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リアクション
スタンスタッフを持ちながら監視員にあたっているシオン・グラード(しおん・ぐらーど)は目の前にある光景に目を細めた。
眼前では淡いピンクのワンピース水着に身を包んだレン・カースロット(れん・かーすろっと)が波打ち際で水を足で跳ね上げたりして遊んでいた。
(レンを連れてきて良かった)
楽しそうにはしゃぐレンを見ながらそんな事を思っていた。シオンは一応有志の監視員を引き受けている身だから、遊ぶわけにはいかないが、こうしてプールを満喫しているレンを見られただけで満足しているようだ。
波のプールでおぼれている人や危険な遊びをしている人がいないかと視線をプールへ向け、ちょろっと触手と戯れている人がいるだけであとは問題ない(?)事を確認すると、もう一度レンへと視線を戻した。……はずだったが、ほんの少し目を離した隙にレンの姿が見えなくなっていた。
「レン!?」
探しに行こうとしたその時、背後から温かく柔らかなものが抱き着いてきた。
「シーオーンー!」
「わぁっ!」
レンに急に抱き着かれ、シオンは少し先を歩いていた人にスタンスタッフが当たりそうになり、肝を冷やした。
心臓が落ち着いてきたところで、レンの方へと向き直る。
「こら、レン! 急に抱きつくな!」
「あ、ごめん……気を付けるね?」
しょんぼりとしてしまったレンにシオンはほんの少し罪悪感を覚えた。
「ま、まあ……大丈夫だったから良い」
「うん! あ、そうだ! 私飲み物買ってくるね。シオンは何が良い?」
「じゃあ、スポーツドリンク」
「了解!」
そういうと、レンは足早に近くの屋台へと向かって行った。その後ろ姿を眩しそうに見つめるシオン。
だが、ここでシオンの顔つきが変わった。屋台にたどり着く前にレンが知らない男2人に絡まれてしまっている。急いで、レンの元へと駆けて行った。
「放して! 私、連れがいるんだから」
「え〜? どこにいるし? 別にオレらと遊んでも問題なくなくない?」
「そうそう、俺様たちといた方が何倍も楽しめるんだぜ☆」
(ちゃらいギャル男なんて嫌ー!)
目を瞑って心の中でレンがそう叫んだ瞬間、2人の男たちの声が聞こえなくなった。さっきまでは嫌になるほど聞こえていたのに。レンが目を開けてみると、2人組は青ざめた表情で固まっていた。不思議に思ったレンが後ろを振り向くと、そこには鬼の形相でスタンスタッフを構えるシオンの姿があった。その形相におののき、2人組は何も言わずに退散してしまった。
「あれ? シオン? どうしたの、すごい怖い顔してるよ?」
「いや、別になんでも」
(今度、レンに近づいたら本気で気絶させとくか……未来永劫)
2人組の姿が完全に視界からいなくなるといつものシオンに戻っていた。
「そ? じゃあ、もう一回飲み物買ってくるね」
すぐに行こうとするレンをシオンは腕を掴んで引きとめた。
「待て。俺も一緒に行く」
「え? 私は嬉しいけど……監視員のお仕事は?」
「すぐに帰ってくるし、それに他にもいるから大丈夫だろ」
「うん♪」
レンは嬉しそうに頷く。そのまま2人で飲み物を買いに行くというささやかなデートを楽しんだのだった。