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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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 一方、こちらは、アディティラーヤ宮殿内に建築中のコンサートホール『愛(ラブ)の間』である。

「ふふん! あたしの宮殿改築のすっごくいいアイデアが、ようやく形になったわね!」

 身長30センチ程の小さなラブ・リトル(らぶ・りとる)が満足気に、彼女にしては少し広すぎるコンサートホールのステージ上から客席を見回す。

「鈿女が余計な口出さなけりゃ、もっとあたし好みのコンサートホールになったんだけどね」

 ラブと共に『愛の間』にいた高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が苦笑する。

「全部あなたのサイズに合わせたコンサートホールなんて作ったら、一体何人入れることになったのかしらね」

「人数じゃないわ! 大切なのはココよ、ココ」

 ラブが自分の胸を押さえる。

「人の心を豊かにするのは芸術……芸術とは歌よ!! つまり、あたしの歌が最高に映える音響を計算したコンサートホールが完成すれば、みんな幸せになれるってこと!」

「そうかしら?」

「そうよ! だからあたし専用の……じゃなかった、みんなで使えるコンサートホールは宮殿に絶対に必要になのよ!」

「そうやってハーティオンに土木関係を手伝わせてたのね……」

 鈿女が黙々とコンサートホール造りに汗(油?)を流していたロボットの事を思い出す。

「いいじゃない、セルシウスには許可とったもの! それなのに、どうしてこうあたし専用……じゃなくて、もう少し狭くできなかったのかしら? エリュシオンの設計士もミスはするものなの?」

「(……ま、こんなことだろうと思ってはいたけどね)」

 ラブと同じく鈿女もまたセルシウスに、この『愛の間』の別プランを相談していた。

 ×  ×  ×

 ここで話は遡る。

 鈿女はセルシウスと建設前の『愛の間』に居た。

「貴方を呼びに言ってよかったでしょ? セルシウス」 

「どうも依頼してきたラブ殿の指示では小さすぎる気がしていたのだ」

「うん。このままだと、全部あの子(ラブ)にあわせたサイズで、コンサートホール作られちゃうわよ」

 鈿女は、人間で言うと20名も入らないようなコンサートホールの設計図を指さす。

「貴方が直接ハーティオンに指示を出して作った方がいいんじゃない?」

「そうは言っても、私も今仕事が山のようにあるのだ……この『間』だけに専念できるなら、それでもよいがな……」

 丁度そこに、建築資材を運ぶコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が通りかかる。

「セルシウス。これはここに置いておけばよいのだな?」

「うむ。しかしハーティオン殿は誠によく働かれるな」

「私のパートナーのラブが言い出した事。それに、完成すれば多くの人々が訪れる事になるであろう宮殿の改築だ。そのために私も出来る限りの協力はさせて貰うつもりだ。セルシウスも、大物の資材の搬入や構築は私に任せ……」

「ねぇ、ハーティオン?」

 鈿女が言葉を遮る。

「どうした?」

「ラブの案だけでコンサートホール作ると、今、マズいってことを話していたの」

「マズい?」

 鈿女はハーティオンにその『マズさ』について説明する。話を聞いたハーティオンは「ううむ」と唸り、

「良い案があると言うラブだから、私はまずセルシウスに確認をとってから……と忠告したのだが『確認はとっておくから大丈夫だ』と……」

「その確認とやらは、私は聞いていないな」

 ハーティオンの発言にセルシウスが異を唱える。

「……」

「やっぱりラブの独断専行ね」

 鈿女は少し考えた後、セルシウスに言う。

「ねぇ、ラブ専用コンサートホールを下地にして新しい設計図を書いて貰えないかしら?」

「それくらいはお安い御用だが……しかし基礎建築からやり直しになると……」

「心配ない。セルシウス設計図をくれれば下地はこちらで作っておくぞ」

「ハーティオン殿が?」

「ああ、後は私の方で作った下地を基に、幾度かセルシウスに見てもらって細かい指示を貰えばイメージどおりの建造物ができるだろう」

「なるほど!」

「では設計図が出来たらまた私を呼んでくれ。それまでは使う可能性のある資材を出来るだけココへ運んでくるとしよう。あぁ、そうだ!」

「ん?」

「セルシウス。宮殿の改装が終わったらで構わないが、私の家も作って欲しいのだが?」

「構わぬ、私は設計士だからな。断る理由がない」

「有難い。では!」

 ハーティオンはそう言うと、コンサートホールを後にする。

「頼りになる者だ」

 ハーティオンを見送るセルシウス。

 そのトーガの袖を鈿女が引っ張って、

「ところでセルシウス? 設計図を書きなおすんだったら、ちょっと地下に作って欲しいものがあるんだけれど?」

「地下に? 今の設計図にはそんなものは無かったが……」

「それなりのサイズが必要だから、ラブ専用のコンサートホールじゃ無理なのよ」

 鈿女の眼鏡が怪しく光る。

 ×  ×  ×

 話は現代に戻る。

 鈿女とラブがコンサートホールにて話をしていると、何やら人々の騒ぐ声がする。

「おわぁぁー!? こっちに来るなぁぁ!!」

「きゃー! 誰か苗床化してるぅぅ!?」

「弾持って来い!! 俺が仕留めて……ああぁぁぁぁーーッ!?」

「……何かしら? 様子を見てくるわ」

 鈿女がラブをコンサートホールに残して去る。

「フフフッ……こういう時こそ、あたしの歌の出番じゃない?」

 ラブは彼女専用のマイクを手に取る。

「リハーサルも兼ねて、一曲行ってみようーっと……ん?」

 ラブはふと聞き覚えのある声を耳にする。

「何!? 宮殿の改装工事を邪魔する輩だと!!」

「ガオンガオンッ!」

「ハーティオン! 今こそ出動するのよ!!」

「うむ! 行くぞ、ドラゴランダー!!」

「ガァァ!!」

「……この声、ハーティオンにドラゴランダー、それに鈿女じゃない? 何処にいるのよ?」

 周囲を見回すラブ。しかしコンサートホール内に人影は見えない。

「まっ、いっかー」

 気を取り直して歌いだそうとしたラブ。

 ……と。

 ガガガガガッ!!!! バタタタタッ!!!!

「!?」

 ラブの目の前でコンサートホールの椅子がドミノ倒しのように左右へと倒れていく。

「な……何何何? きゃッ!?」

 今度はラブが立っていたステージが斜めに傾いていき、そこから客席へと伸びる通路が、モーセがアロンの杖を掲げて海を割ったのと同じ様に一直線に割れる。そのあまりの光景に、ハーフフェアリーのラブは羽で飛ぶことすら忘れて、斜めを向いたステージに必死にしがみつく。

「キャーッ!? この世の終わりなのー!?」

 さらに地下から二本のレールが伸びてくる。

「進路クリア。オールグリーン! それと、ハーティオンへ。目標は宮殿内にて暴走している模様」

「わかった! 聞いたな、ドラゴランダー?」

「ガオンガオン!」

 龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)は言葉をしゃべれないが、ハーティオンとは意思疎通が出来るのだ。

「何? テツトパスとやらを追いかけてた方が楽しかったんじゃないのか? だと?」

「ガオンガオン!」

「何? 我のサイズじゃ宮殿内は窮屈だと? 判っているさ。そのためにアレを作ったのだろう?」

「ガオン!」

 ドラゴランダーは「そうか。入れないなら、入れるサイズに入り口を大きくしてしまえばいいんだ!」と閃き、ハーティオンに「ここの建築が終わったらコンサートホールの入り口を大きくするぞ! 今後、偉い奴らを狙って曲者が入り込んでも、それなら我も中で暴れられるからな!」と提案していた。

 そのため、コンサートホール(愛の間)の手前は、階層をぶち抜いた相当大きな造りになっているのだ。

「ひぃぃ!?」

 ラブの目の前をせり上がってくるドラゴランダーとハーティオン。

「被害が拡大する前に、急いで仕留めるぞ!」

「ガオンガオン!!」

「それでは行こう! 龍心咆哮! ドラゴランダー!!」

 爆風を立てて発進するハーティオンとドラゴランダーが、即座に龍心合体し、『ドラゴ・ハーティオン』となって更に加速して飛んでいく。

「う……鈿女ね!! こんなとんでもない仕掛けをあたしのコンサートホールの地下に作ったのは!!」

 ラブが叫ぶと、スピーカーから鈿女の声が聞こえる。

「そうよ。セルシウスが設計図を引き直す際に頼んだの。万が一に備えてコンサートホール地下に『イコン発進施設』を作って、てね」

「あ……あああたしの『愛の間』をぉぉぉーー!!」

「だって最初のラブの設計じゃ、イコンなんて収納出来ないし……第一、効率的じゃないのは私嫌いなのよねぇ……あ、あとね、そこ危ないわよ?」

「は?」

「来い! 龍帝機キングドラグーン!」

 ハーティオンの声と共に、ラブがしがみついていたステージが今度はピンボールの発射口のように完全に跳ね上がる。

「きゃああぁぁぁー!!」

 ラブを吹き飛ばして現れたのは、ハーティオンを発掘した高天原教授が作った、ハーティオンのサポートメカ『龍帝機キングドラグーン』である。

「カウントスタート! 3、2、……発進!!」

 鈿女の声と共に、勢い良く射出される龍帝機キングドラグーン。そして、木の葉のように吹き飛ばされるラブ。

「あたしの歌はぁぁーーーーッ!」

 ラブの絶叫がコンサートホールに反響し、地下のオペレーションルームにいた鈿女は「音響効果もしっかりしてるわね」と感心する。



 先行するドラゴ・ハーティオンに龍帝機キングドラグーンが追いつくのを確認したハーティオンは言う。

「コンサートホール入り口付近に宮殿内で最も広い場所があるはずだ。ドラゴランダー、そこで一気にケリをつけるぞ!」

「ガオオン!」

「行くぞ! 黄龍合体! グレート・ドラゴハーティオン!!」

 ハーティオンの掛け声と共に、龍帝機キングドラグーンがその体を変型させていく。黄金に光るボディにドラゴ・ハーティオンが包まれ、2つが1つになっていく。

「心の光に導かれ、勇気と共にここに見参!」

 眩いばかりの光を放ちながら爆誕したのはグレート・ドラゴハーティオンとなったハーティオンであった。

「暴走するイコンはアレか……グレート勇心剣!!」

 目の前から迫り来る目標に剣を構えるハーティオン。

「セルシウスや皆が苦心して作った宮殿で暴れるとは言語道断……!」

「うおおおぉぉぉーーッ!!」

 近づいてくるパワードスーツから声が聞こえる。

「彗星・一刀両断……」

 剣を上段に構えたハーティオンが力を込める。

「ハーティオン?」

 鈿女の声が通信される。

「非常に残念なニュースよ。あなたの前の暴走パワードスーツ、搭乗者はセルシウスらしいわ」

「……何だと!?」

「もう一度言うわ。乗っているのはセルシウスよ、ハーティオン!!」

「…………」

 ハーティオンは剣をしまい、パワードスーツを受け止めようとする。幸い、大きさ的にはグレート・ドラゴハーティオンの方が倍はある。

 ピッチャーから放たれた豪速球を受け止めるキャッチャーのように構えるグレート・ドラゴハーティオン。

「来い!!」

「うおおおぉぉぉーーッ!!」

 暴走するパワードスーツが真っ直ぐ突っ込んでくる。

「止めるぞ!!」

 だがパワードスーツは、ハーティオンの前で大きく変化し、放物線を描いて彼の顔面付近に来る。

「何だと!?」

 パワードスーツがクルクルと高速回転しながら腕を振り回す。

 べチッべチッベチィィンッ!!

「ぬわぁぁぁぁッ!?」

 顔面を数度叩かれてバランスを崩したハーティオンが蹌踉めく間に、パワードスーツが上昇する。

「おのれ……グレート勇心剣!!」

 一度収めた剣を構えるハーティオン。

「ハーティオン!! ダメよ! セルシウスが!!」

「鈿女、多少の犠牲はやむを得ないッ!!」

 またハーティオンにギュルギュルギュルッと高速回転して向かってくるパワードスーツ。その軌道がハーティオンの前で下方斜めに変化した……その時。

「見切った!! カーブだッ!!」

 腰を据えてスイングされたハーティオンの剣の腹がパワードスーツをジャストミートする。

「うおおああぁぁーーッ!!」

 悲鳴を上げながら吹き飛んでいくパワードスーツが宮殿の天井に着弾し、煙が上がる。

「……セルシウスよ。何故だ……何故、あれほどまでに宮殿造りに情熱を燃やしていた者が、何故このような事を……これほど虚しい勝利があろうか……」

 舞い上がる煙を見つめ、損傷した目からまるで涙のようにオイルを流すハーティオンであったが、その涙(オイル)を後悔したのは、セルシウスが本気でイコンの操縦が下手だったためと知った後だったという……。

 そして、ルカルカと淵により回収されたセルシウスの搭乗していたパワードスーツからは、彼の姿は忽然と消えていたのであった。