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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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第二章 恐怖の豪腕! デヘペロ弟s 3

「ペロロロロウウゥゥー! 貧弱、貧弱、貧弱ゥゥゥ!!」
 デヘペロ弟の強烈で無慈悲な一撃を受け、防衛用の機晶姫が粉々に吹き飛ぶ。
 邪魔者を排除し、悠々と奥へ進もうとするデヘペロ弟。

 だが、その前に立ちふさがる者がいた。
 坂上 来栖(さかがみ・くるす)である。

「そのグロテスクな見た目、足りなそうな頭、やっぱ悪魔はこうじゃないとね」
 あれだけの圧倒的な力を目の当たりにしながら、なおも不敵な笑みを浮かべる来栖。
「なんだァ? 邪魔するなら容赦しねぇぞ?」
 デヘペロ弟の鋭い視線を受けても、微塵もたじろぐことはなく。
「失礼、本題に移りますね」
 芝居がかった様子で肩をすくめると、彼女は冗談めかしてこう言った。
「問題:何故私はわざわざこんな所まで来て悪魔の前に立っているのでしょうか?」
「ペロゥ?」
「1、子犬が好きだから 2、正義の味方になりたいから 3、私もブラッディ・ディバインに入りたいから……」
「そんなこと知るかァ!!」
 来栖のセリフを遮って、デヘペロ弟が拳を振り下ろす。
 彼女はそれを全く避けようともせず、あっさりと拳の一撃を受けた……ように見えた。

「残念、はずれです」

 拳が当たる寸前、来栖の姿は無数の蝙蝠の群れへと変じて消える。
 そして、代わりに無数の百足や毒蜘蛛、蛇などが飛び出してデヘペロ弟の身体を這い回る。

「正解は……」

 驚くデヘペロ弟の目の前に、どこからともなく来栖が現れ。
 その手のスカーレットネイルと真空波で、彼の全身を切り裂いた。

「4。……お前達の名前が心底ムカつくから、主に一人称がムカつく」

 吐き捨てるようにそう言って、来栖は返り血を拭……おうとして、はたと気づいた。

 あれだけの巨体を切り裂いたというのに、返り血の量があまりにも少なすぎる、ということに。

「……ってぇなぁ」

 その声に、弾かれたように振り返る。

 確かに、彼女の攻撃は無数の傷を与えてはいた。
 しかしそれはいずれも軽傷どまりで、命を奪うどころか、行動に大きな支障を与える域にも達していない。

「…………!? バカな……確実に殺ったはず……!?」

 とっさに虚影魔術で無数の武器を作り出して雨霰と降り注がせるも、それすら怒り狂ったデヘペロ弟の足を止めることはできない。

「ペロロロロロゥゥー!! 俺たちをテメェらの尺度で量るなよォー!!」
 なぎ払うようなローキック。
「ちっ!」
 ゴッドスピードでどうにか回避し、上空へ逃れた――が。
「!?」
 そこから身体を回転させ、さらに勢いを乗せた裏拳が飛ぶ。
 避けきれぬと悟り、とっさに腕で防ごうとしてはみたものの。

 衝撃は前から一度、そして背中から一度。

 どうにか意識は失わずに済んだが、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられたことに気づくまでに、若干の時間を要した。

(ダメージが大きすぎる……これでは再生が間に合わない!)

 ことここに至って、敵を過小評価していたことに気づいた来栖だったが、それに気づいたのが少々遅すぎた。





<月への港・1F>

 同じ頃。

「バカな!?」
 目の前の光景に、凶司はそう叫んでいた。

 機晶筋肉ユニットで強化され、さらにパワードスーツの機動力で勢いを乗せたエクスの一撃。
 その一撃が、狙い過たずにデヘペロ弟の脇腹に入ったのだ。

「サイズを人間の約6倍……さらに各部位の強度が同サイズの人間の10倍以上と仮定しても……余裕でまっ二つになってなきゃいけないレベルだぞ……!」

 だが、実際には。
 エクスの爪は、デヘペロ弟の脇腹にある程度食い込んだところで止まっていた。
「……ってぇなァ……!」
 デヘペロ弟が怒りに燃えた瞳でエクスを睨みつける。
「エクス! 離脱を!!」
「うん、でも、これ、抜けない……っ!!」

「蚊に血を吸われている時、その部位の筋肉に力を入れて硬直させると、蚊は口を抜けなくなり、血を吸い続けて最後には破裂する」などという都市伝説があるが、実際には破裂にまで至るということはないらしい。
 とはいえ抜けにくくなること自体は事実らしく、要はそれと同じことが起こっているのである。

「ワイアを延ばせっ!!」
「あ、そ、そうかっ!」
 凶司の言葉に、エクスがとっさにワイアをのばして距離をとろうとする。

 けれども、それはさらに事態を悪化させただけだった。
「ペロロロロロウウウゥゥゥーッ!!」
 なんと、デヘペロ弟はそのワイアを掴むと、そのままエクスごと振り回し、次に手近にいたディミーアを狙ったのである。
「ええええぇぇっ!?」
「ちょ、ちょっと!!」
 あわよくばワイアで敵を拘束する予定が、味方のディミーアをぐるぐる巻きにしたあげく、勢い余って激突してしまうエクス。
 二人の美女が縄でがんじがらめになったままぴったりと密着しているわけであり、これはいいエロピンチであるのだが、不幸にも頭の足りないデヘペロ弟にはこの趣がわからない。
「……っ……!」
 絡まったまま不格好に飛ぶ二人を、無慈悲にもたたき落とそうとするデヘペロ弟だったが――次の瞬間、その巨体が大きく後ろに傾いだ。

「……面の皮も厚いのねぇ……嫌になっちゃうわぁ」
 セラフの対神スナイパーライフルの一撃が、狙い過たず眉間に命中したのである。
 しかし、必殺のはずのヘッドショットですら貫通には至らなかった。

「戦力を分散して、この化け物を叩けだって? ……冗談じゃない! 攻撃がほとんど効いてないんだぞ!!」