リアクション
第七章:アフター……
紆余曲折を経て、悩みに悩んだセルシウスはついに『涅槃の間』をアディティラーヤの最上階に完成させていた。
それは確かに、シャンバラの歴史や全ての文化を集結させたまるで美術館のようなものであった。
自らの作業を終え、見学に訪れた他の匠は、セルシウスの間を興味深そうに見ている。
「やったな、セルシウス」
手伝って貰った彼方に声をかけられたセルシウスは、「ああ……」と気のない返事をする。
「どうしたんだよ? やっとベッドで眠れるんだぜ?」
「うむ……それは嬉しいが……」
どこか納得がいかない顔をするセルシウスの傍では、匠たちが前祝いと称して打ち上げのため、街へと繰り出して行こうと話をしていた。その中で、匠の一人である詩穂は、少しどこかソワソワした様子である。
「(この『間』は良いのですが……隣接するセルシウスさんの仕事場……汚すぎて……あぁ!)」
給仕の家系の血か、詩穂の「お掃除したい!」という願望が爆発寸前であったのだ。
「あの、セルシウスさん?」
詩穂は思い切ってセルシウスに声をかける。
「何だ?」
「そこのお仕事場……詩穂が少し片付けていい?」
「……」
セルシウスは机と仮眠用ソファーが置かれ、出していないゴミ袋が散乱する仕事場のスペースを見やる。
「フ……構わぬ、寧ろ誰かに頼みたいと思ってたぐらいだ」
「本当ですか!! じゃ、やります!!」
詩穂は、早速はたき『ダスター・オブ・プリンセス』を用いて『ハウスキーパー』の技術で掃除に取り掛かる。
「あぁ、だが、そこの机の設計図は……」
「はい、こっちに置いておきますね!」
ドンッとソファーの上に置かれる設計図の束。
「……」
セルシウスはその落ちた一枚を手に取る。
「これは……シリウス殿に頼まれた家だな。確か孤児院……」
さらに一枚を手に取るセルシウス。
「こちらはローグ殿の……」
セルシウスは、しゃがみこんで依頼を受けた設計図を一枚一枚丁寧に見ていく。
「ハッ!!」
セルシウスの頭に何かが閃く。
それは、彼が設計した建築物の未来の姿。そして、そこに生きる人々の明るい未来であった。