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リアクション
「こういうことだったんですねぇ」
イルミンスールのシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は、わらわら出てきた不良を見て納得した。
ゴミが勝手に増えるのは、変だなあと思っていたのだ。
戦闘は苦手なので、別荘の正面からは早々と逃げ出したのだが、やはり様子が気になるため、ぐるりと回りこんで、裏側に近付いた。
「こちらの方にも、穴があるんですねぇ。罠を作ってる最中だったのでしょうかぁ」
落とし穴というよりは、館の周り全てを掘ろうとしていたようであった。中に水でも流し込むつもりだったのかもしれない。
館から煙が噴出しているが、これは大地が放り込んだ燻煙式殺虫剤だと分かっているので、あえて煙の出ている方へと近付いた。
幾つかは外に放り投げ出されてしまっている。シャーロットは丁寧にその燻煙式殺虫剤を部屋の中に戻してあげた。
「皆、出て言ってますしぃ、ちょっとだけ探検してみますぅ」
ちょっと高い窓枠に手をかけて、なんとかよじ登り、部屋の中に飛び下りる。
「あっ」
暗闇の中、蠢く小さな黒い物体が目に映った。
シャーロットは持って来た日傘を開いて、ガードしつつ、廊下へ続くドアに手をかけた。
途端、彼女が開ける必要もなく、ドアは勢いよく開き、現れた男達がシャーロットをぐいっと引き寄せた。
「男ならブチ殺そうと思ったが、こりゃいい。自ら人質になろうとはな」
不良2人に身体を押さえつけられ、シャーロットの手から日傘が落ちた。
「人質になりに来たわけじゃないですぅ」
抵抗するも、縄を巻かれてしまう。
シュルシュルシュル――
突然現れたモノに、飛び上がり、不良達がシャーロットから手を放す。
「きゃあ……っ」
シャーロットも驚いて、壁に張り付いたまま動けない。
鼠花火だった。
「外に誰かいるな!」
片方の不良が瞬時に窓から飛び出す。
「来い!」
「い、痛いですぅ……」
もう片方は縛り上げたシャーロットの腕を引き、2階へと連れて行った。
木の陰に隠れ、鼠花火に驚く不良達の姿を見て楽しんでいた蒼空学園の皆川ユイン(みながわ・ゆいん)だが、辺りには他に隠れるところがなく、窓から飛び出した不良に見つかってしまう。
でもそれも、狙い通りだ。
「花火はかーちゃんとやるんだな。もっともお家には帰れねぇかもしれねぇが!」
少年が武器を振りかざす。
「皆さんに興味を持ってもらいたくて悪戯してしまいました。子ども扱いしないで。ほら、こう見えても胸は結構あります、し」
ユインは上目遣いで不良を見上げる。
「見たところ、百合園のオジョウサマでもなさそうだが、ま、人質くらいにはなるか」
不良はユインの手を捻り上げる。
「痛い。優しくして下さい」
潤んだ目を向けるも、少年は無造作にユインを引っ張り別荘の中に引っ張って行く。
(むっ、そんなに年変わらないのに、色気が通じないっ。ま、どうにか隙を見て別荘内の探索や秘宝探ししよっと)
そうしてユインは軽い気持ちでワザと捕まったのだった。
カタン
小さな音を立てて窓が開く――。
燻煙式殺虫剤が投げ込まれた部屋ではなく、鍵がかかっている部屋を選んだ。
ガムテープを張って窓ガラスを割り、鍵を開けて泥棒の手口で侵入を果たしたのは雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)と南西風こち(やまじ・こち)だった。
粘着シートを敷き、餌をバラバラと撒いた後、カーテンを引き射し込む月の光をより抑えて、そっと静かに待つ。
「さっそく来ましたね、角のないカブトムシ」
現れた黒い物体を、こちがトングで虫籠に入れる。
しかし、その後は数分待ってもカブトムシ?は現れず。
2人は部屋を移動することにする。
「あ、いました」
こちはカサカサ動く角のないカブトムシを捕まえようとするが、あまりに素早く捕まえる事が出来ない。
リナリエッタは廊下にもシートと餌を撒いていく。
「なんだ、そこで何をしている! てめぇら、外の奴等の仲間だな」
「ん? 今夏休みの自由研究のために角のないカブトムシ採集してるからさぁ、邪魔しないで。……よし、2匹同時にゲット!」
シートに寄ってきたソレをシートごとリナリエッタは掴み、こちに渡す。
「でけぇが、女か!」
男がバットを振り上げる。
「っと!」
リナリエッタは身体を逸らして少年の攻撃を避けた。
「邪魔しないでください」
途端、こちは剣を取ると、剣首をゴスッと少年の大事なところに突き出した。
「!!!???」
声も上げず、少年は崩れて蹲る。
「社会の害虫ー不法侵入者ー」
スプレーを吹きかけながら、嘲笑しリナリエッタは侵入した部屋に飛び込んで窓から脱出を果たす。
こちも虫籠とシートを手にその後に続いた。
「ふん……こいつらが害虫やゴミって訳か。百合女の生徒も、思ったより過激な事言うんだな」
少し離れた場所で眺めていた薔薇の学舎の早川呼雪(はやかわ・こゆき)が言葉を漏らした。
「アウトロー? ドロップアウト? まぁ、何でも良いか」
吐息をついて乱戦が続く正面前から身を引いた。
(薔薇学の奴もいるのかな……。エリートっていっても、ストレスやプレッシャーに弱い軟弱なのはいるんだろうしな……俺は庶民だが)
薔薇学や百合園の中にも、不登校や校則に反発し荒れている者もいる。
複雑な気持ちで喧騒を背に、呼雪は逸れてしまったパートナーのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)を探し、あたりを見回した。
戦闘の続いている場所から少し離れた沼の近くで、イルミンスールの永倉七海(ながくら・ななみ)は、しゃがんでいる春告晶(はるつげ・あきら)に付き添っていた。
念のため、女王の加護とディフェンスシフトを使っておく。
図鑑でしか見たことのない、鼠や虫が見れることを楽しみに、晶は白百合団についてきたのだ。
用意してきた餌に近付いてきた鼠を両手でそっと包み込む。
「待てーっ。つっかまえた♪」
同時に違う方向から飛び込んできた鼠に、飛び込んで捕まえた者がいた。
「おっ、キミもネズミさん追ってきたの〜?」
ドラゴニュートのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は、鼠の尻尾を捕まえてぶらぶら揺らしながら、晶に近付いた。
「可愛い……よ、ね……?」
晶も手の中の鼠をファルに見せる。
「うん、美味しそう〜」
ファルの返答に、晶はきょとんとする。
「よし、見せに行こう。その鼠も貰っていい?」
ファルの問いに、晶は首を左右に振った。
「んじゃ、いいや。またねー」
ファルは嬉しそうな笑みを浮かべながら、走り去っていった。
七海に不思議そうな顔を向ける晶に、七海は「餌をあげよっか」と言い、鞄の中からクッキーを取り出した。
2人で砕いてから、鼠に与えていく。
鼠がクッキーを齧る様子を、晶は微笑みながら見ており、七海はその晶の様子に癒されるのだった。
ここだけ、穏やかな空気が流れていた。
「コユキコユキ〜、見て見て〜!」
ファルは鼠を尻尾を掴みながら、パートナーの呼雪の元に走り寄る。
「きゃっ」
「やっ」
「わっ」
近くに避難していたイルミンスールの緋桜ケイ(ひおう・けい)、護衛に携わっていたカミラ・オルコット(かみら・おるこっと)、及び非戦闘員のミクル・フレイバディ達が小さく悲鳴を上げた。
呼雪は眉を寄せる。
「放し……いや、元のところに置いてきなさい」
「ええ〜! 美味しそうなのに〜」
「いいから元のところに置いてきなさい」
呼雪は強い口調で同じ言葉を繰り返す。
しゅんとしながら、ファルはとぼとぼ歩き……鼠をそっと懐の中に隠した。
「素晴らしい、コイツは一つの生態系だぜ!」
鼠に驚く少女達の中、イルミンスールの瓜生コウ(うりゅう・こう)だけは違った。
この鼠といい。カサカサ動きまわっているアレといい。
そしてあの不良達! 蔦の絡まった別荘。
全てにコウは感動していた。
と。カサカサ動いていた黒き物体が目にも留まらぬ速さで翅を広げ、皆の前を横切った。
コウは蛍を見たか如く、喜ぶも……。
「きゃあああーっ!」
「ケイ、どこへ……ったく」
ケイは少女のような悲鳴を上げて走り去ってしまった。
「戦えない者は、ここに残っておれ」
パートナーの悠久ノカナタ(とわの・かなた)は呆れながらもいつものことなので、ケイのことはとりあえず放っておき皆に加勢することにする。
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