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リアクション
夢うつつの状態で五条武(ごじょう・たける)は林田樹(はやしだ・いつき)に抱きついていた。
「んー……ねーさんの、おっきーなー……あったけー」
と、樹の胸の感触を堪能する。
一方の樹も夢見心地の表情で武の頭をわしゃわしゃと触っていた。
「……ふかふか、ふかふか……。触り心地、良いなぁ……」
傍から見たらいちゃついているように見えるその光景。酔っぱらいが二人、互いに絡み合っていた。
「……ホントだ、繋がらない。……まさか、うわ、浮気っ!?」
と、嫌な想像ならぬ妄想をめぐらせる緒方章(おがた・あきら)にジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が『ブージ』を振り下ろした。
「はーい、アホ言ってないで探すー」
飽くまでも冷静、冷淡である。
連絡の付かなくなってしまった樹が心配で、ジーナたちは彼女を探しに来ていた。
そんな二人に呆れつつ、新谷衛(しんたに・まもる)は言った。
「あ、『バイクヘブン』はこっちね」
――数分後、樹が向かったはずのバイク屋の近くで、彼女たちは思わぬ光景に遭遇する。
「ぎゃーっ!! 樹ちゃん!? 何やってんのー!!」
今にも卒倒しそうな勢いで驚く章。ジーナも同様に驚きの声を上げたが、衛だけはにやついていた。
「あらま、ホントに浮気でやんの! どーするよ、あっきー、じなぽん!?」
公衆の面前で武といちゃつく樹。これは止めなければいけないのだが……。
近づいてくるパートナー達に気づいた樹はにこっと首を傾げた。
「……あ、アキラぁ! ……頭、撫でて、いい?」
「……い、いいよ」
鼻血を出しながら思わずそう返答してしまう章。
「なでなでー……髪、さらさら……」
と、章の頭を撫でる樹の目は、すでに遠くへ行ってしまっている。
「あ、あつい……ぬごう」
かと思うと、今度は服を脱ぎ始めた。よほど熱いのか、全裸になりそうな勢いだ。
「ぎゃああ! 樹様、何を血迷ってらっしゃるんですかぁ!!」
慌てて自分の上着を掛けて樹の脱衣を食い止めるが、樹はまた上目遣いで問うのだ。
「……だめ?」
「っ……ぼ、僕だけに、なら……」
「何言ってやがるんですか! だめです、こんなところで……って、え?」
ぎゅう、とジーナは武に抱き寄せられて目を丸くした。
「ジーナぁ、おまえもだー、すりすりー……」
「ちょ、ご、五条様!?」
逃げ出そうともがくジーナだが、武には届かない。
「なんかおまえとアキラ、なかわるいみてーだなー。そんなおまえらはー……こーしてやるぅ!」
と、武は樹に見とれている章を抱き寄せ、同時に二人をすりすりし始めた。
「ぎゃああああ!!」
「うわっ、助けて、樹ちゃん!」
「ほらほらぁ、なかよくしよーぜー」
ジーナと章にとっては地獄も同じ。
一方の樹は何を思ったか、衛に目を付けた。
「魔鎧ぃ、あんたもぬぐー」
「え、オレ? ちょ、脱がさないで、いっちー!」
ぱぱっと脱がされてタンクトップになった衛を見て樹が笑う。
「ほらぁ、アリー、アリー。セレスティアーナ女王みたい、ぺったんこー!」
そちらへ顔を向けた武は衛の身体を見て呟く。
「お前ははじめてだなー……よろしくなー……」
と、衛に抱きついてすりすりし始める。
「いやーん、ちょっと胸もまないで、オレ様女が好きなのに……あ、ちょっ、マジやめてぇっ」
すりすりごろごろ、酔っぱらい二人の酔いが覚めるまで地獄は続きそうだ。
「ねぇ、これとか可愛いと思うんだけど……るーちゃん?」
高峰結和(たかみね・ゆうわ)は隣にいる友人の様子に、はっとした。
「ど、どうしたの? 顔が赤いよ!?」
「にゃは、にゃっはっははー。にゃんかいい気分ー」
ルーシェン・イルミネス(るーしぇん・いるみねす)は、ふわふわとおぼつかない動きで結和にじゃれついた。
「うふふー、ゆーわちゃんのほっぺやらかいにゃぁ」
と、結和の頬を指でつつき、楽しそうに笑う。
「ちょ、ちょっと、るーちゃん?」
一体何があったのか、店の中でじゃれつくのは褒められたことではない。
「るー、何をしている」
と、見かねたコルセスカ・ラックスタイン(こるせすか・らっくすたいん)が口を開くも、ルーシェンは結和にじゃれついて離れない。
だが、コルセスカの様子もどこかおかしかった。
「いいか、お前ももう19歳なんだから、分別のある行動を自分に課さねばいかんぞ。第一、お前は自分を子供じゃないって言うけど、こういう言動が子供扱いされる原因だと――」
と、くどくどと説教を始めたのだ。
結和はどうしたらいいか分からず、おろおろと二人を交互に見つめるばかりだ。
すると、ふいにルーシェンがコルセスカの頬をつついた。
「うにゃー、コルは眉間の皺がなければ、かっくいーんだけどにゃーぅ」
「っ、るー!!」
コルセスカに怒られた途端、ルーシェンは結和の背に隠れた。
「え、るーちゃん……っ?」
困惑する結和を盾に、ルーシェンは知らんぷりだ。
コルセスカは息をつくと、じっと結和を見つめた。
「まったく、結和さんも結和さんだ。いいかね、君は自分がどれだけ魅力的な女の子なのか、自覚がなさ過ぎるぞ」
「ご、ごめんなさいっ」
と、思わず謝ってしまう結和だが、よくよく聞いてみると何か違う。
「俺はいつもはらはらして仕方がない。外見的な意味で言っている訳ではないのだぞ、君は内面も優しくて気配りができて本当に素晴らしい」
「……え?」
「嫁に欲しいくらい素敵なのに、どうしてそうも無防備なのだ。俺は本当に君の安全を想うと、胃が痛くて胸が痛くて、仕方が――」
ほとんど告白に近い言葉を聞かされて、結和の我慢が限界へ達した。
「ななななんですかー! きょ、今日はコルセスカさんもるーちゃんも変ですよっ」
変だと言われて口を閉じるコルセスカだが、ルーシェンにはその自覚があるのか、ただ笑っているだけだ。
「どうしちゃったんですか? コルセスカさん」
と、心配になって彼の前に手を翳しそうになる結和だが、はっとして腕を引っ込めた。
「ちちち、違くって、その、あの……と、とりあえずお店出ましょうっ」
結和はルーシェンの背中を押すようにして、そそくさと外へ向かう。
コルセスカはまだ自分が酔っていることに気づかない様子で、ぼーっとしながらも彼女たちの後を追った。
薬局に目薬を買いに来た天真ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)は、気になる噂を耳にした。
またたび花粉症のことだ。
そういえば、いつもと違って空京市内が騒がしいような気がしていたが……。
「またたび花粉、か」
猫耳を付けた人たちがすごい勢いで女の子を追いかけていたり、猫の獣人が暴れていたりと、言われてみれば様子がおかしい。
とりあえず目当ての薬を購入し、ヒロユキは思い立った。
――友人である渡部真奈美も、『超感覚』で猫耳が生えるのではなかっただろうか? とすると、彼女もまた、またたび花粉症にかかっているはずでは……。
心配になって、ヒロユキは帰路とは逆の方向へ歩き出す。
症状としては酔うだけらしいが、それでも様子を見に行って損はない。
否、ヒロユキはとても心配になっていた。
あの猫たちのように暴れていたら止めなければならないし、酔って裸にでもなろうものなら、さらに大変なことになる。
「……よし、見舞いに行こう」
変な想像をしてしまい、ヒロユキは自分に言い聞かせるように声にした。
――今日はただ見舞いに行くだけだ。……必要があれば、看病もするけれど。
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