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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

リアクション

 ――地下水道。
「なかなか見つかりませんな……」
「いやはや、本当にそうです……」
 薄暗い地下水道の中、若いテンプルナイツが2人はため息をつきながら歩いていた。
 周りには同じようにマリアをとらえるために集まったテンプルナイツや賞金稼ぎ達で賑わっている。

「ねえ、指輪を盗み出したとの事だけど、逃走中に隠したり落としたりする可能性もあるから、どんな指輪か教えてもらえないかなあ?」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はそばに居た偉そうなテンプルナイツに声を掛けた。
 声を掛けられたテンプルナイツの男は、一度北都をじろりと睨むと首をゆっくり横に振った。
「指輪については、あまり詳しいことは語れない。お前達はただ指輪を盗んだマリアを追って捕まえてくれれば良い」
 テンプルナイツの男の言葉に、北都はむっとなりながらも反論する。
「マリアが盗んだっていうのは本当かなあ?」
「本当だ。現にマリアは逃げている」
 男はさらに北都を強く睨む。
 これ以上、この男に聞くのは無理だと思った北都はすぐにその場を離れた。

「嫌な人だなあ……あれ、どうしたのクナイ?」
「どうやら、立て込み中のようです」
 たくさんの賞金稼ぎとテンプルナイツ達の中で、なにやら言い合う声がしたので北都はふとそちらを見た。
 状況を見ていた、クナイ・アヤシ(くない・あやし)は肩をあげながら答えた。

 数人の女性達が、賞金稼ぎ達を前に説得をしていた。
「マリアさんを絶対悪と決めつけて、追いかけるにはいささか早すぎはしませんか?」
「あたしもそうおもうよ。あたしが知ってる限りのマリアは超国家神様のことを心から信じて、グランツ教の教義がみんなを救って幸せにしてくれるって信じてたわ。そんな人が何もなく指輪を盗んだりするとは思えない」
 マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)藤林 エリス(ふじばやし・えりす)の説得にテンプルナイツ達からは「しかし、グロッグ様が……」などどよめきが起きた。

「グランツ教の方が超国家神様の理想から離れちゃったんだって気付いたから、マリアちゃんは今、教団に背を向けてるんだよ。きっと!」
 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)の言葉にさらにテンプルナイツ達は困惑していた。
 半数以上のテンプルナイツ達はただ、グロッグ司祭らに言われるがままにマリア捕縛へと動いていたためだった。
「あんた達テンプルナイツはマリアのこと、ほんとはどう思ってんの?」
 エリスはぴしゃりと言った。その一言で一気に静けさに包み込まれた。
 だが、その傍らで言葉をまったく理解出来ない輩もいた。

「おい!! こんな奴らの話に耳を貸すな! こいつらは我らグランツ教を惑わそうとする悪魔だ!!」
「違うわよ! 私達はただ――」
「うるさい。黙ってろ悪魔め!」
 アスカの言葉に悪魔などと言ってケチをつけたのはテンプルナイツ達の一番後ろにいる、ひげを蓄えた司祭だった。
 その言葉にテンプルナイツ達は困惑し。それに賞金稼ぎ達はただ静かに傍観していた。
「ちっ、賞金稼ぎの人達もこんなことに耳を貸さずにさっさと捜索するんだ。お金は出すぞ!!」



「……ふんっ、俺らには関係ないお話だったな。言われなくても分かっているぜ?」
「あんた達……金のためなら、なんでもやるって言うの?」
 高笑いし始める賞金稼ぎ達を、エリスはきつく睨んだ。
「当たり前だ!! 悪いが、こんな茶番つきあってられるないんだよお嬢ちゃん」
 数十人の賞金稼ぎ達が、奧へとすすんでいく。
 気がつけば自然と、テンプルナイツ達もそれについて行っていた。

「待つでふ!」
「ああ?」
 その行く手をリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が阻んだ。
 しかし、小さい体であるリイムを見るなり賞金首達は笑い声を上げた。
「はっはっ、悪いけどそこは通して貰うぜ? こっちはギャグに付きあうほど暇じゃ無いんだ」
「どうしても……でふか?」
「うっ……どっ、どうしてもだ」
 潤んだ瞳でこちらを伺うリイムに、男達は思わず後ろめいてしまう。
 内心では可愛いと思うものまで居た。

「グランツ教の犬に成り下がるとは賞金稼ぎの風上にも置いておけない奴らだな……」
「……なんだお前は」
 リイムの向こう側から十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が現れてくる。
 それに気がついた賞金稼ぎの男は、不満そうにそちらを見た。
「金が全てじゃあないはずだぜ。分かるだろ?」
「……ふんっ、ばかな。賞金稼ぎは私情に流されない。仕事だから。わりいがそこは行くぜ」
 突然ぴたり賞金稼ぎの男の首元に、剣を突きつけられた。
 剣を握るのは、宵一だった。
「なんのつもりだぁ?」
「……」
「何のつもりだって聞いてんだ。って、あれ、あんたどっかで見たことあるな――は!?」
 賞金稼ぎは剣を突きつけられたまま手に持っている角灯を宵一の顔へと近づけた。
 そして、何かに気がつくとみるみるうちに顔面が蒼白へと変わっていく。
「しょ、賞金稼ぎの宵一!!」
 その名前に聞き覚えがあるのか、賞金稼ぎ達の間でざわざわとどよめきが起きはじめる。

「何をしている!! お前達の行動は犯罪に荷担することと同じであるぞ!」
 白ひげを蓄えた、齢50歳くらいのテンプルナイツが声を上げて、宵一達の方へと近寄ってくる。
 エリス達は、たびたび邪魔をするこの年寄りをどうしたものかと、睨み付けながらも考えはじめていた。

 その時だった。不意に遠くから眺めていた、北都が声を上げた。
「あ、前!」

 声と共に、素早く風を切る音と獣の泣き叫ぶような声が地下水路を響き渡った。
 ケロベロスの鋭い牙をクナイはエリス達の代わりに受けていた。
 しかし、その牙は”龍鱗化”によってクナイの肌に貫通することは無く、血も出ていない。
 クナイはケロベロスを、叩きつけるように地面へと振り払った。
「まったく危ないところでしたね」
「つい、目の前のことに気を取られていました……」
 申し訳なさそうにマルクス著 『共産党宣言』は、倒れたケロベロスを見ながらつぶやく。
 しかし、クナイはまだ宵一の向こう側を見ていた。

「……来るぜ」
 宵一は突きつけていた剣から賞金稼ぎを解放すると、地下水道の奧を見た。
 そこには何重もの赤い光のような物がこちらに向かって近づいてくる。
 まもなくして、その光の正体がわかりエリスが叫んだ。
「ケロベロスだ!!」
 賞金稼ぎ達は高鳴る心臓を押さえながら、各々の獲物を構える。
 反対にテンプルナイツ達は後ろへと下がっていく。