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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

リアクション

「グランツ教か……」
 エースはひげを蓄え、年を取ったテンプルナイツを睨みながらつぶやいた。

「君たち、ご苦労であった。マリアはこの先だな」
「……」
 詩穂達は頷くことも答えることもせず、ただ先へと歩いて行こうとするテンプルナイツ達を眺めた。
 その時だった、音を立てて数本の矢が、テンプルナイツ達の足下を襲った。

「霜月、この人達ですよ! あの女性を追いかけているのは!!」
「……分かりました。あまりに手荒なことはしたくありませんが、女性1人に数人で襲いかかるのはどうもやりすぎだと思いますからね」
 ”サイドワインダー”を放った戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)は、振り返り赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)に言った。
 霜月も、ここから先はテンプルナイツを通さないようにと、手元の刀を構える。
 といっても、霜月の目的は元々、テンプルナイツを倒そうというものではなく、水道局に地下水道のモンスター討伐依頼を受けてきていた。
 そのため、あくまで詳しいことを知らない霜月は、軽く威嚇するようにテンプルナイツ達に、刃を向けた。

 そして、霜月は笑顔を作った。
「怪我をしたくない人はここから先は行かない方が良い、魔物がたくさん居ますから……どうしても通るおつもりなら、私が相手しましょう。魔物達にやられるよりはましですよ」
 まさかの邪魔者にテンプルナイツ達は戸惑う。
 やはりそこで一番に声を上げたのは年を取った偉そうなテンプルナイツだった。
「たった2人の女に何を手間取ってる、そんな奴らは放ってさっさと進め!」
「し、しかしっ!! わ、我々は戦う能力は――」
 重々しく銃声が地下水路に鳴り響いた。
 一瞬で全員に緊張が走る。
「さっさと行け!」
 煙を浮かばせた拳銃を掲げたまま、年をとったテンプルナイツは叫ぶ。
 テンプルナイツ達は「わああああっ」と、一気に束となって霜月の方へ向かって走る。
 霜月が目を少し伏せ、構えをとろうとおもったその時だった。

「ぐああっ!」
 先頭を切っていたテンプルナイツが何者かに襲われて次々と倒れていく。
「な……何が起きているんぐあああっ!」
 テンプルナイツ達は見えない敵になすべくもなく、あっというまに気絶させられる。
「お、おばけだっ!!!」
 敵が居るであろう場所へ乱雑に、年をとったテンプルナイツは銃弾を放つ。
 だが、まったくその手応えは無かった。まるで幽霊を相手にしているかのような感覚に襲われる。
「くっ、くそ。卑怯者め、姿を現せ!!」
 するとようやく、 鉄パイプを片手に持った祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)が”光学迷彩”を解くことで、透明な姿からゆっくりと姿を現していった。
「馬鹿めっ、素直に従いおって!!」
 年をとったテンプルナイツは躊躇無く、姿を現した祥子に向けて銃弾を放つ。
 祥子はそれを”疾風迅雷”で軽々と避けると、一気に年をとったテンプルナイツの目の前に攻め寄った。
「ぐ――」
「バカは司祭、あなたのようね? とりあえずここで眠っててくれるかしら?」
「舐めるのもいい加減にし――」
 司祭が怒りにまかせて銃口を祥子に向けようとする。しかし、其れよりも先に祥子の”抜刀術”が司祭に当たる。
 司祭は声も上げること無く、倒れた。
「これで全部ね」

 まったく息を切らすことも無く、祥子は髪をふりほどいた。
「ずっと、テンプルナイツに紛れて隠れてたのかな?」
「ええ、ずっと敵を減らすために機会をうかがってたわ」
 エースは笑みを浮かべながら聞くと、祥子は息一つ切らしている様子も無く平然と答えた。
 しかし、これで終わりでは無かった。霜月達とローズフランがなにやら、言い争っているようだった。

「そこを通してはもらえないのかしら?」
「それは――」
「ぜっっったい、ダメです!!」
 霜月の言葉を遮って、朔望が手を横に広げてこの先を遠さないとする。
「私達は、マリアを助けに来たのよ」 
「悪党の言うことは聞きません」
「まあまあ、落ち着いてお嬢さん」
 エースは一輪の薔薇を朔望に手渡す。だが、朔望は頬を膨らませ、むすっとした。
「大体そちらの女性の人は賞金首じゃないですか!」
「……」
 全員がローズフランを見た。ローズフランは目をぱちくりとさせて少し驚いた表情を浮かべる。
 けど、それはすぐに元の鋭いつり目へと戻った。
「そうでしたわね……なら、賞金稼ぎとしてここは力尽くで通させて貰いますわよ?」
 その答えを待つことも、全員が驚く暇も、騒ぐ暇も与えること無く、ローズフランは走りだした。
 その場の全員が驚いた。1秒、いやそれ以下の時間の間に、ローズフランは霜月と朔望の向こう側へと通り過ぎていたのだった。

「なっ……早い!」
 霜月と朔望は慌てて後ろへと振り返ると同時にローズフランはこちらへ向かって走り出していた。
 霜月は刀をそのまま、ローズフランへと振り下ろす。
 しかし、刀はローズフランに当たるどころか、かすりもしない。
「簡単にはやられません!!」
 朔望は”歴戦の武防御術”でローズフランに反応し、剣を突く。金属音があたりを響いた。
「…………え」
 朔望の剣はローズフランの拳銃をとらえていた、というよりは拳銃のそこで剣を防がれたというのが正しい表現だ。
「どうやら、彼女相手に時間稼ぎは無理ですね……」
 霜月は軽くため息をついた。

    §

「ふむ、どうやら30体のインプを倒した後、この奧にまっすぐと進んで行ったようだね」
 メシエは詩穂がずっと手に握っていた薬莢を”サイコメトリ”で読み取った。
 結果、間違いなくマリアはこの奥に進んでいた。加えて、マリアはたった1人ですすんでいることも分かる。
 それを裏付けしたのは、先ほどマリアと出会ったばかりという霜月だった。
「ええ、マリアさんはそのまま急いでると行って、奧へと消えていきました……1人で」
「……1人で」

 祥子は、先ほどから何か1つだけ気にかかっていたことがあった。
「マリアはたった1人で幾多ものインプやスライム達と戦っているのよね」
「そういえば、さっきちらっと小耳に挟んだのだけれど、グランツ教の司祭達はみんながあの指輪をほしがってるらしいわね」
 それは、先ほど姿を消している間に、北都とテンプルナイツが会話しているのをたまたま盗み聞きしたときに得た情報だった。(この情報を得るまでに北都も大分苦労したようだったけど……)
「そうですわね。じゃないとあそこまで必死になってマリアなんて探そうとはしないですわね」
「となると、マリアはその力を独り占めしようとしているのかもしれないわ」
「……そんなことは絶対ないと思いますわ、マリアはああ見えてそういうことには疎い人」
「ずいぶん、詳しいんだね。マリアについて」
 エースに指摘され、ローズフランはしまったとばかりに口を一瞬大きく開けて、エース達に背中を向けた。
「賞金稼ぎなら獲物に関する情報は先に集めておく物ですわ!! 行きますわよ!!」
 ローズフランはそのまままっすぐ進んで行ってしまった。

「あ、そうでした」
 霜月達はモンスターの討伐があるために、ローズフラン達とは行動できない。
 そのため、軽く挨拶をして別れようとしたときだった、ふと霜月は何かを思い出したように言った。
「巨大スライムが巣を作っているそうです。お気をつけて」
 そう言うと霜月と朔望はあちらへと消えて行ってしまった。

     §

(……マリアさん、必要なのは自分の意思と生き方です……決して後ろを振り返らず前へ……もしもマリアさんにその気があるのならば、真実を……グランツ教の闇を公にしましょう)
 詩穂は聞こえていないかも知れない、テレパシーを一方的にマリアへ向けて発したのだった。