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リアクション
●6.“バースト”ふたたび/捜査開始2日目の夕方
「“バースト”発生との通報あり。環七東八丁目交差点角にて、ひとりが『爆炎破』で“自焼”中。近隣の者は直ちに現場に向かい、状況の鎮静化に当たれ」
現場上空に到着したレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、ワイヤークローを“発現者”にひっかけた。そして、またがっている「レティ・インジェクター」を“発現者”を中心にして「公転」させ、そのまま拘束してしまう。
「ミスティ、出番ですよぉ」
「了解」
ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)はレティ・インジェクターから飛び降りて、拘束した“発現者”に「キュアポイゾン」をかけた。
今まで喚いていた“発現者”の、表情を引きつらせていた顔から緊張が抜け、仁王立ちになっていた脚から力が抜けて尻がストンと落ちる。手にこもっていた「爆炎破」の魔力も消えた。
「もしもし。わたしの声が聞こえますか。もしもし?」
ミスティが呼びかけると、“発現者”は眼を瞬かせ、見返してきた。
「……あ……あ?」
「私が分かりますか?」
「あ……うん……」
わずかにだが、首肯の動き。その様子を見て、レティシアが無線機のマイクを手に取った。
「こちら環七東八丁目、“バースト”現場。“発現者”鎮静化を確認。聞き込み要員等応援求めまぁす」
「こちら本部。現場近所のコインロッカーを押さえて下さい。そこが密売スポットで、コインロッカーに“在庫”が隠されている可能性有り」
同時に、ふたりの携帯電話にメールが届いた。見ると地図の画像が添付してあり、現在地から数百メートルほど離れた所にマーカーが立てられている。
(って、ねぇ……)
レティシアは眉をしかめた。
こっちはたった今“発現者”を拘束した。また暴れ出さないとも限らないので、目を離す事など到底出来ない。
「そっちはあたし達に任せてッ!」
その台詞と一緒に、レティシアの横を「光る箒」と軍用バイクが、サイレンを鳴らしながら猛スピードで通り過ぎる。
「愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおいが事件を解決しちゃうよ!! 悪い子は見逃さないんだから!」
そう「光る箒」の上で宣言するのは秋月 葵(あきづき・あおい)だ。
その視界の向こうで、街角のコインロッカーコーナーから大きなバッグを抱えた人影が飛び出し、キーを差しっぱなしのバイクに慌ただしく跨るのが見える。
(こらーっ! そこの人、止まりなさい!)
そう「警告」を発しようとした直前、バイクに跨った人影が振り向いて、叩きつけるようにして指をこちらに向けた。
──!?
どん! という衝撃があった。「光る箒」がぐらり、と揺れ、葵は態勢が崩れる。
(「遠当て」……しまった……!)
「こらぁ! 待てぇっ!」
葵の下で、軍用バイクで併走するイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)が、サイドカーに突っ込んでいた野球用バットを次々に引っつかみ、バックホームよろしく放り投げる。
野球用バットはミサイルのように宙を貫き、バイクに乗った人影に殺到する。
が、あと一歩の所でバイクには届かない。
バイクは改造がされてあるのだろうか、派手な排気音を立てながら走り去っていった。
警察署に連れて行かれた“発現者”の尋問は、若松 未散(わかまつ・みちる)と会津 サトミ(あいづ・さとみ)が行った。
「えーと、あなたは蒼空学園所属の、蟹崎行秀(かにさき・ゆきひで)君。そうだね?」
未散の問いに、うなだれた“発現者”は頷いた。
「嫌な事は、一番最初にやっちゃおうか。
……クスリ、やってるね?」
「……そうです」
「『そうです』、じゃないでしょ?!」
声に怒気を含みながら、横に立っていたサトミが、ばんッ! と机を叩いた。
「分かってるの!? 君がやってるのは『犯罪』なの! 法律違反でやっちゃいけない事なの! 自分のやった事がどれだけの事かって理解してる!?」
「やめなよ、サトミ」
未散は穏やかにサトミを制した。
「飴と鞭」で揺さぶりをかけ、こちらのペースに相手を巻き込む。尋問の基本的な戦術だ。役割分担は言うまでもなく、「飴」が未散で、「鞭」がサトミ。
「やっちゃった事はしょうがないよ。やった事の意味ならこれから分かって、反省して、償っていけばいい。
……そうだよね? そうしたいんだよね、蟹崎君?」
「……はい」
蟹崎は、また小さく頷いた。
――本気でそう思って答えているわけじゃない。
その事なら、未散もサトミも分かっていた。ただ、知らない場所に閉じこめられ、知らない人間に囲まれて萎縮しているだけに過ぎない。
とは言うものの、その「萎縮」をうまくつつけば、こちらを「信頼」させ、「従順」にさせる事も可能だ。
「君は偉いよ。自分のした事をちゃんと悔いて、罪を償おうとしている。それはちゃんと私も分かっている」
二人称を「あなた」から「君」に変える事で、親しみを演出。
「じゃあ、君のやっていたクスリは何? 覚醒剤? シンナー? それとも……」
「……“ザラメ”と、“アズキ”」
「そうか……最近流行ってるねぇ。
さっき、あそこに――環七東の交差点にいた理由は? 街に遊びに来たの?」
蟹崎は首を横に振った。
「“アズキ”、受け取りに来た」
「買った分、なくなっちゃったんだ?」
数秒の間を置いて、首肯。
「……それ以外にも、何かあった?」
「“売り”もやらないか、って。それで、“商品”受け取りに来た」
「ふーむ。お客さんが、店員さんになっちゃうんだ」
「そんな感じ」
「何か、ネズミ講を思い出すね。
そういうのって、よくある事なのかな?」
「結構あるみたい。ウチの“暴走族(チーム)”以外にも。噂だけど」
「君の入っているチームって?」
「“ハイエンド”」
「どう書くの?」
人差し指で、机の上に文字が書かれた。「灰終沫」。
最後の文字には無理して「さんずい」をつける事もないだろう――とは思うだけに留めておいた。
「……もう形だけの名前だけどね」
「形だけ、って?」
「他の“暴走族(チーム)”の下についちゃった。そうでなくても、最近は“暴走(ハシリ)”なんてできる空気じゃないから、ウチらはもう終わりだよ」
「他の“暴走族(チーム)”って?」
「“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”」
――やっぱりこの名前が出たか。
「……君に、最初に“ザラメ”や“アズキ”やらせたのは?」
「“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”」
──!
「手がかり」ではない。これは「証言」、すなわち「証拠」だ。
動揺は、顔にも態度にも出さなかったと思う。
「“店員さん”もやらないか、って言ってきたのは?」
「“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”。同じ」
「……“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”ってのは、すごいねぇ? 暴走族って言うんじゃなくて、扱ってるのがクスリじゃなけりゃ、お店っていうか、会社みたいだ」
「どっちかっていうとヤクザだと思う」
「ヤクザ、ねぇ。
あれかい? 言う事聞かなかったら、殴ったり蹴ったりとかするわけ?」
「“消したり”もしてる、って聞いてる」
「“聞いてる”? 本当は“やってる”んじゃないの、例えばお前が! この人殺し!」
「サトミ! 証拠もないのに人をそんな風に言うもんじゃない!
蟹崎君。それは本当に噂なのかい? 噂じゃなくて、何か知ってるんじゃないのかい?」
「……知らない」
未散は少しだけ、顔を険しくした。
「隠すと、私も君を庇いきれないよ?」
「本当に知らない。噂だけだよ」
険しい表情を緩めた。
「……うん。私は君を信じる事にするよ。
他には、どんな噂があるのか、教えて欲しいな」
「……」
「この……!」
「サトミ!
……ねぇ、聞かせて欲しいのは『噂』だよ、蟹崎君?
噂なら、例えば今ここで君から聞かなくたって、いずれ私達の耳には入るだろうさ。遅いか早いかの違いで、結果は同じ。
そうは思わないかい?」
十数秒の間があって、蟹崎は口を開いた。
「……他には……」
「うん。他には?」
「他には……“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”の背後には本当にヤクザとかがいるんじゃないか、って」
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