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○第九試合 コームラントジャック

 エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)は、会場の熱気にぽかんとした。パートナーの高峯 秋(たかみね・しゅう)がやけに挙動不審だったのでこっそりついてきたら、イコプラバトルの会場だったので驚いた。
 しかも今、これから、秋が戦うところだ。フィールドに出されたイコプラは、秋のイコン“ジャック”にそっくりだ。エルノは思わず微笑んだ。
「ふふ、頑張って作ったのかなぁ。言ってくれたらボクも手伝ったのに」
 しかし、一人で何も言わずに参加したところを見ると、恥ずかしいのかもしれない。エルノは、観客席の一番後ろで見守ることにした。

 そして秋は、一人でこの場にいることをちょっぴり後悔していた。いつもはエルが傍にいる。それがあまりに普通になっていることに、今更ながらに気がついた。
 ――寂しいな。
 ふと過ぎった思いを振り払い、秋は自分の頬を叩いた。
「なしなし! 今日は楽しむんだから、そんなこと考えない! よし!」
 対戦相手は葛葉 杏の“コームラント・デトネイター”だ。
「ファイッ!」
 大鋸の手が交差される。
「いくわよ!」
 コームラント・デトネイターがアサルトライフルの引き金を引いた。
『ヒット! しかし続くミサイルポッドをジャックは上手く避けた!』
「アキ君! しっかり!!」
『ジャックのアサルトライフルがヒット!』
「やったあ!」
 エルノはぴょんぴょんと跳ねた。その可愛らしい姿に、観客の目がフィールドから後方へ釘付けになる。
 しかし、
『コームラント・デトネイターのミサイルポッドがヒット! 両者睨み合ったまま――試合終了!』

 試合後、秋は観客席の後ろへ向かった。
 エルノは、座席の陰で見えないように丸くなり、ケープを頭からかぶっていた。
「エル」
「……アキ君、ゴメン」
「何で謝るの?」
「だって、見られたくなかったんでしょ?」
「うん……でも、エルがいなくて寂しかった」
「え?」
「今度はさ、一番前で応援してよ。エルの声……よく聞こえた。あの一撃はエルのおかげだ。負けちゃったけど、次は勝つから……」
「……うん!」
 エルノに抱きつかれる秋を見て、一部の人間が彼へ恨みの念を抱いたとして、誰が責められよう。もっとも秋にとって、エルノは「心の友」で、現在のところそれ以上の存在でないことを、彼のために記しておく。

  ○コームラント・デトネイター−ジャック×


○第十試合 イロドリCピングイーン(ダイバーモデル)

 フィールドに登場した天貴 彩羽(あまむち・あやは)の“イロドリCLQ”を見て、十七夜 リオ(かなき・りお)は呟いた。
「コームラントベースの重武装タイプだね。バッテリーが増設されているし、かなりの重装甲とパワーがあると見た」
 付近にいた観客がおお、と声を上げ、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)の“シュヴァルツ・カイザー・ピングイーン”はどうかと尋ねた。
「ダイバーモデル(潜航モード)固定で、底に踏破性の高いキャタピラタイプと高速移動可能なタイヤの走行装置とで、切替出来る様にしてある。更に《大型ビームキャノン》の砲門や機首先端に取り付けた《ビームサーベル》にLEDを仕込んで発光できる様にしてあるね。ま、ちょっとしたお遊びだよ」
 フェルクレールトは観客席を睨んだ。
 リオが得意げに話すのは仕方がないとしても、見ず知らずの人物と楽しそうに喋っているのは気に食わない。「そこの男、どっか行け!」と念を送ってみる。
 そもそもリオが詳しいのは当たり前のことだ。シュヴァルツ・カイザー・ピングイーンを改造した当人なのだから。それも徹夜で。
 そこまでやるなら自分で出場すればよいものを、眠いからとか何とか理由をつけて、フェルクレールトに押し付けたのである。
「面白いパートナーね」
 フェルクレールトは彩羽に視線を移した。綾羽もリオを見ているが、口元に浮かぶ笑みは不愉快ではなかった。
「もっとも、どの程度まで見抜いているかは、戦ってみなければ分からないけど」
 フェルクレールトは答えない。彼女にも分からなかったからだ。
 試合開始と同時に、リオが叫んだ。
「いっけぇぇ! フェル!」
 ご命令どおり、とフェルクレールトは小声で必殺技を叫んだ。
「ビリオン・ラケーテ」
 ミサイルが全弾発射され、近づきかけていたイロドリCLQは大きなダメージを受けた。しかしそのまま、ガトリングガンを構える。
「そんな攻撃、シュヴァルツ・カイザー・ピングイーンに効くか!」
と、これもリオである。
 二体は距離を取り、同時に大型ビームキャノンを構え、引き金を立て続けに三回引いた。
 イロドリCLQの方が僅かに威力は大きかった。しかし、ビームは二体の中央でぶつかり相殺、どちらにもダメージなしと大鋸は判断、シュヴァルツ・カイザー・ピングイーンの勝利を宣言した。
「やったああああ!! フェル偉い! さすがはシュヴァルツ・カイザー・ピングイーン!」
 リオが隣の男に抱きつく。フェルクレールトはムッとし、思わず【サイコキネシス】を発動しそうになったが、
「遊びといってもまだまだ奥が深いようね。楽しいかったわ、また遊んでくれるかしら」
 そうして差し出された彩羽の手を、代わりに握った。

  ×イロドリCLQ−シュヴァルツ・カイザー・ピングイーン○