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リアクション
第六章 ――第三層――
・守護者の力
図書館に突如として現れた無貌の守護者。
その人物の魔道書が光を帯びていく。
「排除する、とは……間の悪い時に入ってしまったのう」
守護者にの思念による排除勧告が聞こえるのと同じくらいに、マトーカ・鈴木(まとーか・すずき)は図書館内部へと入り込んでいた。
「どうやら戦うようじゃな。足を引っ張らないように、なんとかするかのう」
パートナーのカシス・カシェット(かしす・かしぇっと)とともに、図書館内部でこれから激化するであろう戦闘に身を投じることになった。
ちょうどその時、
「なんだ、この力は……向こうか!?」
駿河 北斗(するが・ほくと)は感じ取った力の気配のする方へと駆け出して行こうとした。だが、
「待ちなさい馬鹿。あんた一応魔法学校の合格者でしょ? あの途方も無い魔力、分かんない筈無いわよね?」
と、彼のパートナーであるクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が彼を制止する。
「でもよ、これほどの力の持ち主だぜ? さらなる高みに上り詰めるにも、コイツは倒さねーと」
「いい? 相手は一つの遺跡全てを覆うほどの魔力の持ち主なのよ。真正面からぶつかったところで敵うはずもないわ。だから……」
クリムリッテは続ける。
「探すのよ、敵の弱みを」
「弱み、だって? あるのか、これだけの魔力の持ち主に?」
北斗が問う。
「逆に考えて見なさい。あれだけの魔力があるというのに、あっちは遺跡規模の幻、何て大魔法をこの無数にある本全部に纏めて付与してたのよ。おかしくない? それはつまり、ここにあるものが自分にとって不利益な『何か』を含んでいるから、欺かなければいけなかったって事かもしれないわ」
一つの仮説を導く。強大な魔力を持っていながら、幻を以て書物を偽らなければならなかった。それは遺跡の秘密を守るだけでなく、自らの安全を確保するためだったのではないか。そしてそれを脅かすものとは、、今まさに光を放っている書物ではないのか、と。
「ベル、資料検索はあんたの得意分野でしょ? 光ってる本の回収! 北斗は最近盗賊の技を勉強してたわよね。罠外すのはあんたよ。で、私が読む。さあさあ、適材適所。怪物狩りと行くわよ!」
その言葉を受け、北斗のもう一人のパートナーであるベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)はやむを得ず、という様子で手にしていた本を閉じて立ち上がる。
(光っている本の半分が本物の魔道書だとしたら、ここは……)
「さっきの声、それに何……あれ? 顔のない白い仮面の男? この遺跡の守護者?」
ちょうど図書館に足を踏み入れた秋月 葵(あきづき・あおい)は、目に映り込んだ守護者の存在に圧倒された。
「みんな戦闘態勢に入ってる、だけど迂闊に近付こうとはしてない。結界? どうしよう、逃がしてくれるような雰囲気じゃないし……」
下手に動くことが出来ず、ただもどかしさだけが残る。
そして彼女は覚悟を決めた。
「やっぱり、戦うしかないよね。エレン、何とか時間を稼ぐから、状況打破できる案を考えてー」
パートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)に助けを求める。今はまだ、守護者の力量を知ろうと、その場の者達も様子見に徹する事で精一杯だったのだ。
「わかりました。おや、あれは……」
エレンディラが見つけたものは、光る本とそれを手にしている人だった。見渡せば、それを探している者もいる。
(もしかしたら、あれが何か戦いの役に立つかもしれません)
そこで彼女はイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)に対して光る本を取って来るよう指示した。
「まずはこの魔道書を試してみましょう」
ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)は例の光る本――魔法陣の描かれた魔道書と思しきものを開く。
無事に開いたところを見ると、どうやら単なる魔力を貯蔵した「ダミー」ではないらしい。書物に込められた古の知識と魔力が流れ込んでくる。
「いきますよ」
真っすぐに守護者を見据えるランツェレット。彼女の眼前に光の線によって描かれた魔法陣が出現。
そして陣の中心に集束された魔力は――波動となり守護者の結界を貫いた。
「隙アリ、です!」
結界が破れた事により、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が守護者の眼前に飛び出す。ブラックコートを身に着け、隠れ身と光学迷彩によって姿を消していたために、その場の他の者にも気付かれずに破れた結界の内側に侵入出来たのだ。
さらに、隙を完全なものとするために煙幕ファンデーションによる視界封鎖、弾幕援護
と敵を撹乱する。
だが、守護者はその場を一歩も動かない。指一本さえも。
「みしるしをいただけますか? いえ、是非ともいただきますね」
狙うは無貌の白い仮面。完全に間合いには入っていた。
だが、
「え……?」
その一撃を打つ事は叶わなかった。光の矢が彼女の両腕を完全に捉え、貫いていた。
「一切の動作も詠唱も無しに、魔法を、ですか」
このまま攻撃に徹するのも難しいため、一度後方へ退く。
「まだ正面からは厳しい、か。結界は?」
光条兵器、黒の剣を構え様子を窺っていた樹月 刀真(きづき・とうま)が呟く。結界を視認することは難しいものの、一瞬だけ守護者の周囲が明るくなったことから、張り直されているようである。
「結界か。厄介だけど、行けるぜ!」
続いて攻撃に出たのは葉月 ショウ(はづき・しょう)である。何か策があるようだ。
「貴方は私を楽しませてくれるよね?」
彼のパートナーである吹雪 小夜(ふぶき・さよ)もまた、前に出る。光精の指輪の人工精霊を呼びだし、敵の注意を少しでも引き、彼をサポートする。
しかし、相手は視覚に頼っているわけではないようであり、一切翻弄される気配はない。
「これならどうだ!」
ショウは光条兵器による斬撃を敵に与えようとした。光条兵器の特性「自分の意思で斬るものと斬らないものを選択出来る」事を利用し、結界を破れると踏んだのだ。
「何っ!?」
武器と結界が衝突し、バシュウ、と音を立てる。それどころか、結界の反動でショウが勢いよく跳ね返される。
「ショウ!」
それを小夜が受け止める。結界を破らない限りは、あらゆる物理攻撃の類は意味をなさないようだ。
「こちらの本ならどうですか?」
ランツェレットは先程とは異なる魔法陣の書物を開く。先程の本は中に収まった魔力を使い果たしたらしく、もう輝きを放ってはいない。
今度は直接攻撃ではなく、身体強化型の術式だった。
「シャロット!」
パートナーの一人であるシャロット・マリス(しゃろっと・まりす)に対しその魔法を施す。
「これは、力が流れ込んで……」
書から得た知識によれば、一定時間内は通常の何倍もの力を発揮出来るだけでなく、魔力を身に纏い、並みの魔法を打ち消す事すら出来るようになるという。
「こっちは強化型ですか。ミーレス、この魔法陣と同じ模様の本を探してきて下さい!」
「わかったわ!」
もう一人のパートナーのミーレス・カッツェン(みーれす・かっつぇん)に指示を出す。残った最後の一冊は最初に使った直接攻撃型のものであった。
その時、またもや敵の持つ本が強大な光を放った。フロア全体を目に見えぬ力が覆う。
結界の周囲、そして天井に至るまでを光の矢が埋め尽くす。先刻、優梨子を射抜いたものと同じようである。それは優に百を超えていた。その全てが放たれた時、果たしてそれら全てを防ぎ切る事が出来るのだろうか。
「馬鹿な、あれだけの数を同時に操るだと!?」
これには刀真も驚愕せざるを得ない。
そしてそれらは、次の瞬間に一斉に放たれた。
「これは、さすがにまずいですね……」
残された最後の一冊を手に取るランツェレット。眼前には無数に降り注ぐ光の矢。
彼女の前に身体強化の術を施されたシャロットが躍り出る。
「姉さん!!」
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