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リアクション
その頃、キロスが(不埒な目的で)血眼になって探し続けているテツトパスへ辿り着こうとしたいた者たちがいた。
ここは、遺跡の中でも、特に広い部屋であり、天井と地下へ大きな穴が開き、三階層くらいの高さを持っている。
「物の怪が人間の女人に変化した。やはり妖だったか……だが、我が身を徹して魔物に挑もうとする心意気やよし。どうなろうが己が責任と思い、甘んじて受け入れよ」
上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)は、遺跡の壁に身を隠し、「今回、我はこの女体の豊満なボディでタコを釣るのである。タコ系はこういうのに弱いと聞いたのである。さあ絡みつくがよい!」と、テツトパスが居ると目星を付けた穴の傍へと威勢よく先行したンガイ・ウッド(んがい・うっど)を見つめる。
「シロ……大丈夫かなぁ」
パラサイトブレードを持つ五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)も、壁に身を隠しつつ少し心配そうにシロ(ンガイ)を見つめる。
「ところで東雲? 制服やめてその暑苦しそうな服に変えたの? イメチェン?」
リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は、ンガイよりも、東雲の服装に関心を寄せる。
「え、服? ああ……うん、イメチェン。ちょっとカッコいいでしょ? ははは……」
乾いた笑いをする東雲。元々、身体が弱い東雲は、契約により延命されていたが、以前瘴気を吸い込み体に変調をきたしていたのだ。しかし、これは東雲しか知らないことである。
「ふぅん……ボクにはこの遺跡、結構暑く感じられるけどね……それに」
「それに?」
「さっきモンスターに投げたぽいぽいカプセルの中身が服に付いてるよ?」
「あ……」
東雲が自分の服を見て声を出す。
× × ×
遺跡の探索に赴いた東雲達一行は、遺跡内部にモンスターや機晶ロボットで溢れている状況に、「まだ調査が進んでない所もあるんだろうなぁ。ちょっと探検してみよう」と、奥へと進んでいった。
「機晶ロボットが来るよ!」
一行のメインアタッカーを務める。リキュカリアが素早く先手必勝で、『召喚獣:サンダーバード』をけしかける。
「どうやら敵の数が多いようだな。俺も術師に加勢した方がよいか?」
三郎景虎が東雲に尋ねる。三郎景虎は東雲を弟のように可愛がる、というよりは彼以外眼中に無いのだ。
「そうだね。リキュカリアだけじゃ、ちょっと厳しいかな? お願いできる?」
「東雲の頼みなら。感謝しろ、術師」
「サブちゃん? 間違ってもボクの術に当たらないでね? ……炎の聖霊よ!!」
「誰に言っている! はぁっ!!」
巻き起こる炎の中、『神速』を使って加速した三郎景虎が『軽身功』で壁を蹴り、機晶ロボット達の間に割って入ると、トリッキーな動きで攪乱しながら、リキュカリアが魔法で仕留め損なった敵を『百獣拳』を次々と各個撃破していく。
「物の怪! 貴公も戦え!」
三郎景虎は、我関せずな顔で観戦していた、普段は猫(サイベリアン)の姿のンガイへ叫ぶ。
「フフフ……ネガティブ侍。我は雑魚には興味が無いのだよ。我が狙うはテツトパスただ一匹! 故に活躍の場を譲ってやっているのだ」
「……」
ンガイの発言に、三郎景虎は、いつもより力を込めた拳で機晶ロボットの土手っ腹をぶち抜く。
東雲は手に、ぽいぽいカプセルを持っていた。
「えーと、中に何を入れたか覚えてないんだけど……なんだったかな?」
とりあえず援護とばかりに、カプセルを投げつける東雲。機晶ロボットに当って、中身がこぼれ……。
「あれ? ダメージがない……?」
「なんか甘い匂いね……」
リキュカリアが少し鼻を鳴らす。
「……あ、ショコラティエのチョコだった……」
ぽいぽいカプセルを見つめる東雲。
「ふむ……金属の上にチョコ。それが溶けて、また乳白金の魔女の火により焼ける匂い……実に香ばしいな」
ンガイが頷く。
× × ×
東雲は服に付いたチョコを見ていたが、彼のレゾナント・アームズを付けた手をカサカサと何かが動く。
「東雲。蟻が……」
リキュカリアが指さすと、床を東雲の方へ向かって蟻が多数やって来ている。
「あ……」
僅かに動揺の色を見せる東雲。
「こ、これは……」
「きっと良いチョコだったのね?」
リキュカリアがウインクする。
「ん……そうだね……」
「あれ? 顔にも? ボクがとってあげるよ」
「ああ……大丈夫、自分でするから……それよりシロ、大丈夫かなぁ?」
リキュカリアを制止して苦笑した東雲が、顔や手に付いた蟻をそっと払う。
この時、蟻達はチョコがついた東雲の服ではなく、既に身体の端から腐り始めていた東雲自身を目指していたことに、まだリキュカリアは気づいていなかった。
「……ん?」
テツトパスが出たなら即座に攻撃を仕掛けようと身構えていた三郎景虎が、女体化したンガイの前方から何かやって来るのを発見する。
「あれは……?」
「どうやら、俺達以外にもテツトパスを狙う人間がいたみたいだぜ」
十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)に振り向く。
「そうでふね。リーダー」
子供の頃に賞金稼ぎに剣術を習って以来、一流バウンティハンターを目指す宵一は、賞金首と聞けば黙ってられず、テツトパス狙いで遺跡の中を進んできていた。
そして、ようやく見つけた絶好のテツトパス出現ポイントに普段より彼のテンションが上がっている。
「お姉さまも位置に付いたみたいでふし、そろそろ僕らの罠もだしまふか?」
リイムの提案に、宵一が静かに頷く。
宵一にGOサインを貰ったリイムは、テツトパスを誘き寄せるため、ペットの『クラーケン娘』を遺跡の小部屋の中央に開いた穴付近に向かわせる。同じ軟体類がいるならば、きっとテツトパスも何かしらの興味を持って近づくと考えたのだ。さらに、これと同時に『トラッパー』で罠を仕掛ける。所謂、ルアーを使った釣りに近い作戦である。
尚、『クラーケン娘』とは日本の多摩川で発見されたパラミタダイオウイカの子供(メス)で、この個体は人懐こくビーストマスターでなくても飼う事が出来るものだ。
「餌が2つ……どっちが早くヒットするか、見ものだぜ」
宵一は、リイムの出した『クラーケン娘』と奥の壁に潜む東雲達が出した(と思った)ンガイを固唾を飲んで見つめる。
「ぬ!? イカ女の分際で……こしゃくな! 我以外にタコをおびき寄せれるものか!!」
ンガイは、『クラーケン娘』に対抗して、豊満なボディをクネクネと動かしテツトパスへのアピールパフォーマンスを強化する。
ヌルッ……。
「ん?」
ンガイは自らの足に伸びてくるヌルリと湿った感触を感じる。
「(ほら! やはりタコは我を選んだぞ!! 我がエージェントよ?)」
ンガイは「どうだ!」と言わんばかりに東雲達の方へ顔を向ける。
「……見ていないだと!?」
東雲は、体に付いた何かを必死に払っており、リキュカリアが不思議そうにそちらを見ている。
ただ、三郎景虎だけは、もう少しンガイにタコの足が絡みつくのを待っていた。
そんな間にも、ンガイの腰あたりまでグルグルと巻き付くタコの足。しかし、穴から出てきているのは足だけで、胴体や頭部はまだ見えない。
『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』に跨ったヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は、宵一や東雲達からは見えないほど穴の上空で待機していた。彼女のテンションが宵一やリイムほど高くないのは、宵一に半ば強引に誘われて、止む無くテツトパス退治に向かったからであろう。
「宵一様?」
銃型HCの通信機能を使い、下に待機する宵一に通信するヨルディア。
「何だ?」
「向こうの方達が仕掛けた……生き餌? に掛かったようですが、そろそろわたくしも攻撃しましょうか?」
「まだだ……本体がまだ姿を出していない。下手に攻撃を加えて、穴に潜り込まれたらパーになる」
「そうでしたわね……あら、でも……あの餌の人、そろそろ引きずり込まれそうですけど……?」
ンガイがズルズルとタコの足に引きずられていくのが見える。