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 たまたま手に入れた1人分の無料チケットを使って、ここに来ていた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は流れるプールに1人でただ身を任せてぼんやりしていた。
「あ、いましたー! 宵一さーん!」
 友人であるセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に話しかけられるまでは。セシルはかなり大胆なデザインの白いビキニを着ていて、かなり扇情的になっているが本人は全く気にしていないようだ。プールサイドで手を大きく振ると一緒に胸も揺れている。
「セシル!」
「来ましたよ! やっぱりこういうのは一緒に遊ぶ人がいないとですよね」
「だよな」
 宵一はチケットを手に入れた時点で、セシルに声をかけていたらしい。現地集合で一緒に遊ぼうと。
 宵一はぼんやりと流れている時に使っていた浮き輪代わりのビーチボールを頭上に持ち上げる。
「これで一緒に遊ばないか?」
「良いですね」
 セシルもプールの中へと入り、さっそく2人でビーチボールで遊ぼうとしたその時だった。何か違和感を感じた宵一はボールを持ったまま固まってしまっている。
「どうしました?」
「いや……、なんか今ヌルッとビリッとしたんだけど……」
 宵一の言葉にセシルも宵一に近づいて、一緒にプールの中を上からのぞいてみると、ほどよく太ったうなぎが宵一の体をすりすりしていた。
「うなぎっ!?」
 2人は声をそろえて驚いたが、次の瞬間には面白いものを見つけたという好奇心に変わっていた。2人で中にいるうなぎを捕まえてみようとするが、ぬるりと逃げられ、うまく素手で捕まえられない。
 そこでセシルはいったん、捕まえるのをやめ、うなぎを観察する事にした。よく見ると、プールの中にはこの1匹以外にもいて、いろんな人に体を摺り寄せて驚かせている。
「人の体にくっつくのが好きなのでしょうか? そう考えるとテイーカップパンダみたいで可愛いかもしれませんね」
「痛いほどではないけれど、電気も発しているみたいだし、そこまで可愛いものじゃない気が……」
 セシルの言葉に宵一は苦笑いをした。だが、捕まえるのをやめ一緒に観察する気にはなったようだ。一度、動きをやめセシルと一緒にプールの中をじっと見つめる。
 すると、さっきまで宵一のそばにいたうなぎが今度はセシルの方へとやってきた。そのまましばらく観察を続けていると、少し水面に浮上してきた。そして、あろうことかセシルの胸の谷間を下から上へと通り抜けた。
「はうっ」
 思わずセシルは身をよじるが、うなぎはその場所が気に入ったのか、何度か同じ動作を繰り返す。
「セシル!? 大丈夫!? 今捕まえるから!」
 そう言ってうなぎへと手を伸ばすが、うなぎを掴もうとするとどうしてもセシルの胸に触れてしまいそうで実行にうつせない。
「えいっ!」
 そうこうしているうちに、少しうなぎに慣れたセシルが自分で捕まえてしまった。
「あ……」
「ちょっとこの子をどこかに預けてきますね」
「う、うん」
 セシルはうなぎを持ったままいったんプールサイドに上がると、近くにいた忍とサフランのバケツに一緒にうなぎを入れてもらい、プールの中へと戻ってきた。
「あとでかば焼きにするんですって。出来たら食べに来てくださいって言ってましたよ」
「じゃあ、出来るまでもう少し遊んでいようか」
「はい」
 2人はかば焼きが出来上がるまで思う存分プールを堪能したのだった。