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リアクション
密林や遺跡でコントラクターとパートナーの混乱した戦いが繰り広げられているころ。リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は空飛ぶ箒スパロウで一路ヒラニプラ目指して飛んでいた。
「本当にこっちなの?」
ハーフフェアリーのマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)が並走しながら訊く。かなり疑わしげな声だ。対し、リースは自信満々こう答えた。
「間違いありません! 御託宣で、教導団にいるタケシさんのお姿が浮かんだのですっ!」
キッとした表情で前方を見据えている。
向かい風にもあごを引かない、その毅然とした姿はパートナーとして頼もしい限りだが、同時にマーガレットは違和感も感じてしまう。
自分に自信が持てず、いつもおどおどびくびくしているのが普通というリースらしくない姿だった。言葉もどもっていない。
(これはよっぽど頭にきたのねー)
お気に入りの盾を壊されて頭にきているマーガレットは、気持ちは分かると1人うんうんうなずいているが、実際のところリースの内心は違っていた。
(きっと、タケシさんは頭につけているあの変なヘッドセットに操られてるんです。あのヘッドセットをなんとかすれば、タケシさんを正気に戻せるかもしれません)
そう思うと同時に、それで本当にいいのか? との迷いも生まれる。
スパロウに乗った彼女を見上げていた松原 タケシ(まつばら・たけし)の姿は今も胸に新しい。まっすぐに彼女を見つめた赤い光を発するグレイの瞳は、スキルなど使わなくとも相手の心を射抜くような力を秘めていた。
これ以外、ほかに方法はないと信じ込むほど純粋で……それゆえに危険な瞳。
悲しい瞳。
あれはタケシではない、と思う。だとしたら、タケシを元に戻したら、彼はどうなるのだろう? 消えてしまうのだろうか?
あの小さな子どものように一途な思いの持ち主は…。
「もう、絶対タケシにもう一度会おうね! そして必ずあたしの盾、弁償させてやるんだからっ!」
意気込むマーガレットの言葉に、リースははっと現実に立ち返った。いつの間にか思いにふけっていたようだ。
「待ってろ〜タケシのやつ! ぎゃふんって言わせてやる! 謝っても許さないんだから!」
マーガレットのもの言いがおかしくて、リースはくすりと小さく笑った。
「そうですね」
また会う……必ず。そのとき見極めればいい。もう1人のタケシを。
今はただ、彼を追うだけ…。
一方、ほかの2人のパートナー桐条 隆元(きりじょう・たかもと)とナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)は。
移動手段を持たないため、地上を自らの足で進んでいた。
「おー、大分先行ってるなー2人とも」
密林の入り口までたどり着いたところで、ナディムは額に手をやって夕暮れの空を飛ぶリースとマーガレットらしき姿を見上げる。太陽はもう赤く染まって西の空に大分近付いており、まぶしくはないのだが、まあこれは雰囲気というものだろう。
「たかもっちゃん、大丈夫?」
振り返る。隆元は木に寄りかかった体勢で、ぜいぜい息を吐き出していた。
ぐっと口元を拭いて、身を起こす。
「大丈夫だ、問題ない」
「いや、全然大丈夫じゃないっしょ、それ」
かたわらへ戻ってきたナディムを、じろりと熱にうるんだ目が見上げる。
「なぜおぬしはそうも動けるのだ…」
「さあ? 基礎体力の問題かも」
けろりとした顔で答える。実際、少し頭痛や耳鳴りがして体が重い気はするが、無視できないほどでもない。
「2人の行き場所分かってるんだし。ちょっと休んでく?」
そう提案したときだった。
ザッと葉擦れの音をたてて、何者かが密林から草原へと飛び出してきた。
何者か、ではない。複数だ。10人はいるか。しかも全員、バスタードソードを持ったあの少年たちだ。
「リース! あれ見てっ!」
2人を振り返っていたマーガレットも、すぐさま少年たちに気付いた。
少年たちはまっすぐ東へ向かって駆けている。つまり、自分たちの後ろを。
「あれは……もしかしてタケシさんの援軍に?」
「そうよそうよ! きっとそうに決まってる!!」
「やめさせなくちゃ」
言うなり、リースはスパロウを反転させた。
「えっ? ちょ、リース!? 10人はいるよ!?」
「1人でも、2人でも……少しでも、戦力を削らないと!」
リースの気持ちが伝わったように、ナディムと隆元が最後尾を行く少年への攻撃を開始した。隆元は満足に動けない自分の代わりのように赤川元保を差し向けている。
元保とは戦国時代の武将・赤川元保の分霊で、凄腕の侍だ。戦闘能力は高いが、それでも高速攻撃をする少年を相手するには力不足だった。
リースがパワーブレスを飛ばし、ナディムがケセドの矢を射て援護をする間もなく、一刀の下に斬り伏せられる。
「元保!」
命は助かっているが、けがですぐには動けそうにない。追撃をかけようとする少年に向け、隆元は小糸を放った。
小糸は少年の顔にまとわりつくように飛び、元保が離脱するまでの時間稼ぎができるよう、攻撃の邪魔をさせる。動きの止まった少年に向け、隆元の漆黒の翼が飛んだ。
鋭利な無数の黒羽はバリアを張る間も与えない、おそるべき速さで襲来し、少年を切り刻む。
「あたしも負けちゃいられないわね〜」
その活躍を見て、マーガレットが奮起した。妖精のジュースを含み、速度アップを図ると足場の悪さをものともせず疾走する。
エネルギー弾を撃たれようが関係ない。それよりももっと早く、ジグザグに移動して、足を止めなければいいのだ。
そしてその勢いごと銃士のレイピアで斬りつけた。
「やあーーーーっ!!」
パリアとの接着面で火花が散る。リースのかけたパワーブレスの輝きが増し、バリアに刃先が押し込まれるのを見て、少年はバリアの厚みをさらに増した。
「こっちがお留守だぜぃ」
とナディムが背後から矢で射抜く。
少年が倒れたとき、ほかの少年たちはもう東の地平へ消え去っていた。
ここで彼らと戦うよりも、タケシの元へ行くという命令を優先したのだろう。
もしも戦いを選ばれていたら、自分たちは殺されていたに違いない。あの少年たちを10体もなんて相手にはできないから、これでよかったのだ――そう思いつつ、リースはヒールをかけるべく元保の元へ向かう。
東の方角に後ろ髪をひかれながらも…。
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