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リアクション
●7.打ち合わせ・張り込みの準備/捜査開始2日目の夕方−夜
環七中央警察署。少年犯罪課内の隅にある打ち合わせ用スペース。
「環七内北四丁目のディスコ『Deck☆“O”』。
環七中央のアーケード街、環七中央一丁目西の裏道。
同じくアーケード街二丁目のバー『ダイヤモンド』。
――最新の情報だとこのあたりだと思う」
グレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)はプリンターから吐き出された書類を取り上げ、その場にいる全員に配った。
場にいるのは、他に、武神牙竜、龍ヶ崎灯、天貴 彩羽(あまむち・あやは)、マイト・レストレイド、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)、イルマ・レスト(いるま・れすと)、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)、狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)と、かなりの大所帯である。
「アングラ系サイトいくつか回ってみたけどこんな感じね。パスワード見つけるのに少し手間取ったわ。“売人”はここらに出没するっぽい。
“環七”北の『セブンスリング』はスポットから外れたみたい。まぁ、あんな騒ぎが起きたんじゃねぇ?」
天貴 彩羽(あまむち・あやは)が眼を瞬かせ、瞼の上から眼球を指でマッサージした。
千歳は少し唸った。
「……“麻取”の場合は囮捜査って有りなんだっけ?」
「日本ではそういう事になってるみたいですね――もっとも、私達は『警察』の、しかも『協力者』であって、『麻薬取締官』なんかじゃありませんが」
イルマがたしなめる。遠回しに「無茶は止めろ」と言っているつもりだ。第一、感情が顔に出やすかろう千歳に、潜入捜査ができるとはとても思えない。
「“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”が今回のドラッグ騒ぎの中心になっているのは間違いない」
牙竜が書類を睨みながら言った。
「だが問題は、その後ろにヤクザとか何らかの“組織”がいるかも知れないって事だ。
溜まり場に手入れをかければ“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”を潰す事は簡単だ。が、こいつらがただの“トカゲの尻尾”だった場合、しばらくしたらまた別な暴走族なり不良グループなりが新しい“代理店”に模様替えするだけだ」
「……ヤクザなら、てめえの下部組織みたいな感じで、暴走族を飼い慣らすって事はあるだろうな。
“路王奴無頼蛇亜(こいつら)”のOBがいる組織って、アタリつけられねぇのかい?」
乱世の問いに、彩羽は首を横に振る。
「警察が把握している限りでは、この“暴走族(チーム)”は結成されてから半年程度しか経ってないみたい。代替わりとかもしてない様だから、そっち方面から“上”を追いかけるのは無理っぽいわね」
誰とも無く、溜息をついた。
(手強い)
それが全員の印象だった。聞き込みをしたり、捕まえた人間を尋問したりして、色々情報をかき集めたつもりだが、敵の正体が――事件の全貌が未だによく見えない。
「――まずは張り込み、だな」
唯斗が口を開いた。
「多少迂遠かも知れないが、地道に捜査を進めていこう。この三点の密売スポットを張り込んで、密売人なり売人を追いかけて、じわじわ進めていくしかない」
かくして、密売スポットへの張り込みをどうするかについて議論がされた。
議論の内容は灯がまとめ、計画案として牙竜が八街警部に提出した。
張り込み担当は以下の通り。
「中央のアーケード街、環七中央一丁目西の裏道
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)
紫月 睡蓮(しづき・すいれん)
プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)
同じくアーケード街二丁目のバー『ダイヤモンド』
狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)
環七内北四丁目のディスコ『Deck☆“O”』
マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)
朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)
イルマ・レスト(いるま・れすと) 」
「人員態勢はこの形で回したいと思います」
「なるほど……『隠れ身』とかいう必殺技を使ったり、腹面パトカーで近場に待機、か」
まとめられた資料を見渡しながら、警部はしばらく唸った。
「……この打ち合わせに出た人間、全員を集めてくれ」
「……はい?」
「張り込みという観点は間違いないが、計画に改善点がある。あと、この密売スポットの周囲1キロ以内の地図を資料として準備してくれ」
計画案は、一度突っ返される結果となった。
密売スポットの近辺には、犯人グループの見張り役がいる事が考えられる。見張り役が探知系スキルを用いた場合、現状の計画案のままだと張り込みがバレる可能性が高い、という事だった。
「手間はかかるが、もう一度慎重に計画を見直すのを勧めたい。
スポットから少し離れているアパート、マンション、オフィスビルに協力を頼んで、監視基地を設置し、そこから望遠レンズつきカメラで監視する、という態勢を取る事を提案する。
暴力団など何らかの組織が関わっている恐れがあるというなら、建物の管理者や責任者に話をする前に、それぞれのビルの背後も念のため洗っておくといいだろう。必ず動きが出るはずだ。
それと、ディスコとバーの簡単な見取り図も入手しておいてくれ。有事の際の突入や出口封鎖のイメージも、今のうちから固めておくといいだろう。
協力依頼の書類はこっちで準備しておく。計画案が改善できたら、もう一度見せてくれ」
「(ゴホン)……えーと」
牙竜は咳払いをひとつすると、少しうんざりした顔の面々を見直した。
「リテイク食らったわけだが……」
「まぁ、何じゃ。ダメ出しされたんじゃ、直していくしかないであろうなぁ」
エクスが息を吐く。
──突っ返された計画案を練り直し、八街警部から許可と書類をもらった後は、監視地点確保の為にあちこち電話をかけたり調べ物をしたり、現地に行って調査をしなければならなかった。
色々と面倒な手間を踏みつつも、「張り込み」の体制は整い、担当各員は自分達の持ち場に着いた。
夜──裏道の密売スポット。
人影がひとり道端に立ち、貧乏ゆすりのように脚を揺らしたり、周囲をキョロキョロしながら時折腕時計に眼をやっている。
待ち合わせにしびれをきらしているように見えなくもない。が、「心理学」や「演劇」に通じた者ならば、それがあまり上手くない「待ち合わせにしびれを切らしてイラついている振り」である事が見て取れるだろう。
その人影の視界の中に、また別な人影が歩いてきた。
道端に立ち止まり、居心地が悪そうにキョロキョロと視線をさまよわせ、身を竦める。時折腕や襟周りなど、肌が露出している所に爪を立て、ゴシゴシと掻き毟る。
薄暗い中、妙な雰囲気のふたりが向かい合う。
「待ち合わせている振り」の方が、路地の入り口に眼を向けた。入り口の方では、不良っぽい少し崩れた服装をしている男が、通りすがりの人間に道を訊かれている様子である。
「……で、ここには今言ったようにして行けばいいんだ。分かったか?」
「はぁ……すみません。もう一度最初から教えてもらえませんかねぇ?」
「……るっせぇな……近所の“お巡り”にでも訊いて来いよ!」
「あのう……交番まではどうやって行けば……」
「知らねぇよ! 誰かに適当に訊けよ!」
「じゃああなたに訊くことにします……」
「だから俺以外の誰かに……!」
「分かりました……ではどなたに訊けばいいか教えていただけませんか?」
「ウゼえからあっち行けよ、もう! しまいにゃあ“躾(シメ)”んぞ、コラ!?」
「『あっち』とはどちらで……」
「待ち合わせている振り」は舌打ちをすると、道を挟んで反対側にいる「時折掻き毟り」の方に眼を向けた。
いつの間にか、貧乏揺すりは止まっている。
ややあって。
「待ち合わせている振り」は、「時折掻き毟り」に向かって歩き出した。
そして、そのすぐ傍に立つと、
「……“アズキ”か?」
と囁いた。
「時折掻き毟り」の方は、うつむいていた顔を上げた。陰気そうな女だ。長い髪が、幽霊みたいな印象を与えた。その怯えたような陰気な顔が、ちいさく頷いた。
「待ち合わせている振り」が、手を差し出した。握手を求めているようなそれではない、「よこせ」のそぶりだ。
「時折掻き毟り」がその上に、しわくちゃの紙幣を数枚手渡した。
「待ち合わせている振り」が、反対側の手をポケットから出し、コインロッカーの鍵をひとつ手渡した。
「……通りをずっと行った所の、コインロッカーだ」
そう囁くと、「待ち合わせている振り」は背を向ける。
が、「時折掻き毟り」の手が伸びて、去っていく背中の服を捕まえる。
「……何しやがる!?」
「……ねぇ、“ザラメ”はないの?」
「ねぇよ……今は品薄なんだ、知ってるだろう?」
「お願い、ホントはあるんでしょう? おカネならあるのよ」
「時折掻き毟り」が自分の衣服のポケットから次々にしわくちゃの紙幣を裸のまま取り出し、「待ち合わせている振り」に押し付けた。
「ほら、ねぇ。おカネ、おカネならあるのよ、ほら、ほら」
「バカ、やめろ」
「お願い、“ザラメ”ちょうだい。どこにもなくて、ここなら売ってるって聞いたのよ。ねぇ、あるんでしょ? “ザラメ”、“ザラメ”ちょうだい」
さっきまで怯えていた眼が今は見開かれ、執着と狂気の光を宿して「待ち合わせている振り」の顔を見ていた。
「待ち合わせている振り」は、慌てて別なポケットに手を突っ込み、もうひとつ鍵を取り出すと「時折掻き毟り」の手に押し付けた。
「お、同じ所にある。とっとと失せろ」
「時折掻き毟り」は、二本の鍵を胸に抱きしめるようにすると、礼も言わずに走り去った。
取り残された「待ち合わせている振り」は、嘆息すると汚いものを拾うようにして、落ちている紙幣を回収した。
「……“中毒者(ジャンキー)”ってのは怖いね……あぁはなりたくないもんだ」
数百メートル離れたマンションの一室。
裏道のスポットでの今の様子は、望遠カメラを通じて大きな液晶テレビに集音マイクの音声つきで映し出されていた。
監視していた「ツン☆デレ」チームこと唯斗、エクス、睡蓮、プラチナムは、息を呑んでいた。
人の姿のままのプラチナは、「本当に行かなくていいんですか?」と言いたげに唯斗の顔を見た。
「いや、あれはいいんだ……その筈だ」
答える唯斗。
「……事前に知らされていなければ、“本物”だと思いますよね?」
睡蓮は手元のウーロン茶を一口すすった。映像に見入ってて、喉が渇いていた。
「鬼気迫る、とはまさにこれよ。恐ろしい恐ろしい」
エクスは頭を横に振った。役者魂――芸道とは、何と業が深いものか。
「時折掻き毟り」は、コインロッカーから小さなビニールのパッケージをふたつ取り出した。
それぞれ白い透明の粉と、赤味がかった透明の粉とが入ったそれを慌ててポケットに突っ込んで、足早にその場を去る。
──大分離れてから、「時折掻き毟り」は立ち止まり、大きく息を吐いた。
「首尾はどうです?」
「時折掻き毟り」にそう声をかけたのは、「ウゼぇ」と怒鳴られた者である。その正体は空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)だ。
陰気そうに垂らした前髪を上げて、
「上々」
と答えた「時折掻き毟り」には、もう執着も正気を失った気配もない。彼女はリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だった。
「“監視役”の気をそらしてくれて助かったわ。なかなか見事な演技だったわよ、狐樹廊」
「蒼空歌劇団俳優会のエースにそう言って頂けるのは光栄ですね」
「では、一度“署”に戻るわよ。『サイコメトリ』は、落ち着いてできる場所の方がいいでしょうからね」
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