|
|
リアクション
……。
…………。
……………………。
瞳を閉じていたセルシウスは、そんな未来の姿を想像し、再び瞼を開く。
『涅槃の間』にある全ては、現代にあるモノも置かれている。とはいえ、決してリアルタイムではない。
「ニルヴァーナの世界を一部屋に凝縮した涅槃の間……。病床のアスコルド大帝が居ながらにしてニルヴァーナの世界を感じられる涅槃の間……」
うわ言のように呟くセルシウスが、突然叫ぶ。
「そうか! 涅槃の間とは……その主役は決して建造物や美術品ではなかったのだ!」
「セ、セルシウス!?」
驚く彼方の前を走りすぎたセルシウスは、建築用に置いてあった大きなハンマーを手にする。
「ちょ……何する気だよ!?」
「涅槃の間の総仕上げだ!!」
涅槃の間に並ぶオブジェや装飾物をどけたセルシウスは、彼方や匠達が止めるのも振り切り、突然、ハンマーで室内の壁を破壊し始める。
「ちょっと! セルシウスさん!」
「血迷ったんですか!? セルシウス!」
「セルシー! ストップ! ストップ!!」
「ヒャッハァー! 破壊するなんて漢だな!」
「その評価は今はどうかと……」
「ああ、壁のかけらが! お掃除を!!」
セルシウスの行動に匠達が慌てる中、セルシウスの事を『友』と認めるダリルが一歩前に出る。
「やらせてやるんだ」
一斉にダリルを見る匠達。
「思い出せ。セルシウスは……少しは邪魔をしたかもしれないが、俺達それぞれの『間』造りを黙って見守ってくれた。今度は俺達が、セルシウスの『涅槃の間』造りを黙って見守る番じゃないのか?」
「…………」
ダリルの言葉に何も言い返せない一同は、ハンマーを振るい続けるセルシウスを見守ることにした。
バキィィッ!!
やがて、壁が打ち壊され、外から橙色の光が差し込む。
「うおおぉぉーーッ!!」
さらにハンマーを振るうセルシウス。そして遂に大きな穴が壁に開いた時、汗だくになったセルシウスが振り向いて匠達に叫ぶ。
「見よ! これが私の『涅槃の間』だ!!」
皆が見ると、開いた穴からは新たなニルヴァーナの街並み、遠くの山々、沈みゆく夕日が全て見える。
そして差し込む光が、彫刻や美術品をより良い色に映す。
「凄い……」
誰もが息を呑む美しい光景が『涅槃の間』に現れた瞬間であった。
「皆の希望や情熱が気付かせてくれた……アスコルド様が最も望み、そして私がアスコルド大帝に最も見せるべきは、『ニルヴァーナ』ではなく、その先にある『民が救われた未来』なのだ!」
セルシウスは壁に歩み寄ると、夕暮れの街を行き交う人々を見下ろす。
「見よ、人々の居るこの美しさこそ、ニルヴァーナだと私はそう思う! 貴公らはどうだ?」
夕日を浴びたセルシウスは、両手で匠達に問いかける。
パチパチパチ……。
彼方が拍手を始めると、一同がそれに続き、大きな拍手となっていく。
皆を見渡したセルシウス。その目に熱いものが込み上げてくる。
「あのズタボロ状態からよく復活しましたね……お見事です」
「立派なもんだ、セルシウス!」
佐那と清正がセルシウスの肩を叩けば、
「参ったな、オレの『麺の間』を超える強敵だぜ」
誠治がセルシウスに笑う。
「あたしもココで歌おうかしら?」
ラブが「むー」と真剣に考える。
「アスコルドの目玉パン、またサービスしますよ」
ブルタが彼らしくない爽やかな笑顔を見せる。
「ヒャッハァー! 破壊なんて粋な事、言ってくれれば俺とモヒカンゴブリンがいくらでもやってやるのによぉ!」
別次元のベクトルでセルシウスの行動に共感した鮪が少し残念がる。
「ああ、もう! 詩穂のお掃除を増やしてー」
と、言いつつもどこか嬉しそうな詩穂。
「やるじゃん! ま、俺様の『金剛り騎士像』あってのことだけどな」
そう言うのは、尻に怪我をしたためオットーに車椅子を押された光一郎。
「流石に、本業は強いわね」
ルカルカがセルシウスに握手を求める。
「ありがとう……全ての匠達よ!」
涙を拭いたセルシウスは、ルカルカと握手しようと手を差し出す。
「本当にあり……ガアアアァァl!!!」
皆に祝福される中、ルカルカと握手するため、持っていたハンマーを自分の足に落としてしまうセルシウス。
「ちょ……!?」
今やセルシウスの感動の涙は、滝のような痛みの涙となっていた。
素早く駆け寄った医師のダリルが、痛みで唸るセルシウスの怪我を診察する。
「……見事な骨折だ。全治1ヶ月といったところか」