text:砂原かける,運営チーム
2024年の世界は、2009年以前のものと大きく情勢が違っています。
それは浮遊大陸パラミタの出現及び、地球人とシャンバラ人が“契約”してパートナーになれる事に起因しています。
浮遊大陸パラミタの出現は、突然でした。
唯一の前兆らしいものは、西暦2000年頃から天使や幽霊など、目に見えない存在を視る者達が現れた事です。
しかし、多くは本人の心の問題とされ、大きく取り扱われる事はありませんでした。
そして西暦2009年6月、日本領海の上空にパラミタ大陸が現れました。
その当時は、パラミタが日本領海内に出現した為、浮遊大陸も日本の領土として認められました。
日本を始めとした多くの国が、空に現れた謎の浮遊大陸を調査しようと、パラミタに探検隊や航空機を送り込もうとしました。
しかし、地球人と地球のテクノロジーは、パラミタから拒絶されます。
コンピュータやエンジンなどの地球上で造られた機械は、パラミタでは作動しません。
さらに疾病、天変地異、モンスターの襲撃などのあらゆる超自然現象が、パラミタに侵入した地球人を襲いました。
日本政府の依頼を受けた米軍が、空母を拠点とした航空部隊をパラミタに送り込もうとした際には、多数のドラゴンが現れて、部隊を壊滅させてしまいました。
その被害の大きさから、アメリカはその後しばらくパラミタ開発に出遅れ、日本に追従する事となります。
この拒絶により、地球人はいっさいパラミタに踏み込めないように思われました。
地球とパラミタが繋がったのは、これが初めてではありません。
現在から五千年前である紀元前3000年頃にも、ふたつの世界は繋がりました。
その頃パラミタでは、シャンバラ王国(以降、現在のシャンバラと区別する為に、古王国と表記)という国が栄えていました。ちょうど、地球とパラミタが繋がった場所にあった国です。
女神であるシャンバラ女王が統治する古王国は、たいへん高い魔法文明を持ち、当事の世界最強の国家であったと伝えられています。
古王国は地球上の文明にも影響を与え、エジプト文明、クレタ文明、シュメール文明、黄河文明などの古代文明を興したり、進歩させました。
地球の神話に、パラミタの種族に似た姿の神やモンスターが登場するのも、この名残だと言われています。
この頃、地球上には現在の人間とは別の種(人種ではなく、生物分類上の種)も存在していました。彼らは、強大な超能力を基本とした文明を築いていたようです。
しかし、シャンバラ王国の援助を受けた人類に生息圏から追われ、現在ではシベリアと呼ばれている地域へと追いやられ、やがて滅んでいったそうです。
2020年現在、別種の人類の唯一の生き残りとして確認されているのが、天御柱学園校長のコリマ・ユカギールです。
やがてシャンバラ古王国では、女王の妹ネフェルティティが、古王国の著しく発展した文明に警鐘を鳴らし、反旗を翻します。
長く明らかにはされていませんでしたが、この裏には、シャンバラ古王国と覇を競っていたパラミタの強国エリュシオン帝国の存在がありました。
エリュシオンはネフェルティティに狂気の呪いをかけ、古王国に反乱を起こさせたのです。
妹姫の乱心の原因に気付かなかった当事のシャンバラは、彼女から名を奪い、以降、彼女は「ダークヴァルキリー」と呼ばれる事になります。
また彼女につき従った一派は、鏖殺寺院と呼ばれるようになりました。
鏖殺寺院と狂えるダークヴァルキリーは、世界を滅ぼす闇龍(やみりゅう)を召還して古王国を滅ぼそうとしました。
シャンバラ女王は闇龍の封印に成功しますが、その為に命を落とします。
しかし闇龍を失った鏖殺寺院も、ダークヴァルキリーを封印され、鎮圧されました。鏖殺寺院の生き残りは、いまだ未開の地が多かった地球各地に敗走し、潜伏します。
この戦いで疲弊した古王国はその後、地球とパラミタの各国から攻め入られ、滅亡してしまいます。
シャンバラ古王国が滅ぶと、地球とパラミタの繋がりは解けました。それにより、地球上に残されたパラミタの住人や産物も、多くは封印の眠りにつきました。
・契約者(コントラクター)
現れた当初は、地球人が踏み入れないかに思われたパラミタですが、やがて有効な解決策が見つかります。
五千年前に死亡したり、地球上に残っていたパラミタの存在と「契約」してパートナーとなれば、拒絶される事なくパラミタで活動できるのです。
この契約を行なった者は、契約者(コントラクター)と呼ばれました。
さらに契約した地球人は、契約相手が持つ神秘の力を一部使えるようになります。
その最たる者は、シャンバラ女王アムリアナ・シュヴァーラと契約した高根沢理子とセレスティアーナ・アジュアでしょう。
二人は国家神の代わりである代王(だいおう)として、それぞれ東シャンバラ王国と西シャンバラ王国を司っています。
また契約をした両者は、身体能力や計算能力が格段に上昇し、オリンピック選手や学者をも上回る能力を発揮しました。
さらに契約した者どうしの間では、一種のテレパシーのような能力が生まれ、たがいに携帯電話を持っていれば電波が通じていない場所でも、電話で会話する事が可能です。
ただ携帯電話が壊れていたり、基本通話料を払わずに利用を停止されている場合には、不可能です。
しかし携帯電話がなくても、抽象的でぼんやりとですが、相手の様子が分かる事もあります。
また契約の維持に、特に必要な事物はありません。
ただ、地球人は複数の相手と契約できますが、パラミタ側の住人は多くが一人の相手としか契約できません。
シャンバラ女王などの非常に能力が高い者であれば、パラミタの住人でも複数の地球人と契約できるようです。これは地球とパラミタのぶつかり方に由来するようです。
なお五千年前に地球とパラミタが繋がった際にも、契約者はいました。その時は現在と逆で、一人としか契約できない地球人に対し、パラミタの住人は複数の相手と契約できたそうです。
非常に素晴らしい効果がある契約ですが、デメリットもあります。
契約した相手が死ぬと、契約相手にも大きなダメージがあり、心身にダメージを負ったり、死亡してしまいます。
たとえ契約相手と不仲になっていても、連絡を取っていなくても、これは回避できません。
契約のメリットもデメリットも、いずれも脳や神経、魂に関わるものとして、研究が進められています。
パートナー契約を解除する事は、基本的にできません。
しかし一度だけ、コントラクターブレイカーという特殊な銃により、シャンバラ女王アムリアナ・シュヴァーラとパートナーの高根沢理子の契約が解除された事がありました。
厳密に言えば、これは擬似的に契約していない状況に近づけるだけで、女王が力を取り戻した際に契約は復活しています。
現在、コントラクターブレイカーは空京大学の厳重な管理化にあります。さらにコントラクターブレイカーの唯一の使い手である砕音・アントゥルースは、植物人間状態で空京大学医学部に入院しています。
このコントラクターブレイカーの原理は、破壊を司る闇龍の力を、契約している両者の魂に打ち込んで栓とする事で、非契約状態を作り出すものです。
今後にこれを応用、発展させたものが発明されないとも限りません。
特に、西シャンバラ王国と東シャンバラ王国では、国家の要となる代王が女王アムリアナとの契約を解除されないように、ロイヤルガードを設立して代王の警護にあたっています。
・古王国の復興
パラミタが姿を現した初期に地球人と契約したのは、ほとんどが五千年前の戦いで命を失ったシャンバラ古王国の人々でした。
それまで一部の者だけが見る「見えない存在」と思われていたのが彼らです。
地球人とパートナー契約を結ぶことで、彼らは現世に復活できました。
これは彼らが死亡した前後に地球とパラミタが分かれるという大異変が起きた影響で、魂が行き所を失ったまま地球上をさ迷っていた為です。
蘇ったシャンバラ人たちは、滅んだシャンバラ王国を再興させる事を目指していました。
2009年当時、シャンバラは国家ではなく、打ち捨てられた辺境の一地域に過ぎませんでした。
シャンバラを治める六首長家も、復活した古王国人や地球の国々の助けを借りて、シャンバラ王国を再興させる事を望みます。
なぜならシャンバラ地方には「やがて異世界(地球)からやってきた人々が、偉大なるシャンバラ女王を復活させ、滅んだ古王国を再興させる」という予言が伝えられてきたからです。
事実、パートナー契約を行なった者は、そうでない一般人に比べて、頭脳的にも肉体的にも非常に優れています。
契約者の力を借りれば、それまでは不可能だったシャンバラの建国も進められると考えられました。
また当時のシャンバラ地方の文明は、産業革命前の地球と同程度であり、進んだ地球の技術はぜひ取り入れたいものでした。
一方でシャンバラの大地には豊富な資源だけでなく、魔法や機晶技術など古王国期のテクノロジーが眠っています。それらは地球の現在の文明を遥かに凌駕しており、地球人にとってもぜひ手に入れたいものでした。
・さらなる開発
年数を経るうちに、別の契約形態も増えています。
それまで地球上を放浪していた魔女や、封印状態にあった機晶姫など、地球に残されていたパラミタ種族も、浮遊大陸の出現と同時に契約が可能になったのです。
また新たにパラミタからやってきた者が地球人と契約するケースもあります。
本人たちが実際に会う事なく、インターネット経由で契約する事も可能で、契約の為のサイトも存在します。しかし直に会わない契約においては、種族や容姿の偽装が行なわれるなどの問題も頻発しています。
シャンバラ地方のもっとも地球よりの場所には、空京(くうきょう)という都市が建設されました。空京には特殊な結界が張られ、その内部では地球人や地球産テクノロジーも拒絶される事はありません。
また空京で生産された自動車やコンピュータなどの機械は、地球の技術産物であってもパラミタで動きます。
現在のパラミタに出回っている機械製品は、空京で作られたか、空京製の機械で造られたシャンバラ各地の工場で生産された物です。
さらに空京で発掘された魔列車が改造され、日本の上野と空京を結ぶ新幹線として開通します。この空京新幹線により、値段は高いものの、地球人がシャンバラへ簡単に行けるようになりました。
新幹線開通により、空京で出会った地球人とシャンバラの種族が契約するケースも増えます。
なお、空京と同様の結界を張る計画は、シャンバラ各地で進んでいます。
しかし、かつての「最果ての地」空京の地下には、実は古王国時代末期にダークヴァルキリーが封印されており、魔法的に土地が整備されていました。
そうした下地のない土地で結界を張るのは一筋縄ではいかず、計画はなかなか進んでいません。
契約者の登場と空京建設で、シャンバラ開発はだいぶ進展が見られました。
しかし契約を結んでいない地球人は、依然としてパラミタに拒絶されており、契約者の絶対数も限られています。
契約は誰とでもできる訳ではなく、何らかの素質や相性があるようです。その為、地球の各国は契約者を増やそうとしていますが、思うように進んでいないのが現状です。
また、若い者ほど契約がしやすいようで、契約者の多くは未成年でした。
そのためシャンバラの開拓は、若い契約者の教育を兼ねた学校組織で行なわれる事となったのです。
その先鞭は、みずからも契約者である御神楽環菜(みかぐら・かんな)が創立した蒼空学園でした。
オンライントレードにより若くして莫大な富を築き上げた彼女は、その私財をシャンバラの開発と建国に注いだのです。
2017年に開かれたサミットでは、地球先進国の首脳に加え、六首長家と各学校の長(失踪していた、波羅蜜多実業高等学校の石原肥満校長は除く)が参加して、シャンバラ王国復興の議定書が決議されます。
この決定により、各学校はシャンバラ王国の再興に力を尽くす事が義務 づけられました。
2020年には天沼矛(あまのぬぼこ)という巨大エレベーターも開通します。
これは、いわゆる軌道エレベータと呼ばれるもので、開通により新幹線輸送を遥かに超える大量の物資のやりとりが可能となりました。
シャンバラ側のゲートは空京のシャンバラ宮殿にあり、地球側は日本のメガフロート都市である海京(かいきょう)にゲートがあります。
一方で、地球人をなるべく、そのままの状態でパラミタに送る研究を進めた国もあります。
ロシアの極東新大陸研究所では、パラミタ独自の放射線であるパラミタ線を地球人に照射して、パラミタ化する事に成功しました。
そうやって誕生したパラミタ化した人々は、いわゆる超能力を身につけていた為、強化人間と呼ばれています。
強化人間は、契約をしなくてもパラミタから拒絶される事はありません。普通の地球人のようにパラミタの種族と契約する事はできませんが、代わりに地球人と契約する事もできます。
しかし強化人間は、放射線の大量照射や、超能力が脳に負担をかけるせいで、精神的に非常に不安定です。
このため強化人間化は人道的に問題があるとされ、また研究に多額の費用がかかる事から、一部の国でしか研究が進められていません。
・魔法の復活
パラミタが出現して以降、地球でも魔法が使えるようになりました。
契約者以外でも、勉強や素質により魔法を使う事ができるのです。もっとも契約者の魔法使いの方が、魔力も強力で、様々な魔法を使えます。
地球の魔法使いの間では、契約者となって魔法の進んだパラミタに渡る事が、ひとつの夢となっています。
ヨーロッパでは魔法使いが台頭し、魔術結社(騎士団)が政治に影響を与えています。欧州連合では魔法を政策の柱とし、欧州魔法連合(EMU)が結成されました。
一方で、それまであった宗教法人の中には、奇跡が見える時代となって受難にさらされている団体もあります。
メンバーの中に強力な魔法を使う契約者がいた団体は良いのですが、そうでない宗教団体の場合、急速な信者離れを起こして潰れてしまう事もあるようです。
また国によっては「宗教は、もはや精神的なものではない」として、それまで免除されていた税金などの義務が新たに課せられるようになりました。
・経済的影響
パラミタが出現するまで、地球各国は世界同時不況による経済の低迷にあえいでいました。
しかし資源の豊富な浮遊大陸の出現が転機となり、世界経済は右肩上がりで成長を続けています。
特に日本には、パラミタ開拓の鍵として世界中から多くの資金が流れ込み、バブル期と同様の好景気を迎えています。これは経済界ではパラミタ景気、もしくは古事記から取ってオノゴロ景気と呼んでいます。
さらに世界経済を指先で操る御神楽環菜の登場で、日本は世界第一位の経済大国として繁栄を極めました。
しかしこれは、それだけ開拓への期待が高い事を意味し、もし開拓が頓挫するような事態になれば、世界は大恐慌に陥る可能性もあります。
特に2020年、シャンバラ王国が東王国と西王国に分かれて建国した事や、御神楽環菜が死亡した為に、世界中で投資家の不安が高まりつつありました。
それでも、まったく新しい大陸が現れた事で、地球ではフロンティアスピリッツが高まっています。
特にパートナー契約を結ぶ条件はほぼ相性と年齢だけで、民族や国籍、既存の富や学歴、能力、さらには努力も関係ない為です。
パラミタに渡って大成した地球人、例えばドージェ・カイラスや御神楽環菜、ハイナ・ウィルソンなどの成功者を見て、「自分も」と夢を持つ若者も多数います。
ただ、やはり最低限の生活に不自由しない先進国の民の方が、契約者となる機会に恵まれているようです。
一方で、発展途上国では世界好景気に乗ることもできず、むしろ援助されるはずの資金がパラミタに回されるなど、不況が続いています。
鏖殺寺院はこれらに目をつけ、契約相手を紹介する事を条件に、組織に入るよう求めて組織拡大を図っているようです。
古王国の遺跡などからは、現代のシャンバラやパラミタ、地球のテクノロジーでも再現不可能な品物が発見されています。
代表的なのは剣の花嫁が守護する光条兵器や、機晶姫であり、これはシャンバラの女王が“閉ざされた国ポータラカ"から教えてもらた技術と言われています。
ポータラカはパラミタ北西部にありますが、この5000年間他の国とは一切の接触を絶っていました。
現在では、ポータラカ人は伝説の大陸ニルヴァーナからパラミタにやってきたニルヴァーナ人だったことが判明しています。
約1万年前に滅んだニルヴァーナ文明は、非常に高度な機晶技術を有していました。
また、その他にも「女王器」と呼ばれる巨大な魔力を秘めたアイテムが発見されています。女王器とは、シャンバラ女王の力を使って作られた魔法の品で、いずれも非常に強力な魔力を帯びています。
高根沢理子が手に入れた「斬姫刀スレイブ・オブ・フォーチュン」も、そんな女王器の一つです。
しかし中には、シャンバラ女王とは関係ないものの強大な力を持っているので、あるいは魔力はたいしたことないが、女王ゆかりの品だという理由から、女王器と呼ばれる物もあります。
また最近ではアムリアナ女王が復活した影響で、イコンの製造プラントが多数、復活しています。
飛空艇にしろ、イコンにしろ、現在使われているテクノロジーであっても、今の技術では、それらを一から製造することはできません。
遺跡から発見された機体を修復や改造したり、復活した製造プラントに残されていたマニュアル通りに作成することしかできません。
こうした古王国の秘宝が現在になって相次いで発見、復活しているのは偶然ではありません。
国家神である女王の復活やシャンバラという「国」の復興に呼応して、封印状態が解除されているのです。
逆を言えば、女王が死亡してシャンバラが滅んだ際に、そうした様々なアイテムはその動きを止めて、姿を消してしまったのです。
もしまたシャンバラ女王が死に、国家としてのシャンバラがなくなれば、それらのアイテムは再び姿を消すことになるでしょう。