|
|
リアクション
「ぬおお!? 我を穴へと放り込み、そこで食す気であるな!! 我がエージェント! 乳白金の魔女! それにネガティブ侍。今こそ攻撃であるぞ!!」
ンガイが東雲達に叫ぶ。その時、リイムの仕掛けた罠、すなわち、カエシの付いた針が現れ、ンガイに絡み付いていたタコの足に突き刺さる。
その痛みから、テツトパスの頭(正式には胴体)が穴から出てくる。全長7メートル程はある巨大なタコだ。
「ヒットだぜ!! ヨルディア、やれ!!」
すかさず、壁から飛び出す宵一。『チャージブレイク』と『ゴッドスピード』を使用し、防御を完全に捨ててテツトパスへと走る彼へと残りのタコの足が伸びる。
「かわす!」
『ゴッドスピード』で上げた素早さで、足の隙間をくぐり抜ける宵一。
「えい!」
ヨルディアは、どこからどう見ても普通のネギにしか見えない杖、歌姫の戦ネギ『零式』をかざす。
部屋全体に、雷と吹雪が上から降り注ぐ。
リイムもまた『エイミング』で充分に狙いを定めてから、装備している『クロス・ザ・エーリヴァーガル』の氷結属性の砲撃で、テツトパスを凍りつかせようとする。しかし、そのバスーカは狙いを定めたつもりであったが、テツトパスの予想以上に早い動きで防御される。
「ごめんリーダー! 外したでふー」
「心配ないぜ!」
宵一は、装備している二本のロイヤルソードで、『アルティマ・トゥーレ』使い、テツトパスに対して氷結属性での攻撃を行おうと試みる。
「ブゥオオオオーーッ!!」
突如、テツトパスは、真っ黒な墨を吐き出す。しかもその墨は液体ではなく、気体であった。
「な、これは!?」
視界が遮られた宵一の足が止まる。その隙に、テツトパスの足の吸盤が宵一の剣にピタリと吸い付き、彼を天高く放り投げる。
「うぁ!?」
「宵一様!!」
ヨルディアが、テツトパスを凍らそうとしていた攻撃を一旦止め、『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』で宵一をキャッチする。
「チッ! 予想以上に素早い動きだぜ……さらに墨まで……」
「わたくし聞いた事がありますわ。タコは知能と目が良いと……」
「凍らしたら、何とかなると思っていたのに……」
既に部屋全体に、テツトパスの墨が広がり、視界は殆ど無い状態である。
宵一は「敵がどんなに軟らかくても、凍ってしまえばその弾性は発揮できない」と考え、テツトパスを完全に凍りつかせた後に破壊する、という作戦を執っていた。
「どらごんで上空から攻めるか……」
宵一はすぐ傍で聞こえた声に驚く。
「中々良い作戦だ。だが、俺も東雲の手前、遅れを取るわけにはいかないのでな」
『龍飛翔突』で高くジャンプしていた三郎景虎は笑うと、猛スピードで急降下していく。
「うおおおぉぉぉーー!? 真っ暗ではないか!! だが、この隙に我の仲間が……」
テツトパスに掴まれたンガイもまた、テツトパスの足を引き離そうと藻掻いていた。
「ハッ!!」
ンガイは、上空を見上げる。
段々と薄れてくる墨の中で、上空から急接近する人影。
「ネガティブ侍!! やっと来たか!!」
三郎景虎の黒い瞳と目が合うンガイ。
「……ちょ、照準が我にもあてられているような気が」
「(……本気であてるつもりはない。一応、東雲が嫌がるだろうからな)」
「ネガティブ侍よ!! 何だその目の怖さは!? よもや我ごと『龍飛翔突』の餌食にするつもりであるか!?」
「(東雲さえ、嫌がらなければ……)」
一瞬そんな考えがよぎるものの、三郎景虎はテツトパスの頭目掛けて、『龍飛翔突』を食らわせる。
金属と軟体動物の間のような、グニャリとした感触が三郎景虎へと伝わる。
「ブゥオオオォォ!?」
「(弾力が強い! 一撃では無理か!!)」
着地した三郎景虎が身を翻し、再度の攻撃に備える。
そこに、ナラカの底に漂う闇黒の凍気を再現する術『クライオクラズム』がテツトパスの動きを凍りつかせて止める。
「お手伝いしますわ」
術を放ったヨルディアが三郎景虎に言う。
「だが、まだ完全には止まって……くっ!」
半分凍りかけた体を動かしたテツトパスの足が、しなりのあるムチのように荒れ狂うが、強い衝撃波で一旦停止した。
「!?」
三郎景虎が振り向くと、墨で真っ黒になった姿の東雲とリキュカリアがいた。
「墨でボクと東雲の服が汚れちゃったじゃない!! どうしてくれるのよ!!」
リキュカリアの『神の審判』による無属性の衝撃波が、テツトパスの足の動きを止める。
「術師! よい働きだ!!」
三郎景虎はリキュカリアを褒めると、『百獣拳』を繰り出し、迫ってくるテツトパスの足を一本へし折る。
「凍らせれば、攻撃の効果も倍になるようだな? 貴公、トドメは任せるぞ!」
「わかってるぜ! だああぁぁーーッ!!」
三郎景虎の『龍飛翔突』にヒントを得た宵一が、『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』から飛び降りる。落下の際、二本のロイヤルソードの内、一本を捨てての『疾風突き』だ。
テツトパスも残りの足を総動員して、上空からの宵一の攻撃に対して防御しようとする。
伸ばしかけた足が突如破壊される。
「リーダーとお姉さまの邪魔はさせないでふ!」
『エイミング』で狙いを定めたリイムが、『クロス・ザ・エーリヴァーガル』を放ったのだ。
落雷のスピードで、宵一の『疾風突き』が、テツトパスの目と目の間、所謂『急所』へと突き刺さる。
動きが完全に停止するテツトパス。
「やったか……」
宵一はようやく胸をなでおろし、ロイヤルソードを引きぬく。
「終わったみたいだね」
ヨルディアの術に巻き込まれて、女体化したまま半分凍ったンガイに『命のうねり』をかけてやっていた東雲が言う。
「あー、真っ黒! 墨をまともに浴びちゃうなんて……」
リキュカリアがガックリと方を落とす。
「帰ったらご飯の前に着替えないとね、東雲?」
「え、う……うん」
東雲はリキュカリアの提案に、曖昧に頷く。
「服、他に持ってきてないの?」
「いや、あるよ……あることにはあるけど、制服しか……」
「? それでいいんじゃないの?」
首を傾げるリカキュリアの前では、三郎景虎と宵一達が健闘を称え合っている。
そして……。
「タコ野郎はどこだぁぁ!!」
キロスが入ってきたのは、そのすぐ後であったらしい。