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リアクション
乱戦が続く正面を避けて、別荘の側面に回りこんだイルミンスールのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、害虫が潜んでそうな部屋を探す。
「中に人がいたみたいですけれど、出て行った今のうちに駆除しましょうね」
「パラミタじゃあ地球と似たような生物でも、サイズが巨大なものがいるからな。油断するなよ、ご主人!」
「はい」
ゆる族のパートナー雪国ベア(ゆきぐに・べあ)にソアは微笑んで、目星をつけた窓に近付いた。
「濃度はバリバリ高くしてくれよ、ゴキブリの生命力は侮れん、やるなら全力だぜご主人ッ!」
「はい、任せてください!」
ソアは窓から別荘内にアシッドミストを放った。強力な酸の霧が部屋の中に充満していく。
バタンと窓を閉めて、ソアとベアは部屋を密閉する。
「次の部屋に行こうぜ、ご主人」
「はい。次は廊下の窓から放ちましょうか」
「おお、ドアが開いている部屋全部に行き渡るかもしれないしな!」
良案を思いつき、2人は裏側に回って、廊下の上部に設けられている窓に手を伸ばした。
中は見えないが、誰もいるはずはないのでソアは濃い濃度で酸の霧――アシッドミストを廊下へと放つ。
「明日には安心して調査ができるといいですね」
ほんわか、優しい笑顔を浮かべるソアに、ベアは頷いた。
最後に、裏口のドアから別荘内に放つことにする。
「ドアを開けるのは危険だ。放ったら直ぐ離れてくれよ、ご主人」
言われたとおり、ソアは魔法を放った後、ドアから直ぐに離れる。
バタバタと走る音が響き出した。悲鳴のような声も響き、ドアが揺れる。
「大人しく駆除されろよ、害虫ども……ッ!」
ベアはドアをしっかりと抑え付け、害虫を一匹たりともそこから逃がすことはなかった。
しばらくして、ドアは静かになり、代わりに正面の方がまた騒がしくなっていた。
「……巨大な害虫が回り込んでくると厄介だからな、退こうぜご主人!」
「は、はい……」
ソアは目を瞬かせながら、ベアと共にその場から遠く退くのだった。
姫北星次郎(ひめきた・せいじろう)は、飛鳥井コトワ(あすかい・ことわ)と一緒に、不良を大量に引きつけて走っていた。
沼近くで星次郎はコトワの手を放す。
「隠れていろ」
コトワは「了解っス」と笑みを見せながら木の陰に潜む。
「隠れても無駄だ! バラしてやるぜ!!」
剣や銃を手に、不良達が押し寄せる。
「必死になって追ってくるってことは、自覚はあるってことっスか?」
コトワが木の陰から声を上げる。不良達が一斉に目を向けたその時。
空飛ぶ箒で上空に浮かび上がっていた星次郎がとりもちを不良に落とす。
「なんだっ!」
べたべたと身体に張り付くとりもちから逃れようとする不良に、火術を放つ!
「ぶわっ」
「しばらく大人しくしていてもらおうか」
火を消すべく、沼に駆け込んだ不良に、続いて雷術で攻撃をし――沈黙させる。
「最後の一匹も逃さないわよ〜。別荘そのまま綺麗にしたら、よさそうよね! うふふふふ……」
蒼空学園の弥隼愛(みはや・めぐみ)は、燻蒸式殺虫剤を手に別荘に近付いた。
「メグミ……何を企んでいるんでしょうか」
パートナーのミラ・ミラルド(みら・みらるど)は、溜息をつきながらも愛をサポートするためについてきていた。
不良達は怒り狂いながら、交戦しており、別荘からは煙が立ち昇っている。
だが、火は上がっておらず、この煙が荒巻さけ(あらまき・さけ)や志位大地(しい・だいち)が投げ入れた燻蒸式殺虫剤が放っている煙であることは解っていた。
愛も同じことを考えており、まだ放り込まれていな部屋――2階に向けて殺虫剤を放り込んでいく。
「このヤロウ!」
煙が立ち込めた後、少しして2階のバルコニーに柄の悪い少年が現れる。
少年が愛を見つけて乗り出し、武器を構えるより早く、愛はアサルトカービンで、少年を撃つ。
小さく声を上げて、少年はバルコニーから落ち、愛の傍でうめき声を上げる。
「大人しくしててよねっ」
愛は少年に声をかけると、隣の部屋から顔を出した不良にも弾丸を浴びせる。
「危険です。人数だけは多いようですし!」
「くそっ!」
敗走し、別荘に不良達が駆け込んでくる。しかし、玄関前には愛の手でとりもちが仕掛けてあり、不良達は躓いて転び、さらにとりもちが絡みついていく。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「離れましょう!」
愛に迫る不良の前に、ミラが立ちふさがり斬り結ぶ。
「さすが害虫、一晩だけじゃ駆除しきれそうにないわ。待っててね、あたしの別荘〜☆」
愛はミラと共に一旦下がって、不良達の狙撃と捕縛に移る。
「……まあいいか」
前線から離れていたクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は、混沌としていく現場を目に、一言そう言った後、仕事に戻ることにする。
今晩は下見に来ただけなのだから。
この周辺のゴミだけを回収しておこうと。
半透明のゴミ袋の中に、ゴミを入れて行く。
明日訪れる依頼主のミルミ達が怪我をしないように、別荘へと向かう道は念入りに掃いておく。
何か珍しいものでも落ちていればと思ったが、別荘の傍にはガラクタしか散乱していない。
不良が占拠していたとなると、中にも値打ちのあるものはないかもしれない。
地下の秘宝は気づかれてはいないのだろうか?
クライスはふと、顔を上げて別荘の方を見る。
「灰になれーーー!」
「ぐあっ」
ウィルネストの炎の攻撃を受け、不良の1人が転がり回った後、クライスの足元にバタリと倒れた。
「……ゴミ扱いするなと言うことはゴミ扱いして欲しいんだね」
「だな」
クライスの言葉に、パートナーのローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)も真面目な顔で頷く。
折角なので、2人で半透明のゴミ袋に詰めた。
「消えろーーーー!」
「ぎゃっ」
ウィルネストの絶叫と共に、また1人不良が足元に転がる。
「……ゴミがどんどん増えるね」
「……だな」
2人は淡々とゴミの袋詰めを続ける。
「まあ彼らにも事情があるかもしれませんし、話し合ってみましょう」
非戦闘員達と粘着シートタイプの、ゴキブリ捕獲器を周辺に設置しつつ、蒼空学園の樹月刀真(きづき・とうま)はそう言った。
「説得が通じそうな相手でもないがな」
悠久ノカナタ(とわの・かなた)や、興味本位で下見に来た百合園生達も設置を手伝っている。
「互いに冷静にならなければなりません。こちらもずっと空家にしていたわけですし」
「きゃっ」
「あっ」
小さな悲鳴に、刀真は振り向いた。みれば、少し離れた場所に捕獲器を設置していたパートナー、剣の花嫁の漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)、それから護衛対象であるミクルが、不良達に引き摺られて連れていかれるところだった。
「待ちなさい!」
刀真はすぐさま、捕獲器を集める。――急ぎ解体し、身体に纏い装着を果たす!
それを見た女性達は驚いて後退り。カナタは軽く頭を押さえる。
「黒き悪魔を身に纏い腐臭漂う地に独り立つ、俺は黒き魔王ゴキブリンガー!! この黒き剣にてお前らを討つ!!」
ゴキブリ纏ってりゃあ、誰も近付かない。それを瞬時に思いつき、彼は自らゴキブリの魔王となる決断を下した。
「うおっ」
「わっ」
目論見通り、共に下見に訪れた者達は、刀真の異様な姿に道を空けた。
「きゃああああっ」
刀真を見てしまったカミラ・オルコット(かみら・おるこっと)は叫びながらも、皆を守ろうと必死に剣を振り回す。
パニックを起こし、走り回っていた緋桜ケイ(ひおう・けい)も、その姿を見てしまった!
「い、いやあああああああああああーーーーっ!!」
その刀真の想像を絶する姿に、ケイの思考能力が限界を超える。
「あ……」
ケイはそのままぱったり土の上に倒れた。
「さあ諸君、遠慮なくかかってくるが良い。君達の友達を叩き潰せるならね!」
そう言い、刀真は月夜を引き摺る不良の前に飛び込む。
「し、死ねぇ、変質者!」
不良達が銃を刀真に向けてきた。
「銃とは卑怯な! 友人達をも道連れにするつもりだな。ならば容赦はしない!」
刀真は銃による攻撃を受けながらも、光条兵器を叩き下ろし、見事不良の手から月夜を奪い返す。
だが、月夜との感動の再会には至らなかった。
「さあ月夜、助けに……」
ドカッ
「グッハアッ」
「私の剣をゴキブリと同列にしないでぇーーーーっ!」
月夜の右ストレートを受け、刀真は吹っ飛ぶ。
「全て消えてしまえぇぇぇぇーーーーー!」
「ドアチャアアアアアアアアア」
続いて狂乱していたウィルネストの炎が炸裂し、月夜は火達磨になった。
流石に見ていられず、月夜は叩いて火を消して、月夜にヒールをかける。
「もう少し普通に助けに来て……でも有り難う」
「お、おう……」
2人の間に、少しだけ優しい空気が流れる。……ただ、刀真は焦げたゴキを纏ったままだったがッ!
「やれやれ」
頭を掻きながら、アシッドミストで不良を牽制しつつカナタもパートナーのケイの元に近付く。
しかしケイは、揺らしても叩いても目を覚ますことはなかった。
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