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リアクション
「だ、誰か助けてくれ……火事だー!」
声を聞きつけ2階に入り込んでいた白百合団の冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)が、煙が立ち込める部屋のドアを開ける。
もくもくと煙が上がっているその部屋には、炎が広がっている。
「早くこちらへ」
小夜子はバーストダッシュで駆け込んで、煙で目をやられた和原樹(なぎはら・いつき)の腕を引いて部屋の外へ出る。
「あなたも!」
部屋の隅で頭を抱えているフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)の腕も引っ張って、どうにか廊下へ転がり出る。
「外へ出ますわよ、しっかりしてください!」
「いくぞ、フォルクス!」
樹は、目を擦りながらフォルクスの首根っこを掴んで、隣室のバルコニーから共に飛び降りた。
「ありがとうございました!」
樹は続いて飛び下りた小夜子に頭をふかぶかと下げて礼を言い、まだよく見えない目を擦り、咳き込みながらパニック気味の相棒を引き摺っていく。
部屋に出現したゴキブリに驚いたフォルクスが火術を乱発し、その火が別荘に燃え移ったとは言い出せなかった。
「……当面、黒い悪魔とか見たくないな。フォルクスの意外な一面が見れたのは良かったけど」
呟く樹に引き摺られながら、フォルクスはまだうめき声を上げていた。
「……退こう!」
別荘にちらつく炎とを見て、声を上げたのは教導団の比島真紀(ひしま・まき)だった。
今日は下見に来ただけだ。地下に秘宝があるという話も聞いている。燃やしてしまってもいいのか、依頼者に判断を仰がねばならないし、秘宝狙いの者もいるだろう。
「自分達は下見に来ただけであろう。占拠している者がいるのであれば、相応の対策が必要だ」
「皆、こっちへ!」
パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、しつこく襲い来る不良にアシッドミストを放ちながら、仲間に声をかける。
「これ以上の戦闘は互いにとって得策じゃないと思うけど!」
退却を始めた皆を真紀と共に守りながら、サイモンも後退していく。
「逃げましょうっ!」
木蔭に隠れて戦闘には加わってなかった月守遥(つくもり・はるか)も、皆に声をかける。
「あっ……れ……師匠……?」
と、探していた人物と良く似た後姿の少年が、別荘に走りこんで行く。
「退くぞ!」
「は、はい」
真紀に肩を叩かれ、遥は気にはしながらも皆と共にその場から走り去る。
「皆様、戻りますわよ!」
小夜子も不良の攻撃を躱しながら、逃げに転ずる。
「ひろし〜ひろし〜」
出水紘(いずみ・ひろし)の姿を見つけて、カミラ・オルコット(かみら・おるこっと)は走りよって泣きついた。
「ひろし〜とってください!! うぅ……」
彼女の髪には、右ストレートで飛ばされた刀真の身体から飛んできたゴキブリの一部が絡まっている。
「カミラは怖がりだな」
紘はふっと笑いながら、カミラの髪を指で梳いて、ゴキブリの一部を落としてあげた。
「行くぞ」
そして、手を繋いで走り出す。
「中に入っても分が悪いか。戻るぞ、ルナ!」
「はいっ」
玄関まで迫っていた永夷零(ながい・ぜろ)も、パートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)を連れて、退却する。
「ほ〜ら、今日のごはんだよ〜」
退却がてら、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は、不良達の方へと隠し持っていたネズミ達を放つ。
「うわっ」
「おっ!?」
驚き、不良達が躓いていく。
その隙に、零とルナも皆と合流を果たす。
集まった一行は、川沿いを走り抜けて行くのだった。
不良達の怒声はまだ響いているが、鎮火の為に彼らも別荘に戻らざるを得ず、それ以上追ってくる者はいなかった。
○ ○ ○
下見に来たメンバーが集落に戻っていった後。
沢山の荷物を抱えて、少女が2人、別荘の傍に降り立った。
「あん? なんだ」
玄関の前に少年が1人立っていた。見張りのようだ。
「お腹空いてるんじゃないかと思って。治療もしますっ」
大きな荷物を抱え、ぺこりと頭を下げたのは蒼空学園の
小鳥遊美羽(たかなし・みわ)だった。
「突然、あんな攻撃を受けるなんて……皆さん、何も悪くないのに。私、皆さんの為に頑張りますから、とにかくこれ、食べて下さい!」
美羽が岡持ちから取り出したのは、カツ丼だった。
「こちらもどうぞ」
パートナーの
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も、岡持ちを差し出す。
2人で持ち運べる量。しかも、近くの集落から距離があるため、それほど良いものは用意できなかったけれど、本当に真剣に、不良達を案ずるような優しさをこめた目と口調で美羽とベアトリーチェはカツ丼を提供するのだった。
「ま、入れや。ただ、食うのはそっちじゃなくて、あんた等の方かもしんねーけどな。オイ、来客だ。女の!」
強く腕を引かれ、美羽は玄関の中へと引っ張られる。続いてベアトリーチェもぞろぞろと現れた不良達に部屋へと連れ込まれた。
「くっそ、いい気になりやがって……」
「パートナー契約をしている奴等ばっかりだったぜ!」
別荘のリビングにて、怪我の治療をしながら、不良達は深夜まで話し合いを続けていた。
カタン
突然響いた小さな音に、不良達は暖炉に目を向ける。
暖炉の中から淡い光が漏れており、不審に思いながらリーダー格の
ブラヌ・ラスダーが近付く。
「手紙が巻きついてやがる」
「果たし状か!?」
「いや……」
ブラヌが手紙を読み上げる。
『この屋敷と周辺を守る為に協力したい。承諾するのならペンライトでバルコニーから所定の合図をしてくれ、そうしてくれればオレはそのバルコニーへ向かう。――森の魔女より――』
「……ちと見てくるか。不要そうなら、撃つ」
不良の1人がペンライトを受け取って、バルコニーへと向かう。
――数分後、バルコニーに向かった不良は、スタイルが良く端正な顔立ちの少女を連れて戻る。
「よろしくな」
そう笑ったのは
瓜生コウ(うりゅう・こう)だ。
「ま、理由は兎も角、ここを守りたい意思はあるらしいぜ」
不良はにやりと笑った。
「下手なことしやがったら、てめぇもここに捕らえてるヤツ等も道連れで皆殺しだ。それだけは覚えておけ」
そういうブラヌの目には激しい怒りが籠もっていた。
……彼の自慢のリーゼントは受けた炎術と雷術の影響で、ちりちりのアフロに変わってしまっている!
百合園女学院に対する怒りは頭の広がり以上にもじゃもじゃに膨れ上がっている――。
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