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リアクション
「『麗しき乙女』ってどんなものなんだろうね、美海ねーさま」
蒼空学園の久世沙幸(くぜ・さゆき)が、目を輝かせて言うと、パートナーの藍玉美海(あいだま・みうみ)の手が伸びて、彼女の身体を胸の中に抱きしめた。
「きゃっ」
途端、沙幸小さな声を上げて真っ赤になる。
可愛らしい反応に満足をして、美海は沙幸を解放する。
2人が向かっているのは、別荘の裏。正面から下見をする皆より先に裏口から2人で入ろうと考えたのだ。
裏口には月の光も届いておらず、沙幸は怖くなって……だけれど、好奇心から逃げることはせずに、裏口のドアを引いた。
……中は、思いの他、汚れてはいなかった。暗くて判らないだけかもしれないが。
しかし、聞いていたとおり、ゴミが散らばっている。
2人が足を踏み入れた途端。
カタンと小さな音を立てて、突如近くのドアが開いた。
「きゃあっ」
害虫がいると聞いていた沙幸は持っていた噴射式殺虫剤を放った。
「ぶあっはっ、げほっ、何しやがるッ!」
現れたのは柄の悪い少年だった。
「何だ!?」
その後からも、入れ墨のある少年が姿を現す。
「ひぃぃぃ〜お化けぇぇぇ〜」
叫び声を上げ、噴射を続けながら沙幸は飛び出す。
「待ちやがれ!」
他の部屋からも少年達が出てくる。
「大きな害虫さんですわねぇ」
美海が火術を発動する。噴射しているスプレーに火が付き、業火となる。
「ぐはっ」
「あちっ」
少年達はドアを盾に避難をする。
沙幸と美海はその隙に遠くへと逃げて行く。
火力は強かったが、一瞬だ。引火するほどじゃないだろう。
お化けお化けと、悲鳴を上げながら走る沙幸を見ながら、さて、どうやって慰めてあげようかと、美海は艶やかな笑みを浮かべるのだった。
「なんか騒がしくなってきたけど、引きつけててくれれば助かるかな」
イルミンスールのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、空飛ぶ箒に乗って、別荘に近付く。
「仲間を巻き込まぬよう注意しろよ」
機晶姫のジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も空飛ぶ箒に乗り、カレンの後に続く。
2階の、真ん中付近のバルコニーに近付き、開いている窓の中に、瓶を投げ込んでいく。
「ちゃんとした実験が出来なくて困ってたんだ。沢山ゴキブリや鼠がいる所なら、すごくいいデータが取れるよ」
喜びながらぽんぽん投げ込んでいる瓶の中には、カレンが調合した薬が入っている。
「うぐー」
「ぎゃー」
僅かに開いていた外倒し窓の中に投げ込んだ際、小さな悲鳴が聞こえた。
「誰かいたのかな? ま、人体には……そんなに影響は無いと思うから大丈夫!」
言いながら、次の窓へと飛ぶ。
「試しに適当なのを選んで舐めてみたら、2,3日寝込んだけどね」
「それは大丈夫とは言わん」
ジュレールは溜息をつきながら、カレンの後に続く。
「カレンの作る薬は、ろくな物じゃない。大体、料理もまともに作れぬのに、薬など作れるものか。……だが、この家に入り込んでるのはロクでもない輩のようだからな。丁度いい薬になるかもしれんな」
「あいつらにこの薬が効けば、害虫、害獣相手にもばっちりでしょ……さすがに」
窓から飛び出そうとした不良の上空に飛ぶと、カレンは微笑みながら緑色の団子を投げ入れていく。
「差し入れだよー」
「煩いハエ共め!」
「おっと、これも受け取ってくれ」
不良が銃をカレンに向けた。すかさず、ジュレールがカレンから預かっていた瓶を幾つか不良のいる部屋へと投げ込んだ。
途端、異臭が漂っていき、不良が顔を押させた隙に、ジュレールはカレンを引き連れて退散していく。
「不良の溜まり場にでもなってるのか? 出て来い!」
イルミンスールの姫北星次郎(ひめきた・せいじろう)が声を上げる。
「ま、こんな辺鄙な場所に、人がそんなにいるはずないっスよ」
のほほーんと、百合園女学院の飛鳥井コトワ(あすかい・ことわ)が穴を避けながら、屋敷へと近付く」
バン
大きな音を立てて、玄関のドアが開き、木刀を持った少年2人がコトワを捕まえる。
「百合オジョウサマゲット〜。くくくっ、野郎には用はねぇ! この屋敷には俺の配下である100人の兵が潜んでいる。ここは俺達の砦だ。これ以上近付いたら容赦しねぇぜ」
「さあ、来い。楽しもうぜ」
少年達はコトワの手をグイグイ引っ張る。
「待てっ! その娘を放せ!!」
ウォーレンがアサルトカービンを構える。
「見たところ、俺達と同世代のようだが、こんなところで何をしてる? 空家だったかもしれないが、持ち主がいるんだ」
イルミンスールの高月芳樹(たかつき・よしき)は、一応説得を試みる。
「その娘を放して出て行ってくれ。いや、泊まるところがないなら、今晩一日は泊まっていってくれても構わない。話はつけておく!」
「ここは俺達の砦だ。持ち主は俺達だっての。百合園のオジョウサマ方の来訪お待ちしておりまーす」
ぎゃははっと不良2人が笑い声を上げる。
「汚い手、放してくれないっスか」
コトワが冷ややかに言った。冷たい瞳で。
「見ないでくれるっスか? 目が病気になりそうっスよ。知性の欠片も感じない、その腐って蛆湧いた豚みたいな顔を見てると」
「き、さま」
コトワの言葉に激怒して、不良達がコトワの腕を捻り上げる。途端、ウォーレンの銃が火を吹き、弾丸が不良の肩を掠めた。
不良達はコトワから手を放す。
「凍え死んでいく浮浪者にすら劣る。自分に生きてる価値があるとでも? 気付けないなんて惨めっスね」
不良達は真っ赤になって木刀を振り上げた。
「あ、あの……とりあえず、コトワこっちに戻って来い!」
コトワの辛辣な言葉に、ウォーレンは軽く戸惑いながらも退くよう声をかける。
「ママの写真を見ながらへっぴり腰でマスかいてろっス童貞野郎」
後退しながら冷たく最後の一言を投げた途端、玄関のドアが勢いよく開かれる。
窓からも、不良達が飛び出してくる。
「言わせておけば、メス豚風情が!」
「身包み剥いで、沼に沈め――いや、臓器まで売りさばいてやるぜ!!」
飛び出した不良の多さに、星次郎は歯噛みする。パラ実のパートナー契約をしている少年達も混じっているようだ。
「来い!」
星次郎は、コトワの腕を引き川沿いの方に走る。
「やむを得ないか……っ」
「仕方ないわね」
芳樹が火術を放ち、迫り来る不良を牽制する。
パートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、不良の出現に驚いている戦闘を得意としない者達の元に走り、盾となるべくその前に立って構えた。
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