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リアクション
4.さらばまたたび
「やばいな……いや、俺は酔ってない!」
自分に言い聞かせながら、トレルはまだ症状の出ていない仲間たちを振り返った。
「さっさと倒すぜ!」
どこか虚ろな目つきのトレル。
構わずに御凪真人(みなぎ・まこと)は『ブリザード』を放った。
「これ以上、酔っぱらいは出させませんっ」
普通の花粉と同じであれば、気温を下げることで飛散量を下げることが出来ると考えたのだ。ちなみに真人はマスクと防塵ゴーグルを装着しているので、対策はバッチリだ。
しかし、遅かった。
「切倒すなら私にまかせなさい!」
セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が剣を手にまたたびトレントへ突っ込んで行ってしまったのだ。
「こんなの、叩ききればいいのよっ!」
と、振り上げるも、ふらりと身体のバランスを崩してその場に尻もちをつく。
慌てて真人は彼女の元へ向かった。
「セルファ! 何してるんですか、迂闊に近づくのは危険だと――」
「っ、だって……だってぇ……」
何が悲しかったのか、セルファはぐすぐすと涙し始めた。完全に酔っている。
「……このまま放っておくと、俺の身も危険かもしれませんね」
苦笑しつつ、彼女を抱えてトレントから距離を取る真人。
「酔っぱらいは大人しくしてて下さいね」
と、充分に離れたところでセルファを座らせたが、セルファは真人をばしばしと叩いた。
「何でよ! 私だってまだやれるわよぅ……っ、ひっく」
「セルファ……」
やれやれ、だ。
「こんなもので酔うとは情けない」
と、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は呟いた。
真人の『ブリザード』が効いたのか、トレントたちの動きは鈍り始めていた。
「今の内に少しでも……」
言いかけたところで、はっとする。
「にゃうー、にゃあにゃあ」
「エクス姉さん、そんなところで寝たら危険です」
「……」
酔っていた。エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は猫化してごろごろし、紫月唯斗(しづき・ゆいと)はぼーっとしている。
紫月睡蓮(しづき・すいれん)がそんな二人を気遣っているが、これでは戦力にならない。
「……仕方ない」
プラチナムは一人、またたびトレントに向かって行った。攻撃されないよう、背後から攻める作戦だ。
かろうじて意識のあるトレルが『氷術』で気温を下げ続けるが、こちらもかなり来ている様子。
「ゆいと、お前も何か手伝っ、て……」
と、唯斗を押し倒すように倒れるトレル。
「……」
「……お前もか」
唯斗の手がトレルの胸に触れていた。しかし、唯斗の視線は夢うつつ。
ムカッとしながらトレルは立ち上がると、唯斗の手を引いて立たせた。そして叫ぶ。
「せめて盾になりやがれっ」
勢いよく背中を押され、トレントへ向かって行くかと思いきや――。
「唯斗!」
今度はプラチナムを押し倒してしまった。盾どころか、邪魔になった。
見なかったことにして、再び『氷術』を発動するトレル。
「くっくっく、我こそは黙示録の獣!」
ふいに声がし、何者かがトレルたちの前に立ちはだかった。
「俺が目覚めたからには我が野望、天下覆滅を達成するため、手始めにこの空京をきょ〜ふのズンドコに叩き落としてくれるわ!」
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。
何やらすごいことを言っているが、果たして彼は敵なのだろうか?
「このまたたびトレントを利用して、空京に花粉をまき散らしてくれる!」
「……悪い奴か」
否、この季節特有の変な人である。
「そうはさせないでござる!」
と、前へ出てきたのはナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)。今こそ、ヒーローの見せ場だ。
「小賢しい……俺の邪魔をしようというのか。黙示録の獣である俺の覇業・らぐなろくを邪魔しようという愚か者共に、真の滅びを教えてやろう!」
「真の滅び――っ!?」
一体どんな技を使うのか、と、誰もが彼に注目したその時。
「……あ、ゴメン、気持ち悪い。ちょっとタンマ。吐いてくる」
と、黙示録の獣は先ほどまでの勢いはどこへやら、そそくさとその場を去っていった。
「はい、再開してー。ほらほら、トレント伐採!」
と、我に返ったトレルが指示を出す。
「そうだったでござる!」
ナーシュがすぐにトレントへ攻撃を仕掛けようと近づいてゆくが、彼は何故かトレントにのぼり始めた。
攻撃をするでもなく、より高く枝にのぼっていっては楽しそうに笑う。
「わはははー、高いでござるー!」
暴れるトレントにも動じず、枝を揺すっては花粉をまき散らすナーシュ。一同の視線が冷ややかになった。
「なんてことしてるんだ、ナーシュ!」
と、果心・居士(かしん・こじ)が遅れてやって来た。
相変わらず酔っぱらっているナーシュを木から引きずり下ろしては、呆然としている一同へ謝る。
「いや、すまねぇな……うちの馬鹿が」
と、一人一人に平謝りをして、果心はナーシュを引き連れて戦場から離脱していった。
「……草刈ったら、臭かった」
「ちょ、親父ギャグ、うは、うははははははは」
椎名真(しいな・まこと)は笑い出した東條カガチ(とうじょう・かがち)に生温かい視線を送った。
マスクに帽子、眼鏡までかけて花粉症対策ばっちりで来ていたはずのカガチだったが、いつの間にやら酔ってしまったようだ。
腹が痛くなるほど笑って座り込んだカガチは、そんな自分のおかしさに笑う。
「た、立てなあはははははっ、はは、あはははは」
使い物にならない。
真は視線を外すと、『ナラカの蜘蛛糸』をまたたびトレントに絡める準備をした。これ以上、酔っぱらいに邪魔されても平気なようにするのだ。
しかし、彼方蒼(かなた・そう)の声で集中力が切れた。
「わっ、みーちゃん!?」
ナタの扱いに試行錯誤していた蒼の上に柳尾みわ(やなお・みわ)が乗っかっていた。
その様子にカガチがまた笑い転げる。
「ちょ、なんでみーちゃんいるのあはははは」
「いつの間に……ど、どうしよう」
と、戸惑う真。
トレントは依然として暴れているし、花粉症にやられた仲間たちは次々と戦線から離脱していく。
――どちらかというと犬属性の自分には、またたび花粉なんて怖くないのだけれど。
「蒼、しゅきぃー……」
とろんとした目で蒼にグルーミングを始めるみわ。普段とは違う様子を見ると、こちらもかなり酔っているらしい。
周囲への妨げにはなりそうにないが、やはり心配だ。
「あうあう、おみみなめないでぇ……」
と、びくびくしている蒼。しかし嫌なわけではないらしく、ちょっと嬉しそうだ。
「蒼の耳、綺麗にしてあげるねぇ……」
「あ、あう、かじらないでぇぇ。あ、でもちょときもちいぃ……でも、あうあう」
いちゃつく二人を見てカガチがあまりのおかしさに涙した。
「おこさまの癖にはははは、リア充しね、ふひゃうははははは」
真は息をついた。
――残念なことに、こいつらを止められるのは真しかいない。
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