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リアクション
アディティラーヤ宮殿から、街へくり出したセルシウス。自らがパワードスーツで破壊してしまった『匠』達の間の損傷箇所を修理するための道具や材料を買いに出たのだ。
「……とはいえ」
建築資材は、美羽のコンビニでは少し揃いにくい材料ばかりであり、中々、目当ての物は見つからない。
「ん?」
とある倉庫のような建物の傍に、その黄金に輝く特異さから妙に目立っているゴールデン・キャッツ、所謂『黄金の招き猫型の商用船』が停泊していた。そこからは資材や物資の木箱を荷受けする赤髪の女性の姿が見える。
「あの倉庫のようなもの……もしや店舗か?」
セルシウスが女性と見間違う程の容姿端麗なその人物は、頻繁によく女性と間違われるセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)であった。
セリスは自身が所属する『陽竜商会』の発展のため、街で商会の資材倉庫と他の店の支援のためのさまざまな商品を取り扱った卸売業をしていたのである。
彼が行う卸売業は、他の小売店や商店が、ここから各店の品物(食品、家庭用品、衣服、電子機器、薬品、高級ブランド品、車両、果てには家や店舗の開業用等の一等地や建物、銃器など)を安く仕入れるため、様々なニーズに応えた商品の取扱いを行なっていた。当然、『陽竜商会』の良い金儲けになると考えての出店だ。
「仕事中に済まぬ。貴公、ここで建築資材関係等を扱ってはいないか?」
「……」
荷受けしているセリスは、セルシウスを一瞥すると、
「店舗責任者は中にいる」
それだけ言って、また荷受け作業を開始する。
「中か。済まなかったな、仕事中に」
セルシウスはセリスに礼を言い、店舗へと入っていく。
× × ×
『陽竜商会』の店舗内は、業者相手の卸売業の店のためか、雑然としつつも、キチンと各ジャンルごとに分けられた豊富な品物で溢れかえっていた。
「ぬ?」
セルシウスは、店舗内で『あわび』を見つけるが、既に『売約済』の札が貼ってある。
「あわびをこの地で欲する者がいるとは……と、そういう場合ではない。誰か、誰かおらぬか?」
セルシウスは、店員を呼んでみるも、応答がない。
「むぅ……もぬけの殻とは、不用心な店だな」
ふと、カウンターに置かれた30センチ程の高さの招き猫の置物に目をやるセルシウス。
「……」
「……」
「……何だ? 視線を感じる……おおい! 店の責任者は……」
「我だ」
カウンター上の招き猫が声を発する。
「!? ま、招き猫が喋っただと!?」
「違う。我は招き猫のフリをしているのではない。単に黙っていただけなのだよ」
カウンター上の招き猫こと、マネキ・ング(まねき・んぐ)がセルシウスにニヤリと笑う。
「貴公が店の責任者か? ならば店の商品で探しているものが……」
「わかっている。取り扱い商品のリストを見せてやろう」
マネキ・ングは、カウンターの下から器用に書類を取り出すとセルシウスの前に置く。
「ふむ……ん? 『大帝死後における軍事拡張路線と帝国傀儡化政策』だと!?」
驚愕したセルシウスが、マネキ・ングに問いただそうとすると、
「師匠〜。とりあつかい商品のリストはこっちですよ!」
天真爛漫な明るい声と共にカウンターへ来たのは、どう見ても幼女なルックスのメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)であった。
「……おっと間違えた……」
「師匠は、うっかりさんですね〜」
尚、ほとんどの商品の提供は卸売受付嬢のメビウスが担当し、『あわび』をはじめ、店の特異な黒い品の取り扱いは店舗責任者のマネキ・ングと役割を分担しているらしい。
中には、店舗の黒い品物を怪しむ人間もいたが、そのカモフラージュ対策として店に置いたメビウスの明るさと無邪気さは、表の利用者には安心させるようになっていた。メビウスの明るさがこの店舗を守っていると言っても過言ではないだろうが、彼女自身、全く裏がない人物なので、そんな事はつゆと知らない。
セルシウスは、「間違えた……だけか」と、先ほど見せられた不気味な文面の書類の事を忘れ、必要な資材を購入して店を出る。
「ありがとうございましたー!!」
メビウスに見送られたセルシウスは彼女に手を振る。
「『陽竜商会』か……少し、本国で情報を調べねばなるまいな」
通り過ぎるセルシウスの呟きに、荷受けをしていたセリスが顔をあげ、彼の背中を暫し見つめるのだった。
こうして、自分で壊した宮殿の補修のための資材を買ったセルシウスは、宮殿に戻り、非礼を懸命に詫びたという……。