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リアクション
●教導団〜地上
地上は、松原 タケシ(まつばら・たけし)率いる少年型ドルグワントとコントラクターの間で生じる緊迫した空気に包まれていた。
「ルドラさま! アストーさまはこちらに!!」
地下施設へと通じる棟の自動ドアをエネルギー弾で吹き飛ばし、飛び出してきたライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が勝ち誇った声でアストーの石を両手で突き出す。
「よくやった。
さあおいで、アストー。ダフマへ帰ろう。おまえの半身も、一刻も早いおまえの帰還を待ちわびている。ようやくディーバ・プロジェクトが始動するんだ」
ライゼの差し出した、長さ30センチ前後のアンテナのような石を、まるでひな鳥か赤子のように優しく両腕に抱き取る。
(アストー? ダフマ? ディーバ・プロジェクトとは何だ?)
その言葉の意味を源 鉄心(みなもと・てっしん)はひと言も理解できなかった。だが彼の目的がその石にこそあり、それを手に入れるために教導団へ侵入、この騒ぎを起こしたのだということは理解できた。
そして首尾よくそれを果たし、立ち去ろうとしているのだということも。
(――冗談じゃない)
カッと脳裏を炎のような怒りが走る。
これだけ引っ掻き回しておいて、それが許されると思うのか!
だが現状は厳しい。見たことのないヘッドセットをし、赤い光を放つグレイの瞳をした蒼学生、死角を生まないように囲って周囲を警戒している5人の少年たちに加え、武器を手に起き上がった数十人の教導団員たちがいる。彼らが味方であるなら心強いのだが、おそらくは彼らも敵だ。どういう技を用いたかまでは分からないが、蒼学生たちを護るように彼らに背を向けて立っている。鉄心の助けにはならないだろう。
防御システムはやられて警報は作動していない。監視カメラも役立たずと化している。あとは後方でライフルをかまえていたキルラス・ケイ(きるらす・けい)が機転を利かせて、HCなり携帯なりでSOSをかけていることを期待するしかない。振り返って確認しようにも、彼はパートナーのイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に剣をつきつけられており、身じろぎもできない状態だ。
キルラスもそれを知っているから、うかつに銃撃することができないでいるに違いなかった。
「行くぞ」
タケシはきびすを返し、来た道を戻り始める。
後ろに続く少年たち。
何か打てる手はないか。ほんの一瞬でいい、イコナの気がそれてくれれば…。
そんな鉄心のあせりを受け取ったように、それまでおとなしかったティー・ティー(てぃー・てぃー)の愛馬、レガートが突然疳高くいなないた。
まるでティーが乗り移りでもしたようにイコナへ突貫し、体当たりを仕掛ける。
「きゃっ!」
彼女が剣を取り落した瞬間――鉄心は彼女の腕をひねり、投げ落とした。
「あっ…!」
手加減なしだった。軽いイコナは人形のように吹っ飛んで、受け身もとれず、どっと地に仰向けになる。
腕を折ったか、腱を痛めたかもしれない。だがかまってはいられない。
レガートの腹の下を転がって抜けた鉄心は、立ち上がる間も惜しんでタケシを銃撃する。銃声は2発起きた。別方向からキルラスがタイミングを合わせて狙撃したのだ。
しかし銃弾は彼に届くはるか手前の宙で壁に激突したようにどちらも破砕した。不可視の力場――バリアが彼を防御している。
ライゼがカラカラと笑った。
「そんな攻撃、ルドラさまに効くわけないじゃんっ。もちろん僕にもねっ」
振り切られた手から真空波が乱れ飛ぶ。
「おっと」
キルラスは飛び込み前転でこれをかわすと、転がりながら銃口をライゼに向けた。
漆黒の魔弾は装填済みだ。スナイプも発動させている。――だが。
「――へっ」
寸前で、彼は照準を銀髪の少年、ドルグワントへ変えた。
ライゼは同じ教導団員。仲間だ。
「たとえ攻撃されようと、操られた仲間を撃つほど悪趣味じゃねぇさぁ」
魔弾はバリアで防がれた。タケシと同じだ。
反撃に向かってくる少年に向け、真正面からヘルファイアをぶつけた。これもまた、前方に展開したバリアで防御される。
「そんなことは百も承知ってねぇ…!」
ヘルファイアは目くらまし。少年が黒い炎をくぐり抜けたとき、キルラスは猫のようなしなやかさで音もたてず跳躍し、少年の頭上を越えていた。
無防備な後頭部へ、至近距離から容赦なく魔弾をぶち込む。
敵に情けは一切不要。魔弾が貫いた直後、朱の飛沫の効果で少年は瞬時に燃え上がった。
「俺をただの狙撃手だと思ったら危ねぇさぁ――っと!?」
回転し、着地したキルラスを今度は研究員たちが襲う。びゅっと突き込まれたサバイバルナイフを身を沈めてかわし、彼は即座に銃舞を発動させた。
周囲を囲った研究員たちを相手に、ロングレンジスナイパーライフルを時に銃剣のように防御に用いつつ格闘する。狙うはその手に握られた武器だ。彼らを殺すわけにはいかない。彼らもまた、教導団員なのだから。
しかしいくら銃舞を発動させたコントラクターといえど、かわせない攻撃はある。
全身に裂傷を負い、圧倒的な数に押し切られそうになったとき。チン、というエレベーターが到着する軽い音がした。
振り返った彼の視線の先、棟の自動ドアを破壊する勢いで地下施設に下りていた仲間たちがわれ先にと飛び出してくる。
「ああ! みんな、無事だったさぁ!」
喜び、安堵するキルラスの前、彼らは扇形に展開し、前をふさぐ研究員たちに武器を向けた。
「地下の者たちと同じです、クレアさま」
オートバリアをかけたあと、油断なくヴァーチャースピアをかまえたハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が、となりのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に小声で言う。
「ああ。おそらく操られているんだろう、あの石によってな」
「彼らも操られているだけに違いないわ!」
クレアの懸念をあと押しするように、李 梅琳(り・めいりん)が声を張る。
「発砲は許可します! ただし各自無力化に努め、決して殺したり致命傷を負わせたりしないように!」
「了解!!」
力強い応答とともに、一斉攻撃が開始された。