リアクション
* * * 2階で警報が鳴っていた。 そちらへと向かう少年たちをやりすごして、リネンは4階最深部へ向かう。 きっとこの通路の奥には何かがある、そう直感して。 だが次の瞬間、彼女は飛来する何かの存在を察知して、さっと横へ跳び退いた。 ついさっきまで彼女のいた場所に矢が突き刺さる。 「それ以上進ませないわよ!」 高らかに宣言する女の声。 ついに見つかったということよりも、その耳になじんだ声がリネンを凍りつかせた。 振り返る、彼女の後ろで弓矢をつがえているのは――。 「ヘイリー! あなた!?」 彼女のパートナーヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)だった。 別れる直前、立てないほど体調を崩していた彼女が、今は元気でいるのは喜ばしいことだったが、それが意味することはつまり……フェイミィやほかのパートナーたちと同じ? 「ヘイリー……一緒にいた飛装兵たちは…?」 「え? ああ、あの子たち」 ヘイリーは素っ気なく肩をすくませる。 「邪魔だから倒してきちゃった。主人の邪魔をする子なんか、いらないわよね。 そんなことよりリネン。いくらリネンでも、これは見すごせないなぁ。どう? 昔なじみのよしで、今すぐダフマから立ち去るなら見逃してあげる。ルドラさまからのご命令も「追い出せ」だしね」 「……従わなかったら?」 「あらそんなの。分かりきったことでしょ?」 ヘイリーは弓を強く引きしぼる。 「……あなたが相手というわけね…」 彼女の死角となる位置で銃を握る手の力を強めつつ言う。 フェイミィに誓ったのだ。彼女の苦しんだ分、流した血にかけて、ただではすまさないと。 (たとえ相手があなたでも……ヘイリー…) 苦渋に満ちた顔をするリネンなど歯牙にもかけず、ヘイリーは言った。 「あなた、じゃないわ。あなたたち、よ」 その言葉に応じるように、クライ・ハヴォックが響き渡る。 「――はっ!」 リネンは背後に迫る気配を感じて振り返った。双龍刀をかまえた男が彼女へ向かって突き込んできている。 銃口をそちらに向ける間もあらばこそ。彼女は吹っ飛ばされた。 「きゃああっ!!」 横倒れになった彼女をヘイリーの矢とエネルギー弾が追撃した。空賊王の魔銃は先の男の攻撃をまともに受けて、壊れて転がっている。 逃げるには体勢が悪い。かわせないと、受けることを覚悟した彼女の周囲に、ブリザードの盾が出現した。 荒れ狂う風と氷雪がエネルギー弾と矢をはじき返し、消える。 驚く彼女の背中に、そっと手がそえられた。 「立ってください、リネンさん」 「遙遠!」 「従わないのなら逃がさない!!」 攻撃手段を我は射す光の閃刃に切り替えたヘイリーの振り上げた手が光輝に輝く。彼女に、遙遠はクライオクラズムをたたきつけた。そして反対側の男にはエンドレス・ナイトメアを。 「ううっ…!」 ヘイリーは身を折って苦しんでいるが、男の方は効果が薄そうだ。悪夢に囚われている様子はなく、剣をかまえてさらに迫ってきそうな雰囲気を出している。 「あなたも彼女と戦いたくはないでしょう。逃げます。ついて来てください」 遙遠は再びブリザードを発動させ、2人を翻弄するや自分が通ってきた側路へ走り込んだ。すぐ後ろにリネンが続く。 「くっ! 待ちなさい、2人とも!!」 「…………」 剣を手に、男が黙々と追おうとしたときだった。 「はあああああああっ!!」 裂帛の声とともに放たれた矢が男を襲った。 矢は壁に突き刺さり、瞬時に一面を凍らせる。 「見つけたぞ! 幸村!!」 指をつきつけるような怒声に、ぴくりと男の眉が反応した。男――真田 幸村(さなだ・ゆきむら)は、そちらに正面を向く。 そこでは、長くまっすぐな黒髪をポニーテールにした男がほかの者たちを従え、こちらを憎々しげににらみつけていた。 「よくもさっきは遠慮なくひとの頭を怒突いてくれたものだな! しかも伴侶だというのに、そのまま戦場に放置していくとは!!」 男はかっかと気炎を上げ、全身で怒りを発散している。 「……きさまなど知らん」 幸村はぼそっとつぶやいた。それがまた、男の怒りに火をそそぐ。 「なんだとおぉーーっ!!」 この男、真実幸村の伴侶氷藍なのだが、魔鎧フジをまとっているため、今は外見上男に見えているという、はたから見ればかなりややこしい状況になっている。 「幸村さん、知らないのだ?」 「いいえ。父上も知ってるはずです」 薫からの質問に大助がこそこそと答える。 「ということは、柳玄を忘れちまってるということか」 「うわ、メンドクセーなぁ」 孝高、孝明親子が、そろってため息をつく。 「忘れてるんなら説得が通じるわけがないからな。こうなったら力ずくでねじ伏せるぞ。 大助、あんたも複雑だろうが、気ぃ引き締めて手伝ってくれよ」 その言葉に、こくりと大助が強張った面でうなずく。 又兵衛が手にしていた霊妙の槍をぴうんとしならせたとき。 まさに同様の宣言を、氷藍が言い放った。 「思い出せないっていうなら、俺たちがその頭怒突いて力ずくで思い出させてやる!! 思い出して泣いて謝るまで何度でも怒突いてやるからな!! かかってこい、幸村ぁああっ!!」 |
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