空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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第一章・終わりの始まり

 黒いイコンと魔獣たちは、ハイ・ブラゼルの空をも不吉に染め上げていた。
 また、ドロシー・リデル(どろしー・りでる)曰く、他の仮想世界でも異変が起きているとのこと。
 また、おかしなことに今まで使えていたはずのゲートが、全て使用不可能になっていた。
 そして、空に半透明の幻。『大いなるもの』の姿が不気味に漂っていた。だが、その『大いなるもの』は不完全で、自ら何かをするわけではなかった。だが、あの姿が完全に実体化すれば、ハイ・ブラゼルどころかパラミタ大陸、ひいては世界が危ぶまれる。
 そして、その不完全な『大いなるもの』の姿こそが現在、現実世界と仮想世界の接点となっているゲートだ。
 
 大いなる賢者ファフナーの言葉では、
(四つの世界は重層構造になっており、接点となっているのはおそらく『大いなるもの』の封印に深い関わりのある場所だ。我が守っていた封印の地は、『大いなるもの』の中心へと繋がっている。ここに辿り着くには、他の三つの世界を通らなければならないだろう)
 とドロシーに伝えられていた。
 そう、彼らはそこに辿り着かなければならない。
 黒いイコンと獣たちを倒し、各世界へと繋がるゲートの先へと向かう戦いが始まった。


「くっ!! ゲートに弾かれてあの世界に入れない!」
「鬼羅ちゃん!?」
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は【第三世界】へ向かおうとしたが、弾かれてしまった。リョーシカ・マト(りょーしか・まと)が駆け寄る。
 既存のゲートは全て閉じてしまっている。そのことに気付いてなかったのだ。
「向こうには教官やみんながいるんだぞ……くそっ……!」
 鬼羅は中で戦っているだろう、ミネルヴァ軍や自分を鍛えてくれたマシュー・アーノルド中将の事を思い、悔しがる。今の自分は彼らの助けにはならないのだと。この時間のロスは大きかった。
「ここで考えてもしょうがない、鬼羅ちゃん、一緒にシュラオウで戦うでぇ! 向こうの世界の人達をこっちに避難させる手はずやから、自分たちは教官が無事にここに来られるようにしたろ?」
 幸い、【第三世界】は現実世界と繋がっている。そしてそこに住む人達をこの花妖精の村へと避難させようとする動きもある。
 ただし、現実世界に避難させることの出来るのは嘗て現実世界から別世界へと移住した者の子孫だけだ。その中にマシューが含まれるかは分からない。
 それでも、鬼羅はマシューが来るのを待つしか無い。
「――わかったぜ、リョシカ。オレはシュラオウで外周の敵をぶっ倒して、教官が帰ってくる場所を死守するぜ!」
「その意気や!」
 二人は自分たちのイコンへと向かおうとする。
《《禁猟区》が反応しています。ゲートから敵でございます! 鬼羅様、早くそこから退避してください!》
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)アシュラムより警告する。レーダーに反応が増える。
「魔物だけじゃなく、バーデュナミス、フィーニクスも現れるんだ……」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が黒い敵影を確認して、バーデュナミスに関しての《博識》を皆に伝える。
《フィーニックス、スフィーダは機動性の高い機体だよ。その分装甲は低いから、遠距離攻撃が有効です》
「じゃあ、私が一発出鼻をくじかせてもらうよ!」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が答える。ゲートから出てきたばかりの敵に対して、ジェファルコンの『ソニックブラスター』を発射した。密集してゲートを通過してくる敵に有効的だった。
「相手がドールズなら接近戦はナノマシン汚染が怖いから、これでいくらかましになったやろねぇ。――うん? こいらもしかしてドールズじゃないのか!?」
 またたび 明日風(またたび・あすか)は敵をドールズと思っていたが、違ったらしい。
 ドールズはナノマシンで動き、再生能力を持つイコンとバーデュナミスの操られた姿だが、これはそうではない。
 外形は黒く、よく似ているが、ナノマシンが渦巻くような靄もなく、破損箇所が再生しない。そして、ナノマシンが魔獣をも操れるとは考えにくい。
「おそらく、そいつは瘴気に当てられた人間が乗っているのか、それとも別の何かだと思うのだよ。ドールズではないなら侵食を恐れる必要もない」
 和泉 猛(いずみ・たける)ネレイドから敵の解析結果を伝える。
《では、この敵はどこから現れたんだろう?》
 北都が疑問を口にする。
「それはわからん。それを確かめるには向こうの世界へと行ってみないことにはな」
 と猛が答える。
「でも注意してください。性能は前世代のイコンを凌駕します!」
 ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)の言うとおり、バーデュナミスの基本性能は今までのイコンよりも格上だ。
「なら、大破を狙わなくてもこいつらは倒せるんだな? ヴェルリア、俺らは敵を引きつけるぞ」
「わかりました。敵位置の把握はまかせて!」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の言葉に、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が答える。
 真司はゼノガイストを駆り、【シールドガトリング】と【新式アサルトライフル】での《陽動射撃》と《弾幕援護》に徹した。
 ネレイドもそれを援護するように《防衛計画》に則った動きで【アサルトライフル】を掃射する。
 敵が密集し始めたのを狙って、アシュラムが広範囲攻撃の【ナパームランチャー】を放つ。
《敵数機の沈黙を確認! ドールズのように消滅したりはしないようでございます!》
 クナイは敵が行動不可能になったのを見て、通信を飛ばす。