|
|
リアクション
一方、他の遺跡探索者達と同じく、遺跡を進んでいたのは、国頭 武尊(くにがみ・たける)と猫井 又吉(ねこい・またきち)であった。
「オレ達の遺跡探索の目的はお宝探しな訳だが、この遺跡が牢獄要塞として使われていた事を考えると、こっちが思ってるような金銀財宝が有るとは思え無いんだよな」
武尊の呟きに、彼を先導していた三毛猫姿のゆる族、所謂不良猫の又吉が振り返る。
「どういうことだよ? 武尊? 最初にお宝見つけてウハウハだぜ、て言ってたお前はどこに行った?」
「いや……もしあるなら『トレジャーセンス』に反応が有るだろうからな」
武尊は、彼の第六感が先ほどから全く反応しない事に危惧していた。
「情けねぇな。まだ俺達の冒険は始まったばかりだぜ? このパラ実D級四天王の事前調査を信じろって!」
又吉は、武尊から遺跡探索へ参加すると聞かされた際、「闇雲に遺跡の中を歩き回っても結果が出せるとは限らねーから、頭使わねーとな」と、まずはこの遺跡を予め調査していた。
又吉が行った調査とは、すなわち『小型飛空艇オイレ』に『施工管理技士』を乗っけて、まずは遺跡の外観を確認し、確認後に銃型HCで現在判明している遺跡の構造を把握しようというものであった。
「素人の俺達では分からなくても、土木建築の専門家なら、外観と判明している遺跡の構造から隠し部屋や通路の大体の位置を把握出来るんじゃねーか?」と思っての行動であり、「所謂、餅は餅屋って奴だ」と言っていた又吉。
確かに、銃型HCに予め予測された経路のマッピングを済ませていたため、二人は遺跡内での自分たちの位置は容易に掴めていた。しかし、武尊の言う『金銀財宝』に関する『当たり』は今のところ全くない。
「まぁ、金銀財宝は兎も角として……監獄要塞として使われていたこの遺跡で価値があるモノと言えば、過去のニルヴァーナ大陸の詳細な地図とか牢屋にぶち込まれていた人物の資料。それに、衛兵や看守が使用していた古代の武器等か?」
「所謂、ガラクタってやつか?」
「平たく言えばそうかもな。でも、これらはオレの『トレジャーセンス』に反応するか怪しい代物だから、又吉の先導のみを当てにして探すしかないだろうし」
「任せとけ! 夢はでっかく持とうぜ、武尊よ?」
又吉は、頼りにされていると思い、張り切って歩き出す。
「不安視はしていないぜ。『顕微眼』の拡大視力を使って、怪しげな所を隈なく調べてみれば、きっと何か見つかるさ」
それに、又吉に先導してもらって辿り着く場所が、『トレジャーセンス』に反応したならば『大当たり』って所だしな。と武尊は思う。
「んー……ここは突っ切れるな」
銃型HCを見ていた又吉が、曲がり角の壁の前で立ち止まる。
「どうした?」
「武尊、ちょっとこの壁を破壊するぜ? 外観から把握するに、この方向にも道が有るはずなんだ」
そう言うと、又吉は『機晶爆弾』を手に取る。
「破壊して進むのか……大丈夫か?」
「なぁに、遺跡はセルシウスや匠達が改築なり補修するだろうから、多少ぶっ壊しても問題ないだろ」
先ほども『二重螺旋ドリル』で進路上の邪魔な壁を躊躇いなくぶっ壊した又吉は、慣れた口調で言う。
「セルシウスか……」
又吉が爆弾をセットしている間、武尊はセルシウスの名前から、ある事を思い出す。
現在、色々有って世界的下着メーカー『セコール』空京支社にて丁稚奉公中の武尊は、遺跡探索の前に、セルシウスと会っていた。
× × ×
「ふむ、商業用店舗か。で、何の店なのだ?」
「これだ」
武尊は持ってきたパンフレットを差し出す。
「……下着?」
「オレは今『セコール』という世界的下着メーカーにいるんだ。それで『セコールニルヴァーナ本店』をここに作って欲しい」
「なるほど。して、店への注文はあるか?」
「世界的に有名な下着メーカーのニルヴァーナ本店なので、高級感溢れる作りで頼みたい」
「高級感?」
「そうだ」
「……」
セルシウスは腕組みしたまま天を仰ぐ。
「どうした? そんなに悩むことか?」
「例えばだ、ある者は『高級感』と言われれば金銀の装飾を施したきらびやかなものを想像するが、別の者はとてもシンプルで清潔感のあるものを想像する……何をもって『高級』というのか、考えるところだな」
セルシウスの疑問に、「もっともな意見だ」と頷く武尊。
「うちは下着店だからな。下着で高級と言えば、素材はシルク。そこにレース等を職人が手縫いで付けていく、といったものだが……」
「ふむ。下着の高級さをわかる店舗ということか?」
「まぁ、そうだな。その辺の低価格下着ブランドとは違うと通りを行く人々にわかればいい」
「難しい注文であるが、本店を任せて貰えるならば喜んで引き受けよう」
「よろしく頼む」
武尊はそう言ってセルシウスと握手するが、去り際に、彼の仕事場の倉庫付近に、既に何日も帰っていないセルシウスの使用済みの下着がゴミ袋に大量投函されているのを見て一抹の不安を覚えるのであった。
× × ×
「(……さて、オレの店はどうなることやら)」
ドゴォォーーンッ!!
武尊の悩みは、又吉が仕掛けた『機晶爆弾』の爆発により吹き飛ぶ。
通路内に巻き起こる粉塵に咳き込みつつ、二人は大きく開いた穴からさらに奥へと進むが、道が左右に分かれている。
「こっちだ、武尊」
銃型HCを見た又吉が左へ行こうとするが、「待て」と武尊が制止する。
「どうした?」
「オレの第六感的危機感知能力が、そっちはヤバいと囁いている。この遺跡にはモンスターとか居るって話だが、出来れば戦闘は避けたい」
堅実にそして確実にお宝確保を目指す武尊は、『女王の加護』でヤバいと感じた方にはなるべく行かないようにしていた。
「だけど、銃型HCじゃ、こっちが近道だぞ? それにそっちは外観から見たら……」
「結果として遠回りになったりするのは仕方ない」
武尊は右へと進路を取る。
「ん!?」
彼の『トレジャーセンス』が反応する。
「又吉……おかしなことに、オレの鼻はこっちにお宝の匂いを感じている」
「え?」
不敵に笑った武尊は、右の通路を進んでいく。
× × ×
暫く通路を進んだ時、武尊は立ち止まる。
「こ、ここは……」
武尊の背後から顔を出した又吉も驚愕の表情と共に、全身の毛を逆立てる。
薄暗い中にある、鉄の檻に囲まれた部屋がある室内。檻のあちこちに白骨が散らばっている。
「ろ、牢獄……!?」
武尊は、檻を又吉に『二重螺旋ドリル』で開けてもらうと、その中へ入っていく。
「……この服……こいつらはニルヴァーナ人だな」
下着の傍ら、服飾の歴史も少しかじっていた武尊が、白骨の上にあった衣服の残骸を手に取るとそう呟く。
「罪人の牢獄……」
「違うぜ、又吉。この服は、ニルヴァーナ人でも結構裕福だったり身分が高かったヤツらの服だ」
「で、でも、どうして武尊の『トレジャーセンス』が反応したんだ? ここに隠されたお宝が?」
「そうだな……オレもわから……ん?」
武尊の目が檻の中で重なるように倒れていた白骨の上に注がれる。元は薄緑色だったのだろうか、朽ち果てたドレスを着ている。
「頭蓋骨の大きさから見たら、まだ10代後半くらいの少女の骨か……ハッ!?」
腰骨付近の骨に掛かった一枚の布に目をやる武尊が息を呑む。
それはどう見ても、古代ニルヴァーナ人のパンツ、しかも今までありとあらゆるパンツを見てきた武尊ですら知らない特殊な装飾が施されたものであった。
「そうか……これにオレの『トレジャーセンス』が反応したのか」
しみじみと呟く武尊の傍の壁が不気味な音をたてたのはその時であった。
ゴゴゴゴゴッ……!
「モンスターか!?」
すかさず、又吉が身構える。
「おや? 先客がいたようだな」
姿を現したのは、ゴルガイスを先頭に、グラキエス、それにエルデネスト達であった。
「君たちは?」
「俺達は、遺跡を探索しているんだ。あなた達も?」
「そうだ」
随分楽しそうだな、とグラキエスを見て思う武尊。
「フフ……少しだけ心が踊ったのは……なるほど、隠し扉の先に牢獄があったからですね」
エルデネストは牢獄内を見渡し、ほくそ笑む。
「遺跡内に牢獄か……」
考古学好きなグラキエスも興味深そうに牢獄を見渡す。
「だが、収監されていたのがオレには罪人に見えない。寧ろ、一般人や高貴な者達ばかりなようだ」
「……なぜ、わかる?」
「衣服だ……囚人とは思えない服装の者達ばかりだ」
手に持った古代のパンツをグラキエスへ見せる武尊。
「……」
二人の会話を聞いていたゴルガイスは、近くの白骨を観察する。
「確かにな。いや、中にはレーザーか何かで怪我をした者もいる。この者なんて、骨まで達する怪我をしているし……拷問でも?」
「一般人にか?」
「……こうは考えられないだろうか?」
考古学を学ぶ中で、いくつかの『歴史におけるパターン』を知っていたグラキエスは、自分の考えをゆっくりと話しだす。
「インテグラルとの闘いの後、アディティラーヤはインテグラルに支配されてしまった。その後は、ここがニルヴァーナ人たちを捕まえる牢獄都市に変化していった……と」
「そう考えると……辻褄が全て合うな」
武尊は頷くと同時に、外見の割に幼い表情をしたグラキエスの推測に感銘を受ける。
「君はいい歴史学者になりそうだ」
「ありがとう。だけどあなたの服飾の知識があったからだ」
又吉が「下着専門だけど」と付け足す。
× × ×
「会話を楽しめた」
グラキエス達と別れた後、武尊はそう呟く。
「俺がどれだけ長いこと待ったか……危うく牢獄で昼寝するところだったぜ?」
待たされた又吉は口を尖らせる。
武尊とグラキエスがそれぞれの視点から古代ニルヴァーナ人達について話す会話は、ゴルガイスとエルデネストはグラキエスの楽しそうな姿に特に口を出さず、しびれをきらした又吉が止めるまで続いた。
その別れ際、「武尊。俺の家にも遊びに来て欲しい。歴史の話をもっとしたい」「では、オレの店が街に出来たら一度遊びに来ればいい、グラキエス?」と会話を交わして両者は別れたのであった。
「出会いは無駄ではなかった。向こうの銃型HCからマッピングデータを貰えただろう?」
「まぁな。こっちのも渡したけど……あと、そのパンツどうするんだ?」
又吉は、牢獄内で武尊がゲットした古代ニルヴァーナ人の少女のパンツを指さす。
「セルシウスに言っていた高級感の一環だ。歴史がある、それもまた高級な事だろう?」
武尊は、この古代のパンツを店に飾ると同時に研究し、いつの日かレプリカでも作ろうと考えたのだ。
「これのレプリカをアディティラーヤ本店のみで販売する。いいアイデアだと思わないか?」
「……どうだか……」
ギッギギギ……!
「……」
「……」
少し浮かれすぎていたのかもしれない。
全く警戒を解いてしまっていた武尊達は、遺跡の曲がり角で、バッタリと機晶ロボットと出くわしてしまう。しかも、通路を埋め尽くす数の……。
「逃げるぞ!」
背後からレーザーが飛んでくる中、武尊の声で猛ダッシュをする又吉。
「なるほど! だから武尊は左が危険だと言ってたのか。当ってるぜ」
「褒めてもらうのは嬉しいが、この状況が終わってからにして貰おう」
逃げる武尊と又吉だが、相手も中々しつこく追いかけてくる。
「しつこいな……又吉! 『テレパシー』で応援を呼んでくれ!」
「え? でも……」
「お宝の取り分は減るだろうが、無理して殺られちまうのは馬鹿馬鹿しいからな」
「(いや、パンツはいらないだろう……)わ、わかった!」
又吉が『テレパシー』を使おうと念じかけた時……。
「オレの行く手を邪魔するんじゃねぇぇーーッ!!」
「!?」
二人と行き違うぼさぼさの赤髪を揺らした男が機晶ロボットへ突っ込む。
「オラァァァッ!!」
剣で斬り、足で蹴飛ばし、空いた手で機晶ロボットを投げ飛ばし……次々と蹴散らしていく男・
「キロス!?」
「祥子ぉぉ! 待ってろよぉぉ!!」
既に随分遺跡でテツトパスを探しているため目の下にクマを作ったキロスが暴れる隙に、武尊と又吉は逃げ延びることに成功するのであった。