First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
女王器運搬部隊が警察病院到着すると、手早く「遊夢酔鏡盤」の梱包が解かれ、院内に運び飛まれた。
「女王器管理担当、“空大”の夜薙綾香だ! 患者は何人いる!?」
「現在はひとり、こちらです」
ジェライザ・ローズは答えた。
“環七”北部ショッピングモールで「保護」された“発現者”は、現在別室に移されている。「遊夢酔鏡盤」はその近くに置かれた。運搬部隊の全員もその部屋にドヤドヤと入る形になる。
室内に予め持ち込まれていたビール瓶入りケースから、瓶を取り上げ、栓抜きで片っ端から開けていく。
「器へのビール注ぎを進めるぞ。あと、人数分の椅子を準備。フィレ、女王器資料には眼を通したか?」
「えーと、要約されたヤツなら……」
「よし、器に酒が満たされたら『盤』を起動、この患者とリンクして精神世界を映し出せ。SPが足りなくなったらアストと交代。何かやろうとしたら私がただではすまさん、と言っておけ」
「は、はい」
(よく気がつきますねぇ)
フィレの中で、アストが溜息をついた。
「しかし、ビールか……水面の泡がおさまるのを待たなければならないから、作業効率が落ちるのだが」
「すみません。量と値段の問題を考えると、一番手っ取り早く準備できるのがこちらだったそうで……」
「いや……その辺りの事情は大体察しがつく」
頭を下げるジェライザ・ローズに、「気にするな」と綾香は答えた。
フィレが精神を集中した。
やがて、ビールの水面に、映像が浮かび上がり――
「──!?」
その場にいた者達は、映し出されたものに言葉を失った。
――壁や天井がモゾモゾ動くトンネル。
――肉壁を思わせる壁面床面天井面から、時折小さな虫が這いずり出てくる。
――トンネルの彼方、蠢く虫が集まって塊を作る。その中から助けを求めるように伸びている手。
見てて気持ちの良くない光景だが、一番気持ち悪いのは、トンネルの床面や壁面が動いているのが「脈動」ではない事だ。皮一枚隔てた向こうで膨大な虫の群れが動き、それが壁の蠢きとなっているのが察せられる。
こんな夢を見ているのなら、寝ぼける度に暴れたくもなるだろう。
「……サイコダイブによる処置が必要だな」
「分かりました」
美央が頷き、椅子に座った。
「仕方ないな」
と牙竜も椅子に座り、
「……やっぱり行かなきゃダメだよねぇ?」
「アメ食べる?」
「気持ちだけでいいってば」
そう言いあいつつ、セルマとミリィも椅子に座る。
「一応確認する」
綾香は「夢門の鍵杖」を手に取り、全員に尋ねた。
「『吸精幻夜』を使える者はいるか?」
「ここにいるメンバーで、それを使える人は誰もいないはずです」
『サイレントスノー』の答えに、「それならいい」と綾香は頷いた。
「ドラッグ使用者の見る悪夢なぞ、到底食えたものではないだろうからな」
杖で手早く魔法陣を描く。
「ダイブ開始」
椅子に座っているセルマ、武神牙竜、ミリィ、赤羽美央の体から、一斉に力が抜けた。
ダイブした人員は気色の悪いトンネルに踏み込むと、いきなり奥まで突き進み、塊をかっさばいて中から“発現者”を救出した。
と、トンネル壁面が突然割れて、裂け目から小さな虫が群れをなし、“ダイバー”達に襲いかかってきた。
一匹一匹は小さいが、数があまりに膨大だ。“ダイバー”は攻撃系スキルを習得していなかったので、とにかく苦戦を強いられた。
が、それでも彼らは得物を振るい、スキルを駆使して押し寄せる虫を追い払う。虫は、“発現者”を狙っているらしく、彼を肩に担いだ牙竜は必然的に一番負荷がかけられる状況となった
「……なぜだ?」
“発現者”がか細い声で口を開いた。
「あ?! 何か言ったか!?」
「……なぜあんた達は俺を助けようとする? あんたら誰だ?」
「誰だか分からんようなヤツを救う為に、命をかける物好きだ!」
牙竜は答えた。
「ずいぶんとグロい夢見てるようだな! 多少手間はかかるかもだが、こんな“モノ”は全部ぶっ壊してやる! 心配するな、俺達を信じろ!」
その答えを言い放った瞬間――
虫の群れと、それを吐き出し続ける肉壁のトンネルは消え去った。
彼らの脳裏に、綾香の声が響いた。
(患者が意識を回復するようだ。ダイブアウト。各員ご苦労だった)
現実に帰ったセルマは、不意に気付いた。
――虫の群れと戦っている時、彼は何度も思った。
「この気持ち悪い虫の群れは、一度に燃やして焼き払ってしまいたい」、と。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last