラルドが榊朝斗に助けを求めた。
「諦めろ。こうなったら、もうこいつらの煩悩は誰にも止められない……」
 過去のあれこれを思い出しながら、榊朝斗は今年もこうなる運命なのかと溜め息をついた。
 
    ★    ★    ★
 
「データのマージは、順調?」
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)に訊ねた。ここは、海京の深部にある独立したイコンドックである。
「現在、10%ほどです。なにしろ、データ量が多い上に、マージさせるのはかなり繊細な処理になりますから」
 四瑞 霊亀(しずい・れいき)が、アイオーンからのばしたケーブルを直接接続したヤタガラスのコックピットの中から答えた。さすがにデータがデータであるため、トランスミッタやリムーバルメモリは機密保持のために使えない。
 アイオーンは、ヤタガラス用の情報収集の側面もあるイコンなのだが、過日のイルミンスールの森でのイコン戦はいろいろと貴重なデータが得られた。
 根本的な作動原理は不明だが、そのとき交戦した敵のビームフローターはヤタガラスの物と酷似していたように思える。もちろん、細かく検証していけば、似てはいるが別物であることは明確だ。ヤタガラスが防御や攻撃用のビーム放出が帯域であるのと違って、赤いイコンのビームで形成された翼は形状が一定していた。出力的にはヤタガラスの方が遥かに上だろう。もともと、あのイコンは強奪されたイーグリットを改造した物のはずだ、第一世代がそこまで高性能にチューンできるはずがない。
「と言うことは、やはり戦い方か……」
 シフ・リンクスクロウがつぶやく。
 ヤタガラスの制御にはBMIが大きく関与するが、イーグリットにはBMIは搭載されてはいないはずである。同様のシステムでないとすれば、あの武装自体がパイロットに依存しない方式で動いているのではないかと言うことだ。
「そういえば、他のイコンの中には、リフレクタードローンでビームを跳ね返したり、たくさんのビームナイフを飛ばしてオールレンジ攻撃をしていたイコンもあったって話だよ。戦闘記録の交換がまだされていないんで詳細は分からないけど」
 ミネシア・スィンセラフィが、断片的な戦闘記録を集めたデータを調べながら言った。戦闘域が広範囲にわたったことと、乱戦だったために、あの戦いの詳細なデータはまだ纏められてはいない。
「敵に使われるとやっかいだけど、こっちで使うのには夢があるよね、オールレンジ攻撃って」
 ちょっとうっとりとした目をしてミネシア・スィンセラフィが言った。
「やっぱり、BMIを利用して、サイコキネシスとかテクノパシーで制御するしかないかなあ」
「でも、負担が多すぎるわよ。あのときは独立した誘導兵器として動いていたみたいだから、イコンを合わせて一度に七つもの物をコントロールしていた計算になるわよ。まして、リフレクターなんか、凄い数あったらしいし」
 四瑞霊亀が異を唱える。
「もしかして、全部式神化していたとか」
 まさかねと、ミネシア・スィンセラフィが笑った。
「どうかしら。全部自分たちでコントロールしていると思うから間違いなのかも。それぞれが、自分で考えて動いていたら?」
「それはそれで、統制を取るのが難しいとは思うけど……。負担はほとんどなくなるけれどね」
 それはそれで一つの方法だが、プログラムの複雑化とシステムの肥大化はまぬがれないと、ミネシア・スィンセラフィが四瑞霊亀に肩をすくめて見せた。
「いずれにしても、どんな高性能機でも使いこなせないのでは意味がないですしね。パイロットの限界まで性能を落とすか、パイロットを限界以上に酷使するか、あるいはプラスアルファのサプライズを見つけだすかです」
 そう言うと、シフ・リンクスクロウは横たわるヤタガラスを静かに見つめた。