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リアクション
第2章 集落でまったり
百合園女学院前で待ち合わせて、ミルミ・ルリマーレンと集まった人々は、ルリマーレン家の別荘へと向かった。
別荘はヴァイシャリーから少し離れた場所にある。
解体に必要と思われる道具や害虫駆除に必要な殺虫剤などのほか、食料や、豪華なそれは大層豪華なテントや、天蓋つきのベッド、忘れちゃいけない、ミルミの愛用の枕にクッションにクマさんとワンちゃんとウサギちゃんのぬいぐるみも入れて、馬車数台で出発をした。
解体業者やお手伝いの皆さんは、荷馬車の荷台に乗って舗装されていない道を跳ね上がったり、転がりそうになりながら現地に向かっていた。
荷物が多くスピードが出せないため、馬車はゆっくりと進み、夕方近くに、ようやく現地に一番近い集落へと到着し、その晩は集落で休むことになった。
ミルミの乗る馬車の御者も努めていたルリマーレン家の執事兼ミルミの世話役の男性――ラザン・ハルザナクが、集落に1つしかない宿を借り切って、ミルミと百合園女学院のミルミの学友、それから手伝いに来てくれた他校生を宿へと招いた。
皆で楽しく夕食を食べて、一息ついた後、今後の手順について相談を始める。
「誰も使っていないはずなのにゴキブリや鼠、ゴミがあふれている、ということは不法投棄場所にされたか、誰かが住み着いた可能性があります……」
蒼空学園の佐々木真彦(ささき・まさひこ)の言葉に、ミルミの傍に控えていた執事は手を顎に当てて、考え込む。
「調査に向かったのは別の執事ですが、確かに人間のゴミと思われるものも在ったそうです。迷い込んだ者が軒下で雨宿りでもした際に、捨てていったのだろうと考えていました」
「とりあえず、この集落の人も何か知ってるかもしれないし、聞き込みしてみようか?」
関口文乃(せきぐち・ふみの)がパートナーの真彦に言い、真彦は頷いた。
「そうですね。前者であることを願いますが」
「明日に備えて、先に別荘を見てくるって言ってる人も多いけど、あたし達はミルミちゃんや瀬蓮ちゃんの傍にいるね。護衛として来たんだし」
百合園女学院、生徒会執行部に所属する秋月葵(あきづき・あおい)の言葉に、ミルミと友人の高原瀬蓮(たかはら・せれん)は顔を合わせて微笑んだ後、葵に「よろしくね!」と強く頷いた。
「はい。ただ、葵ちゃんも危ないことしないといいんだけど」
葵のパートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、少しだけ心配そうな目を葵に向けた。
「解体工事を傍で見たくて来ただけなんだから、危ないことないよっ」
葵はにこにこ笑って、ミルミや瀬蓮、他の学友達と楽しそうにお菓子を摘まむのだった。
「ミクルちゃんも食べよ食べよ。今日は皆で一緒に寝ようね〜」
白百合団で鈴子を除き、一番の仲良しであるミクル・フレイバディをミルミは隣に呼んで腕にぎゅっと抱きついた。
「鈴子様も一緒だったらよかったんですけれどね」
ミクルはふわりと微笑んで、ミルミの頭を撫でてあげた。
「でも、見物してるだけなのつまんないと思うし、ゴミが飛んできて汚れちゃったら可哀想だから、綺麗な鈴子ちゃんは来なくていいの」
「いやいやいや」
それまでのほほーんと眺めていた蒼空学園の永夷零(ながい・ぜろ)が口を挟む。
「キミ達、手伝う気はないのか? というか、手伝うのは俺達の方だよな!?」
「そうだよ、解体業者のお手伝いしてねっ。でも、お手伝いの皆だけで大丈夫そうだから、うちのラザンの指示に従ってぶっこわしてね!」
「それもそれだっ」
零は天を仰ぐ。
「使わなくなった別荘をそんな状態になるまで、放置しておくとは……金持ちの考える事は解らん。お宝が眠っているかどうかも分からないというのもどういうことだ? 厄介な奴に狙われてるかもしれない? だったら建物ごと解体しよう! ってどんだけバブリーなんだ」
「……んー? 普通だよね」
「そうですね。無難な案だと思います」
ミルミとミクルは当然のように答えた。
瀬蓮とパートナーのアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)は――聞いちゃおらず。2人でほんわかお茶を楽しんでいた。
「えーと、あ……」
「ミクルちゃん、夜はミルミのクマさん貸してあげるね!」
「わーっ、ありがとうございます。嬉しいです」
「いや、そんな場合じゃ……ッ」
お嬢様方のほんわかした雰囲気に、上手い言葉が見つからなくなっている零の隣で、ルナ・テュリン(るな・てゅりん)がそっと吐息をつく。
「ゼロ、彼女達とそなたは住む世界が違うのです。寧ろ、同じ時間を共有しているように見えて、住んでいる世界が違うともいいます」
ルナの言葉に、零は「うっ」と小さなうめき声を上げた。
「そういえば、静香校長は秘宝『麗しき乙女』について心当たりはないようでしたけれど、白百合団の方々は何か心当たりはありませんか?」
訊ねたのは先日のコンテストでミス・百合園に輝いた荒巻さけ(あらまき・さけ)だった。ただし、彼女は蒼空学園の生徒だ。
「誰もわからないみたい」
「……私も、わかりません」
ミルミとミクルが答えた。
「そうですか……。とにかく、別荘の様子は凄いらしいので、燻蒸式殺虫剤は今晩中に使っておくとよさそうですよね」
「そうですね。私もミス・百合園に選んでいただいたご恩がありますし、今回は尽力させていただきます」
パートナーの日野晶(ひの・あきら)もさけと一緒に、ミス・百合園に輝いたのだった。
「お願いしてもいい?」
ミルミが両手をぎゅっと顔の前で組んで二人をキラキラな目を輝かせて見つめる。
「はい。現場を見に行く人達と一緒に行って、置いてきますね」
「行ってきます」
さけと晶は立ち上がって、荷物を積んでいる馬車の方に歩いていった。
「夜のお散歩楽しそうです。私も、ちょと見に行ってきますー」
「ミクルちゃん、気をつけてねっ」
ミクルも立ち上がり、さけ達の後についていった。ミルミは残るようだ。
「全て壊すつもりってことはさ、中の物貰っていいんだよな?」
そのつもりで、ロープ、持ち帰り用の袋6枚に、ナイフに地図に、ポケットには飴にスルメに乾パンというおやつまで仕込み、万全に準備を整えてきたウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)は、確認としてミルミに問う。
「うん。どんなものがあるのか、把握してないけどね! 大したものはないかも」
「よーし、任せとけ! 目星つけておかないとな。たくさん持ってかえて、ジュノに褒めてもらうんだぜ☆ クライス、お前も行くだろ〜」
「え? あ、うん」
百合園生達と談笑していた薔薇の学舎のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が立ち上がり、連れ立って出発する。
「ところで、薬とか持ってきてるよな? ……下剤、あるか?」
イルミンスールのエル・ウィンド(える・うぃんど)の言葉に、お嬢様方は固まった。
「持っております。お嬢様の為にではなく、自分の為にですが」
執事のラザンが急ぎ薬箱を持ってくる。
「ボクもお嬢様達が使うとは思ってないぜ。害虫に上手く食わせることが出来るかもと考えてなー」
にやりと笑い、エルは下剤を受け取る。
「あと、連絡用に携帯の番号とか教えてもらえる?」
「私のでよろしければ。ただ、このあたりは電波が届いていませんが」
このあたりは街から離れており、7都市を結ぶ道路にも近くは無いため、電波が届いていない。
ミルミの別荘も自然が豊かな……いわば僻地にあるため、携帯は使えないだろう。
ヴァイシャリーに戻ってから連絡することもあるかもしれないと、エルはラザンの携帯番号を一応聞いておいた。出来れば女性徒の携帯番号が知りたかったけど! ……それはまた後日にでもチャレンジすることにする。
「夜食用のお弁当の準備できました。出発しましょう」
「よし、行こうか」
エルのパートナーのホワイト・カラー(ほわいと・からー)が、可愛らしい顔を覗かせ、エルは彼女と共に夜の別荘へ出発することにする。
聞き込みに集落を回っていた真彦と文乃は嫌な話を聞いてしまった。
「その別荘のある方向から、たまに柄の悪い少年達が、騒音撒き散らしながら買物に来るんで、迷惑してるんだ」
「売店の前で、長時間たむろしてたりねー。その別荘、集会所になってる可能性もあるんじゃない?」
そんな集落の人達の会話を聞き、真彦と文乃は顔をあわせた後、文乃は頭を下げた。
「申し訳ございません。すぐに原因を取り除きますので」
やはり解体は必要なようだ。
「月に1度くらい集会を開いてる……って考えは甘いでしょうか」
真彦は文乃と共に宿に向かって歩きながら溜息をついた。
「害虫が沢山いるらしいし、まさか暮らしてるなんてことないよね」
文乃の口からも溜息が漏れた。
とりあえず、下見に行った者達の報告を待つことにしよう。
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