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狙われた乙女~別荘編~(第1回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第1回/全3回)

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「お掃除が終わったら、キッチン借りてお弁当作って、川原で食べたりできないかな? ピクニックみたいで楽しそうっ。僕、水着も持ってきちゃった」
 真崎加奈(まざき・かな)がバッグをぽんぽんと叩いた。
「あー、ミルミも持ってくればよかった〜っ。ここの川、とっても綺麗だから、みんなで水浴びとか、楽しめたのに〜っ。ラザンに買いに行ってもらおうかなー」
「お掃除したら身体も汚れるし、ちょっと汚れを落としながら遊べたらいいかも」
「解体作業なんて初めてだよー。ワクワクするよね〜。早く見たいな〜」
 ミルミ達の護衛をしながら、秋月葵(あきづき・あおい)は10フィートの棒をぶんぶん振り回す。
「葵ちゃん、危ない危ない!」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が、葵の手を押さえて止める。
「もー、本の影響受けちゃって……」
 エレンディラはふうと溜息をつく。
 図書館で読んだファンタジーRPGのリプレイの影響で、パートナーの葵の頭の中は冒険者モードである。
 危険なことしないといいなーと思いながらも、きっとするんだろうなーという確信もエレンディアにはあった。
 何せ、別荘は不良に占拠されているって話だし……。
「加奈ちゃん、ミルミちゃん、葵ちゃん、エレンディラちゃん! こっちこっち」
 がテントから顔を出して、馬車から降りた学友の4人に手を振る。
「歩ちゃん、テントの用意ありがと」
 加奈は笑顔でお礼を言う。
「乙女が集まるテント。こういう場所はごろつきに襲われるって決ってるのよね〜!」
「はあ……」
 えいえいと棒を振り上げる葵の様子に、また1つエレンディラは溜息をついて、自分がしっかりしなきゃと頷きながら葵に付き添っていく。
 テントは風通しよく張られており、中には真っ白なテーブルクロスを敷いたテーブルと、椅子が沢山並べてあった。
 端の方には休めるよう簡易ベッドも用意されている。
 周辺で取れた花なども、可愛らしく飾られていた。
「よっ、かわいこちゃん達。俺と隣のテントで良いことしない?」
 テントに入った百合園生に声をかけてきたのは、ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)だ。
「良いことってなあに? 美味しいこと?」
 ミルミがきょとんと首を傾げる。
「うん、美味しいことさ。俺がお譲ちゃんをイケナイ世界にいざなってやるよ」
 ミルミに手を伸ばしたソールの手が、ぺしっと叩かれる。
 叩いたのはソールのパートナーの翔だった。
「って、妬くなよ翔。お前水汲みに行ってたはずじゃ……」
「妬いてません。ソールがテントに入ったのを見て戻ってきました。暇なら手伝って下さい、力仕事でも。それから、白百合団のメンバーに手を出すと、後が怖いかもしれませんよ」
 翔はぐいっとソールの手を引いて、テントから連れ出す。
「また後でね、かわい子ちゃん達〜」
 ソールは懲りずに、百合園生に手を振りながら出て行った。
「またね〜」
 ミルミは笑顔で手を振り、百合園生達もくすくす笑っていた。
「お疲れさまです。昨晩は良く眠れましたか?」
 真言が、クッキーと紅茶をトレーに載せて、休憩所に現れた。
「うん、ミルミ良く眠れたよ! 解体頑張んなきゃっ」
「そういえば……解体作業するとほこりとか大変そうですね」
 真言は軽く顔を顰める。潔癖症なのだ。
「真言ちゃん、ほこりとか苦手みたいだけど、大丈夫! あたしハウスキーパーで、お部屋も皆の身体も心も、不良さん達もぴかぴかに磨いてあげるから」
 歩が布巾でテーブルを丁寧に拭きながら、言った。
「ありがとうございます。だ、大丈夫です。せめてこの休憩所では何があっても耐え抜きますっ、皆様の為にっ」
「このあたりは少し離れてるから、きっと大丈夫だよ」
 先に席についていたズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が真言からティーカップを受け取りながら、そう声をかける。
「はい。皆様のお世話を頑張らせていただきます」
 軽く礼をして、真言はティーカップを並べて行く。
「ありがとー」
「いただきます」
 並べられたティーカップを、ミルミと加奈が早速手に取った。
「笑顔になったら気持ちが安らぐんだよ。ね、ユーリは魔女だから皆に元気が出るおまじないかけてあげるね」
 真言と一緒に入ってきたユーリエンテが、シュガーポットの蓋を開ける。
「元気になーれ、笑顔になーれ」
 そう祈りを込めながら、ユーリエンテは皆のカップに少しずつ砂糖を入れていく。
「ミルミ、ミルクもミルクも欲しい〜」
「うん。それじゃ、もう一つの笑顔の素も入れるね」
 ユーリエンテはミルクピッチャーを取って、ミルミのカップに入れた。
 かき混ぜるミルミの顔が笑顔が広がり、百合園女学院達の女性達も、カップに口をつけて微笑みを浮かべた。
「邪魔するよ」
「うわー、可愛らしい休憩所だね、アイリス」
 アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)高原瀬蓮(たかはら・せれん)、ミルミの友人の百合園女学院の生徒達が次々に現れて、テントの中は華やかな雰囲気に包まれる。
「レモンティや、アイスティ、コーヒーもあります。お砂糖やミルクが足りない方も、仰ってくださいね」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は、トレーを手に皆の周りを回っていく。
「それじゃ、瀬蓮はアイスティ貰おっかなっ」
「僕は、アイスコーヒーを」
「零さないように、気をつけてくださいね」
 ナナは瀬蓮の前にアイスティを、アイリスにアイスコーヒーを置いた。
「お菓子も飲み物の揃ったし、ナナちゃんや皆も座ってお話ししよっ☆」
 ミルミが笑顔でそう言う。
「そうですね」
 ナナが真言や歩に顔を向けると、2人もこくりと頷いた。
 空いている椅子に並んで腰掛ける。
「このお菓子、美味であります」
 力仕事を終えて、お菓子を摘まんでいたジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が、準備や世話をしてくれいていた人達にマドレーヌを配っていく。
「ありがと」
「ありがとうございます」
 歩とナナが礼を言って受け取る。
 世話に回ってた者達、テントの準備を終えた者達も微笑みながら、共に腰かけて調査班の報告を待つことにした。
「おっ、何か今、遠くで物音がしたのう。調査班が現場に残った者達と接触したのかもしれんの」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)も、作業を終えて洗った手を拭きながら現れて、ナナと一緒に腰かけた。
「話し合いで解決できればいいのですけれど……」
「なに、心配はない。不良如きに劣る者はわしらの中にはおらんのだから」
「そうですね」
 ナナとファタは微笑み合いながら、お菓子に手をつけた。
「そういえばミルミさん。解体工事のことですけれど、付近に民家や森もありませんし、火術で外装から燃やしてしまってもいいのでしょうか?」
 ナナの問いに、ミルミが後に控えている執事のラザン・ハルザナクに顔を向けた。
「ルリマーレン家としては、燃やしてしまっても構わないという考えです。ですが、工事の方々で欲している方がいたのなら、その秘宝に該当するものを差し上げてもいいと考えているため、欲している方がいるのなら、秘宝回収後が望ましいと思われます」
 ミルミに代わり、ラザンが答えた。
「そうですか。ありがとうございます」
「あとそれから『乙女』にまつわる伝承とか、心当たりない?」
 ズィーベンが、ラザンに問いかける。
「特には……」
「では、このあたりの伝承や言い伝えについて、ご存知の方はいませんか?」
 ナナは集まっている人々全員に、尋ねる。
 百合園女学院の乙女を中心とした少女達は、カップやグラスを手に首を傾げたり、首を横に振る。
「んーと、ママ達が言うには、このあたりにはずっと昔、村があったみたい」
「どんな村ですか? 産業とか、種族とか」
「わかんない。でも飛べる女の子が沢山いて、ヴァイシャリーの人達とも仲良しで、ミルミの家のご先祖様とも仲良しだったみたいよ。でもずーっとずーっと昔のことだから、それくらいしかわかんないの」
「そうですか……。その村について、他に何か知っている方はいませんか?」
 ミルミの話を聞き、ナナは再び皆に尋ねてみるが、パートナーのズィーベンを含み、皆首を横に振る。
 誰一人、村の存在は知らないようであった。

 周辺の清掃という名目で牛皮消アルコリア(いけま・あるこりあ)は、ゴミ溜めとなっている沼近くにシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)を連れ出していた。
「……何だ?」
 真面目にゴミを回収しようとしたシーマは、アルコリアがべたべたと自分に触れていることを怪訝に思う。
「いえ、ゴミの下に蛆虫さんが集まっているのが見えましたので」
「え?」
 ゴミの方に目を向けたシーマを、アルコリアはえいっと突き飛ばす。
 シーマの身体には、ふんだんに密を塗ってある。
「わっ!?」
 ゴミ溜めの中に突っ込んだシーマは……自分の顔の下に、口の傍に、あの存在を見てしまう。
「〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
 立ち上がった自分の身体に、黒く光るアレが、油虫と呼ばれるアレの存在があった。
 即座にアルコリアはスプレーショットを放ち、虫を一掃する。
 シーマは軽く悲鳴を上げた後、無我夢中で剣を抜く。
 アルコリアはくすくすと笑っている。
「シーマちゃんが引きつけてくれたお陰で、虫を休憩所に向かう前に始末できました」
「……実に世界とか滅ぼしたい気分だっっ」
 シーマは何も無い空間に剣をぶんぶん走らせる。この依頼を受けたことを酷く後悔しながら。
「不衛生なのが怖いだけで、油虫も鼠も、薬品食肉に利用される判例はいくつもあるんですよ」
 アルコリアは変わらず笑いながら、そっと目を別荘の方へと向ける。
「ゴミ溜めにいるからゴミなんです、複数形単数形どちらも兼ねてゴミなんです。――分かります?」