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リアクション
ディスコ「Deck☆“O”」店内。
フロアには、ハウイ系のBGMが反響していた。
ミラーボールが七色の光を壁や天井、床に反射させる。
「安くみられたもんねぇ! いくら何でもオンナを舐めすぎなんじゃないの!?」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は声を上げた。
「こんなんで釣ろうってんだから“環七”の男ってのはレベルが低いね!」
「いやいや、そうじゃないってばさ」
ボックス席を取り巻いている男達のひとりがニヤつきながら弁明した。
「女の子はスイーツが好き、ってのは世界普遍の法則だからさ。喜んでもらえるかな、って」
「何? どっかのアタマ悪い口説き方マニュアルにでも書いてあった?」
セレンフィリティの正面のガラステーブルには、巨大なチョコレートパフェが置かれていた。
「あぁ、ごめんよ。気ィ悪くしたら下げちゃうからさ」
男がそう言ってパフェの入ったグラスに手を伸ばす前に、セレンフィリティがそれを手にとって引き寄せる。
「別に嫌いっては言ってないし」
「いいのかしら、セレン? 太るわよ?」
隣に座っているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がクスクスと笑った。
「あなたのその格好じゃ、摂取カロリーには相当シビアにならなきゃいけないんじゃないの?」
今のセレンフィリティの姿は、メタリックブルーのトライアングルビキニにロングコートを羽織った、煽情的な姿である。群がっている居る男の視線は、顔よりも、露出した肌の上を這いずっていた。
「取った分はちゃんと運動して消費してるよ」
「鍛えてるわね。そろそろ筋肉が出てくるんじゃないかしら?」
「心配ご無用。体型維持には気を使ってるんで」
「あらあら、お節介失礼しました」
肩を竦めるセレアナの姿も、黒いロングコートの下にホルターネックタイプのメタリックレオタードと、セレンに劣らず男の眼を引くものだった。
セレアナは近くの男に「ねぇ?」と声をかけた。
「ここじゃあ、和風スイーツは扱ってないのかしら? “ザラメ”や“アズキ”を使っているような、ね」
「人の事太るだ何だって言っといて、何よ?」
「私は控えめな甘さが好きなの。砂糖は少しきつくてね、香りが鼻の奥に来るだけでちょっと辛くなる事があるわ」
「人生損してるねぇ、同情するわ」
「人生の価値は、何を得るかだけじゃない。何を感じられるか、よ……ねぇ、あなたはそうは思わない?」
話を横の男等振ってみると、「深いね。深いよ、セレアナさん」と受け答えをしていた。
――“ザラメ”。“アズキ”。“鼻の奥に来る”。
それらしいキーワードを会話に散りばめてみるものの、周囲に何かが変わったような気配はない。
互いに減らず口、憎まれ口を叩きながら、セレンフィリティとセレアナは目線で別な会話をしていた。
――次は“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”行ってみる?
――話題を暴走族にシフトさせましょうか。
彼女達が試みているのは“潜入捜査(アンダーカバー)”だ。
ディスコの客の中に上手く溶け込めたまでは良かったが、問題はこの先だ。会話の端々から何とか“尻尾”を捕まえようとするのだが、なかなか上手くいかない。
――焦るな。
ふたりは自制する。
――焦れば、こっちが“尻尾”を出してしまう。そうなっては、元も子もない。
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