text:砂原かける
『蒼空のフロンティア』のキャラクターの訪れるパラミタもまた、地球との接触で大きな変化が起きています。
地球とパラミタは、互いが互いの死後の世界にあたります。
死亡したパラミタの生き物はやがて地球に転生し、逆に地球の死者はパラミタに生を受けるのです。
地球の死者の魂は、まずパラミタの地獄にあたるナラカへと落ち、そこから数百年をかけてパラミタの大地へと這い上がり、新たな生を得ます。
なおパラミタ側の魂がどのような経緯で地球での新たな生を得るのかは、まだ解明されていません。
両方の世界で共通する生物が多いのは、この魂の循環の為だと考えられています。
一説では、地球とパラミタが繋がった状態では、この魂の循環に異変が生じるそうです。
ドラゴンを始めとするモンスターや、病気や天変地異などの超自然現象がパラミタに踏み込んだ地球の産物を拒絶するのは、その異常を食い止める為。
いわば異質な存在に対する、世界そのものの免疫反応だそうです。
対となる地球とパラミタが繋がったのは、今回と五千年前だけではありません。
五千年前の古王国時代から、さらに五千年前にも地球とパラミタは繋がり、その当事の文明は非常に高度なものだったようです。
また、そのさらに五千年前にも同様の事があった、という証言もあります。
地球とパラミタはおよそ五千年ごとに繋がり、その前後に世界の文明は非常に高くなっているようです。
気がかりなのは、その後にふたたび世界はふたつに分かれ、その当事に栄えていた文明が滅亡している点です。今回もそのような事が起こるかもしれません。
そもそも背中合わせの対の世界である地球とパラミタが繋がるのは、そのどちらか、あるいは両方で世界のバランスが崩れた為に起こる、という説もあります。
パラミタの大地は、海ではなく一面の雲である雲海に浮かんでいます。
「浮遊大陸」と呼ばれていますが、巨大な大陸ただひとつではなく、その周囲には大小の無数の島があり、それらもまた雲海に浮かんでいるのです。
パラミタは海抜6000mの場所にありますが、気圧や気温、沸点などは地上と変わりません。
これはパラミタと地球の間には、世界の境界があるためです。
地球上から見て6000mの高度にあっても、パラミタ上では雲海が海抜0mにあたります。
パラミタを照らす太陽や月、星も、地球のそれとはまったく別物です。これらはパラミタの周囲を回る島だと考えられています。
太陽は大陸の東の雲海からあがり、夜には西の雲海に没します。次の日の朝には、太陽はふたたび東から昇ってきます。
雲海の下がどうなっているか知ろうと、さまざまな人物が探検に向かいましたが、戻ってきた者はいません。
そして地球上から見えるパラミタは、シャンバラ地方の一部に過ぎません。
浮遊大陸パラミタには、いくつもの国があります。
パラミタの国家は地球のそれとは異なり、国家神と世界樹により成り立っています。その為パラミタの国家は、地球の国家と比べて遥かに長命で、数千年間、存続しています。
・シャンバラ
浮遊大陸パラミタの、西南部にある辺境地帯です。
繁栄を極めた古王国が滅亡した後は、長いこと辺境の貧しい土地でした。
現在ではシャンバラ女王の末裔という六首長家と、地球の資本で建設された学校による開発が進められています。
2020年には、東シャンバラ王国と西シャンバラ王国というふたつの国として建国を果たしました。建国するまでは、暫定的に日本の領土でした。
やがて、現シャンバラ女王アイシャ・シュヴァーラによって、東シャンバラと西シャンバラは統一され、シャンバラ王国は完全な形で国家を為しました。
現在では西シャンバラと東シャンバラは行政区分となり、西は高根沢理子、東はセレスティアーナ・アジュアが代王として、それぞれの代表を務めています。
・コンロン
シャンバラの北にある国です。
パラミタ大陸で最初に文明が起こった場所ですが、現在では諸侯の軍閥が群雄割拠する政情不安な土地となっています。
古王国が栄えて領土が最大限に広がっていた頃には、シャンバラの領土の一部となっていました。
・カナン
シャンバラの東側に位置する、緑豊かな国でした。
しかし、最近では激しい蝗害が起こるなどの自然災害が激しく、国内は乱れています。
・ポータラカ
コンロンの北西に位置する、半島にある国です。
異質で高度な文明を持つという話だけがあり、五千年の間ずっと鎖国を続け、他国との関わりを避けてきた国でした。
最近、約1万年前にニルヴァーナからパラミタに亡命してきたニルヴァーナ人たちによる国だと判明しました。
・シボラ
遥か古代、ただ雲海が広がる以外は何も無かった世界に、雲の中から大地が浮上してきてパラミタ大陸を形成しました。
その際、もっとも最初に浮上したのが、現在のシボラです。土地が古いために大地の風化が激しく、人もあまり住んでいません。
位置はカナンの東、パラミタ大陸の南西部にあたります。
雲海に面した南部は降雨にも恵まれ、人跡未踏の密林地帯が広がっています。先ごろ発見されたオップイコも、このジャングルの中にあります。
・エリュシオン帝国
パラミタ大陸の北部から中央に広がるエリュシオン帝国は、大陸最大の面積を有しています。
世界最大の世界樹ユグドラシルや、多数の神からなる龍騎士団を擁しており、文化や軍事の面でも、パラミタでもっとも優れた国家と言われています。
このため他のパラミタの国々に大きな影響力を持ち、多くの国では帝国を恐れています。
帝国の統治者はパラミタの他国と異なり、神である選定神たちが選んだ人間が、帝国の皇帝となります。
・ティル・ナ・ノーグ
パラミタ東部に位置する国です。
多くの妖精が集う平和な地域と言われています。しかし、そこに行き着いた地球人は少なく、あまり多くの事は知られていません。
・マホロバ
パラミタの東に浮かぶ、大小の島々からなる国です。
つい最近まで鎖国をしており、出島と呼ばれる場所を除いて他国との交流はありませんでした。
古王国滅亡時に女王の遺臣が流れてきて作った葦原藩があります。
先ごろ、葦原藩の姫がアメリカ合衆国で代々、大統領を輩出しているウィルソン家の娘とパートナー契約しました。その縁から、少数ですが米軍が駐留しています。
・ザナドゥ
パラミタの地下に広がる、魔族の国です。
古王国の女王に封じられて以来、地上に干渉できなくなっていました。
最近、シャンバラの東西分裂建国などの影響から、その封印が緩み、魔族が地上にやってくるようになりました。
・ナラカ
国ではなく、浮遊大陸と雲海の遥か下に広がる、と言われる「死後の世界」です。
地球の生物の死した魂はナラカに堕ち、そこから最速でも百五十年以上、たいていは数百年をかけてナラカを這い上がり、パラミタに転生を果たします。
パラミタの伝説では、ナラカにはアトラスという大巨人がいて、浮遊大陸パラミタを掲げ持って支えているといわれています。
・トワイライトベルト
地球とパラミタの境界は、トワイライトベルトと呼ばれる地帯です。シャンバラの中央を東西に横断するように走っており、ここは昼間でも薄暗い状態です。
2020年に東シャンバラ王国と西シャンバラ王国が興った際、トワイライトベルトの位置は移動しました。
以前は北西から南東に走っていましたが、現在では西北西から東南東へとズレています。
また、2020年以前はトワイライトベルトの地球側であっても、他の地域と同様に地球産のテクノロジーは動きませんでした。
しかし2020年にシャンバラが東西に分かれて建国して以降は、核弾頭などの強いパワーを発するごく一部のテクノロジーが作動できる状態になりました。
・鏖殺寺院
反シャンバラを掲げ、反社会的な武装闘争を行なう組織群です。
いわゆるテロ組織で、それにふさわしい活動をシャンバラと地球の各地で行なっています。
しかし自身と敵対する勢力に「テロ組織」というレッテルを貼るのも、またテロの一種です。
鏖殺寺院の主張では、パラミタ固有の文化を破壊する入植者やそれを支援する地球人こそがテロ組織、という事になります。
よく誤解されますが、鏖殺寺院はひとつのまとまった組織ではなく、強大な力を持つ幹部の率いる支部が、それぞれ勝手に活動しているのが実体です。
マフィアや盗賊団がハクをつけようと、鏖殺寺院の看板を拝借しているだけのケースもよく見られます。
鏖殺寺院も、もともとは古王国期にシャンバラ女王を崇めた宗派のひとつです。
女王の妹ネフェルティティを中心とする、シャンバラでは珍しい自然崇拝的な一派でした。
五千年前にエリュシオン帝国の神の一柱が、ネフェルティティを洗脳して、一派を反シャンバラ王国の反乱軍にしたてたのが、鏖殺寺院の始まりです。
なお現在の帝国は「五千年も前に、一柱の神が独自にやった事だ」と関係を否定しています。
鏖殺寺院の精神的指導者だったダークヴァルキリーがネフェルティティとして正気を取り戻すことにより、これまでシャンバラで活動していた鏖殺寺院はほぼ解散状態となっています。
しかし地球上で活動していた鏖殺寺院の支部はそれに従わず、依然として反シャンバラの活動を継続しています。
2020年にシャンバラが東西に分かれて建国した事で、これまでシャンバラ開拓事業に投資してきた国家や企業グループの中には、現在の学校と首長家が協力して開拓を進める体制に疑問を持つ者が出てきました。
そうした組織の中には、鏖殺寺院に援助をするものもあるようです 。
それら潤沢な資金援助を受けて、イコンを配備した軍隊を保有している支部すらあります。
新たな鏖殺寺院は勢力を急速に拡大させ、既存の地球上の組織で彼らに乗っ取られたものもあるようです。
また、シャンバラに敵対するパラミタの勢力が鏖殺寺院と手を組む事は、十分に考えられる事でしょう。
2021年にシャンバラ統一が成されて後も、鏖殺寺院はシャンバラに敵対する思想や目的を持つ様々な組織を取り込みながら異様なネットワークを築きつつあります。
・生物多様性の問題
現在はそう注目されていませんが、今後に大きな問題となりそうな事もあります。
地球とパラミタの双方で、外来生物の流入が両世界本来の生態系に影響を与えている事です。
シャンバラでは地球人が農作物や家畜を持ち込んでいますが、これらは一般のシャンバラ人にも恩恵を与えている為、現状では生物学者を除いて、あまり問題にする者はいません。
それでもエコロジーを提唱する学生の間では、自然保護区の設立を求める声が高まりつつあります 。
一方、パラミタの生物が地球上で繁殖している例も増えてきています。
これらは浮遊大陸から流れ落ちる滝や、崩れ落ちる岩石と共に流入して成長し、繁殖した生物。あるいは飛行、浮遊してきて棲みついた生物などがあります。
すでに、密かに繁殖したモンスターが人を襲うなどの事件も起こっています。
逆に、有用な資源となる生物であれば、地球上でも養殖しよう、という動きもあります。
パラミタの種族には、突然変異で非常に強力な存在が現れる事があります。
これらの存在が“神"と呼ばれています。
神は非常に強力な存在で、またそれぞれが特殊な能力を持っています。
神の周囲には聖霊という存在が集まっており、それが神の力の行使に深く関係しているようです。知られているうちでは、メイガス(賢人)が召還する炎の聖霊も、そのひとつです。
神は独特の強大な力を放っており、聖霊は神が発するその力を糧に、また別の様々な力を放射しています。
プリースト(僧侶) は信仰心を媒介に聖霊を操って、魔法と同じような効果をもたらしていたのです。
こうした神になる方法は、存在するかどうかも分かっていません。
神である事は遺伝せず、親が神だからと子供が神になる事はありません。家族や祖先に神がいれば、その影響により一般的な同種族よりは優秀になる傾向があります。
しかし、その力は神とは雲泥の差で、「優秀な人」どまりです。
地球とパラミタが繋がってからは、地球人からも神が誕生するようになりました。その代表的な存在が、ドージェ・カイラスや御神楽環菜です。
これらの神は、必ずしも人々から信仰されているとは限りません。
逆に、そうした神でなくとも、人々から信仰されているケースはよく見られます。
パラミタ人の多くは先祖の霊を守護霊として祭っていますし、蛮族の多くはドラゴンを神の化身として崇めています。
しかし近年、蛮族がドージェを崇めるなど、神の力を発揮する事で新たに信仰されるようになる者もいます。
・国家神
パラミタで特に重要な存在は、国家神と呼ばれる国を代表する神です。
国家神の存在が、パラミタにおける国の条件となります。国家神がいなければ、領土や民、文化にかかかわらずパラミタでは国として認められないのです。
また神の力は圧倒的なので、国家における神の数が、その国の軍事力を意味しています。
そのため、所属する全員が神である龍騎士団を保有するエリュシオン帝国は、パラミタ最強の国家という事になります。
・世界樹
また国家神と同様に国家で重要な存在として、世界樹があげられます。
これは、世界樹の生えている地域が、パラミタでは国家の領土として認められる為です。世界樹によって確保した領土を、統治するのが国家神となります。
パラミタの大地にはコーラルネットワークと呼ばれるネットワークがあり、パラミタの世界樹は必ず入る事になっています。
世界樹の幼木は、このコーラルネットワークに加入して、初めて一人前の世界樹として認められるのです。
地球人からもっとも知られている世界樹は、シャンバラに生える世界樹イルミンスールでしょう。
この樹はイルミンスール魔法学校の校長エリザベート・ワルプルギスのパートナーでもあり、樹の内部に同校校舎がある事で有名です。
樹齢五千年、高さ千mと巨大なイルミンスールですが、実はパラミタの世界樹の中では、もっとも若く小さい木です。コーラルネットワークにも、ごく最近になって加入したばかりです。
そのせいでイルミンスールが、他の世界樹や、シャンバラ以外のパラミタの住人から「雑草 」と揶揄される事もしばしばです。
他国の世界樹では、マホロバには扶桑、コンロンには西王母、カナンにはセフィロトという世界樹があります。いずれも樹齢数万年で樹高は数千mあります。
シボラの世界樹アウタナは、土地の古さゆえに化石化しているそうです。
一説ではナラカにも世界樹があるそうですが、本当にあるのかどうか、世界樹と呼べるような存在なのか、確認できた者はいません。
パラミタ最大の世界樹は、エリュシオン帝国のユグドラシルで、樹齢数万年。高さは一万mにもなります。ユグドラシルは、世界樹のコミュニティ、コーラルネットワークの最上位の樹でもあります。
・サロゲート・エイコーン(略称イコン)
「代理の聖像」という意味を持つ、人型機動兵器です。
地球で言うところのロボットですが、古王国時代よりも遥か以前の超文明の産物と言われています。
現在の技術ではイコンを0から作る事はできず、生産プラントの遺跡などに頼っているのが現状です。
イコンは単なる兵器を超えた、神に等しい力を秘めている、と言われています。しかし現在、その力を引き出せている者はいないようです。
イコンには三つの系統が確認されています。
ひとつは天御柱学園に配備されたイーグリットなどで、外見は天使をモチーフにしていると言われています。
もうひとつは鏖殺寺院が使うシュヴァルツ・フリーゲです。外見は悪魔がモチーフだとされています。
最後のひとつは、エリュシオン帝国の保有するイコンです。
その外見のモチーフは神獣だと言われており、戦場で龍型のイコンが目撃されています。
マホロバにも鬼鎧(きがい)と呼ばれる先住民族である“鬼"の体を利用して作られたイコンが存在します。
また、イコンのエネルギーは機晶姫の動力でもある機晶石が使われています。
イコンが何故作られたのか。そして“代理の聖像"と呼ばれる理由には以下の伝説が伝えられています。
古代のパラミタでは大戦争が行われたというのです。その結果、世界を守る力を持つ強い種族がいなくなってしまい、その穴を埋める存在としてイコンが作られた、とされています。
イコンのモチーフも、実際には守護天使や悪魔、神獣ではなく、現在の彼らと外見が似ているだけの別種で、遥かに強大な存在なのかもしれません。
なおイコンはどういう訳か、パラミタの種族だけではその力を充分に発揮する事ができず、地球人が一緒に乗らないと動かせません。
この為、すべてのイコンが複座、もしくはそれ以上の人数で動かすようにできています。
その理由は解明されていませんが、イコンを保有するエリュシオン帝国やマホロバが、イコンを稼動させる為に地球人を欲しているのは確かなようです。
そして現在シャンバラでは天御柱学院にしか存在しないイコンですが、他の学校でも開発・運用が行われつつあるようです。