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第一章 ええじゃないか2

 そのころ別の座敷では、風祭親子の姿があった。
 親子そろってのご登楼である。
 新人遊女のセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、そろって酒を注いでいた。
「あたし、まだ右も左もわからなくって。でも、誠心誠意尽くすから楽しんでいってね」
 明るく、さっぱりとしながらも、どこか色気漂う印象のセレンフィリティ。
 一方のセレアナは、近寄りがたいもののどこか引き寄せる、不思議な雰囲気をもっていた。
「セレンフィリティちゃんにセレアナちゃんか。どちらも甲乙つけがたい。どっちもイイ!」
 父親の風祭 天斗(かざまつり・てんと)は上機嫌に双子の息子、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)風祭 隼人(かざまつり・はやと)に同意を求めた。
 兄の優斗が、あきれたように言う。
「父さん、僕はあまり乗り気じゃないんですよ。僕はあくまでも、父さんが羽目を外すぎないようにと思って、ついてきたんです。決して、遊女さんと遊ぶためにきたのでないんですよ」
 弟の隼人も似たようなことを言った。
「おやじ……またはじまったか。俺はルミーナさん一筋だから、彼女の気持ちを裏切るような遊びはやらないぞ。絶対な!」
「おまえ達は、その年でそんな草食系でどうする。男なら一番興味がある頃だろうに。そのまま年を取って『魔法使い』になっても父は知らんぞ」
 天斗は、女性と疎遠のまま30歳を越えると自動(オート)で人除けバリアがはれるなど、あまりありがたくない魔法使えるようになるのだといった。
 さらに独特の教育論を展開する。
「これは父の教育的指導、配慮だ。『女遊びがしっかりできてこそ男として一人前』。じじいになってから女狂いになっても困るしな」
 そういっては、天斗はセレンフィリティを抱き寄せ、セレアナに膝枕を要求している。
「すみません、こんな父で」
 謝る優斗にセレンフィリティは笑顔を見せた。
「遊女は旦那様方の日常の疲れや心に負った傷を癒すのが努め。高いお金を払って一夜の夢を買いに来てるのだから、お客が望む姿で、望むことを……誠心誠意込めてお応えしたいと思うわ」
「天子……いや天使だ、マジ天使!」
 隼人は感激した様子で叫んでいだ。
「やあやあ、皆さんお楽しみかな?」
 そこへ、イルミンスールからやってきた成金風情の胡散臭い男がやってきた。
 黒衣の仮面の男、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)である。
 クロセルは「マホロバとの良好な関係を築きに復興資金として全財産(73万G=少なく見積もっても約七百三十大判)をもってきた」といい、「この場を全部買い取った、代金はすべて自分持ちである!」と宣言した。
「このクロセル、念願かなって遊郭を訪れることができました!人生の良き思い出として、遊郭デビューを記念して、ぱーっと遊びたいでござるよ!」
 興奮極まって語尾もおかしくなっている。
 また、お大尽が現れたとききつけてて、コバンザメのごとく出現した連中がどかどかと座敷に上がり込んでいる。
 彼はそんなことも気にせず、さらに遊女や芸者、舞妓を呼ぶというお大尽ぶりを発揮していた。
「金に糸目はつけませんよ。それより彼らの経済の活性化に繋がるのですからね」
 芸者透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が、舞や三味を披露する。
 彼女はマホロバ大奥の女官出身で、さらに『竜胆屋(りんどうや)』の看板遊女から直伝の芸を修得したものとして、いっそうの箔がついていた。
「お楽しみいただけたか、クロセル殿」と、透玻。
「GEISYAサイコー!」
 芸者と初めての遭遇に、クロセルはなぜか涙を流しながら万歳三唱をしている。
 もはや彼を止めようとする者はなかった。
 遊女の繭住 真由歌(まゆずみ・まゆか)が、しずしずと前に進み出た。
「花扇の真由歌だよ。今宵のお相手を……ラインツァート様?」
 普段は華奢で小柄な真由歌だが、遊女となるときは『鬼神力』で身体を大きくしている。
 胸もおしりもふとももも豊かに実り、着物の裾からちらちらとのぞいていた。
「おおう、おおう! なんというむっちむち。KIMONOサイコー! よーし、おにいさん張り切っちゃうぞー!」
「ふふ……ボクはそちらの準備もできているよ。ヒールとSPリチャージで一晩中、求め合うことだってできるんだから……」  
 真由歌の一夜のお誘いに、クロセルのテンションは有頂天である。
 勢いのまま、彼女を連れて隣の部屋の襖をあけた。
「お約束では、ここに妖しげな枕と布団が並べられてるはずですよー!」

 ばばーん!

「……!!」
 クロセルが力まかせにあけたその先には、大男の璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)がちんまりと正座していた。
「璃央! こんなところで何をしている!?」
「透玻様……いや、これは、その」
 璃央は璃央からもらったおこづかいをもって、こっそり一人で遊びに来ていた。
 まさかパートナーの透玻と出くわすことになるとは……。
 彼はしどろもどろに言った。
「すみません、私の本意ではなかったのですが、こうしないと出番がなくなりそうで……透玻様にご迷惑はかけられません。ここは腹を切ってお詫びを……」
 いきなりさらし姿になる璃央。
 透玻が制止した。
「やめておけ。ここでまた任侠沙汰でも起こしたら、『遊郭怖い』という感想もらって後ろの人が凹むぞ。今回はパロディなんだからな!」
 訳が分からない説明ではあるが、説得力はある。
「まったくだ。遊郭で遊んで何が悪い」
 透玻たちの背後では風祭親子が、弁護を行っていた。 
「パートナーに見つからずに遊ぶのが、設定的にどれほど難しいことか。なんせテレパシーやケータイで相手のことがわかっちゃうんだからな。彼氏や夫にGPS付きケータイ持たせて監視してるのと同じだぞ」
 彼らには身に覚えがあるのか、しきりにそう力説していた。
「ふーん、それで三人仲良く遊郭通いですかあ。いいご身分ですね」
 軽蔑の視線とともにテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)が柱の陰から現れる。
 ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)があおるようにわめいた。
「浮気だよ。間違いないよ。優斗お兄ちゃん、いつからこんな破廉恥な遊びをする悪い男になったの!?」
「私との約束の果たさず、うつつを抜かしよって。不埒どもには天誅を見舞いしてやらねばなるまいか!」
 鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)も槍を構えてにじり寄る。
 彼女たちパートナーは、優斗たちの跡をつけてきていたのだ。
「皆さん、落ち着いて。僕は不純な気持ちはもってませんよ、ええ。ほんの少ししか」
「何いっても無駄よ。他の女といちゃつくなんて許せません! 早急に連れ帰って、折檻です!!」
 テレサは聞く耳をもたないらしい。
 問答無用である。
 ついには、隼人と天斗が開き直った。
「遊郭で遊んでもええじゃないか。なあ、あんたもそう思うだろ?」
「……え? 俺?」
 今までまったく存在感を見せなかった橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、急にふられて驚いていた。
「俺はただ酒飲んでるだけだよ。もうすぐ花魁道中も始まるし、眺めながら一人で過ごそうかと」
「一人で呑むなんてもったいない。せっかくなんだから……ええじゃないか、なあ?」
「あ? ああ」
 一人でも多くの味方がいたほうが良い。
 隼人は恭司を巻き込むと、『ええじゃないか』と踊り始める。
「俺も踊れと? いや、俺は呑んだけでいいよ」
「そう言わずに。そーれ、 『ええじゃないか、ええじゃないか』!

卍卍卍


「なんなんの、この騒ぎはー!!」
 東雲遊郭に用心棒として雇われていた緋姫崎 枢(ひきさき・かなめ)とパートナーナンシー・ウェブ(なんしー・うぇぶ)は、現場に呼ばれ、その光景を目の当たりにしていた。
 楼閣を取り囲むように、人々が『ええじゃないか』と踊っている。
 輪は、二重三重とだんだんと膨れ上がっているようだ。
 普段、嫁や娘、彼女という女たちに虐げられている男のうっぷんが爆発したのか、多くの男性の姿も見える。
「キミもここの遊女さん? いやー、颯爽とした姿がまた色っぽい。ここは女の子のレベル高いですねー……ふごっ!」
 クロセルにナンパされ見世の奥にと連れていかれた枢は、そこで誰もいないのを見計らって彼に肘鉄を食らわれていた。
「だからぁ、あたしは遊女じゃないっての。おととい来なさいね!」
「遊女に間違われてまんざらでもないくせに、枢ったら過激ね」
 ナンシーがメイスを片手に担いでいる。
 暴漢を片っ端からこれでのしていくつもりだろう。
 実際にすでに5人ほど吹っ飛ばしているが、こともあろうに彼女にはその記憶がないらしい。
 声をかけてくる男達にうんざりしつつも、枢たちはこの仕事を楽しんでいるようだった。
「ねえ、ナンシー。遊郭の顔つなぎに、あたしたちも参加しよっか?」
「えー……まあ、枢がよければ」
「よし、決まりね。変な奴みかけたら、容赦なくぶっとばしましょう!」
 かわいい顔によらず、ぶっそうなセリフを飛ばす彼女たち。
 『ええじゃないか』祭りは、デットヒート気味な(別の意味でも)盛り上がりを見せていた。
 一大ブームがマホロバ中に訪れる予感がしていた。