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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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duodecim  敗北、そして、
 
「試合が終わったら、すぐ戻って来て、って言ったのに。
 ドミトリエがついていながら、どうして校長との試合まで見物してたの?」
 キリアナが涼司と戦っている間、逃げる為の時間を稼げたはずだ。
「……すまない」
「ごめん。審判が残ってろって言って……」
「もう!」
 宇都宮祥子の言葉に、セルウス達は謝る。
 こちらの意図が、正確に伝わっていなかったようだ。

 祥子は、必ずしもここでクトニウスを奪還する必要は無いと思っていた。
 見捨てるのではない。機会は、他にもあると思っていたからだ。
 ここで奪還せずに逃げても、キリアナは追ってくる。クトニウスを持って。
 だがここで捕まっては元も子もない。逃げるのが先だ。そう思っていた。

「とにかく、駐車場へ。こっちよ」
 あらかじめ、祥子は逃走時のルートをチェックしていた。
 だが、祥子達の行く先に、何処からか走って来た何頭もの分裂エニセイが回り込む。
「見付かった!?」
「向こうもルートはチェック済か!」
 翔一朗が舌を打つ。
 煙幕ファンデーションを投げつけ、セルウスとドミトリエを抱え、飛翔術を使って、一気にこの場を離脱した。


「逃がしまへんえ!」
 キリアナは分裂エニセイ達を向かわせながら、それを追いかける。
 分裂エニセイ達が、逃げるセルウスに追いつき、捕まえた、とキリアナは思ったが。
「なっ……」
 分裂エニセイ達が群がるのは、セルウスではなかった。

「ふっふっふ、セルウスなら既に逃がさせてもらったぜ」
 勝ち誇った口調で、キリアナの前に立ちはだかるのは、南臣光一郎だった。
「くっくっく、大荒野の荒くれ共を味方につけたのが災いしたな、キリアナ。
 今の俺様は、掛け算の右側、お前等の前に厚く立ちはだかる壁、そしてフェロモンのようにお前等を引き寄せるゴキブリホイホイ!
 その名もプリンス・オブ・セイヴァーシード・ミナミ!」
 簡単に説明すれば、種もみ剣士の特殊能力で、囮となって敵を引き付けたのだ。
 しかしこの方法は、非常に危険な諸刃の剣でもあった。

「いいかキリアナ、略奪など何も生み出しはしない!
 より良いパラミタの明日の為に手を取り合って俺様には確認したい目的がひとーつっ!」
 べしゃっ。

 説得なのか宣戦布告なのか、叫びながらキリアナに突進した、パラミタ最弱を誇る種もみ剣士・ミナミは、キリアナの手刀一撃で斃れた。
「ぱ……パイ生地触診…………」
 ――謎のダイイングメッセージを残して。
 薄れ行く意識の中、樹隷のセルウスに【苗床】を見せてやりたかった……と思ったが、勿論セルウスは既にいない。

「乙女の胸を狙うなんて、見下げたお人どすなあ」
 股間から苗を生やし、やがてプチトマトの実を実らせた光一郎を見下ろして、キリアナが言い放つ。
「……けど、狙い所はよかったようやわ」
 肩を竦めて、投げキッスを贈ると、キリアナと分裂エニセイ達は、再びセルウスの後を追った。


 光一郎が力説して推奨していた、タシガン経由でコンロンへ向かうのは無理そうだった。
 タシガン空峡に、空賊が出没しているという情報があり、飛空艇が出航を見合わせていたからだ。
 それは、宇都宮祥子のパートナー、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が密かに流していた、偽の情報によるものだった。
 エリュシオンの骨董品が、ツァンダ経由でタシガンに運ばれようとしている、という情報に踊らされた空賊が、一帯を徘徊しているのだ。
 それは、追手であるキリアナを阻止する為の偽情報だったのだが、全ての飛空艇がタシガンへの運行を中止したので、セルウス達もこのルートを使って逃げるわけにはいかなくなった。

「とりあえず、キマク方面から回り込んでコンロンへ向かうルートね。
 飛空艇発着場まで急ぐわよ!」
「キマク方面への飛空艇は出るのか?」
 駐車場へ向かって走りながら、祥子が言い、ドミトリエが訊ねる。
「多分ね。……!」
 はっ、と彼等は立ち止まった。
 分裂エニセイが吼えている。
 キリアナが、馬ほどの大きさのエニセイに乗って右手から迫って来ていた。

「こっちだ! とりあえず、先にセルウスだけでも!」
 そして後方から、可変機晶バイクに乗って駆けつけた武神牙竜が手を差し出した。
 キリアナの狙いは、セルウス一人だ。
 先に、セルウスだけでも逃がさなくては。
「頼む!」
 翔一朗は、ドミトリエを護りつつ、セルウスを牙竜の後ろに乗せる。
「逃がさへんよ」
 キリアナは呟き、翔一朗達を飛び越えて、一気にエニセイで追いつく。
 エニセイを走らせながら、鞘に収めたままの剣で、後方からセルウスに殴りつけた。
「うわっ!」
 バランスを崩して、セルウスはバイクから転がり落ちる。
「セルウス!」
 牙竜はすかさずバイクを止めたが、既にキリアナがセルウスを捕らえていた。
 キリアナは、エニセイの背に後ろ手にしたセルウスを押し付け、その上に自分が乗りかかるようにして逃げられないようにし、翔一朗達に笑いかける。
「お騒がせしました」
「待て!」
 止めようとする声には答えず、素早く去って行った。追いつけない。
「……くそ!」



「名残惜しいどす」
 キリアナは、見送る白竜達に礼を言う。
 早くしなくては、また追手が来るだろう。別れは慌しかった。
 元の大きさに戻ったエニセイの背には、既に縛り上げたセルウスが、荷物よろしく積んである。
「皆さん、ほんまにおおきに。
 やること済ませたら、改めてお礼に来ます。報酬も、その時に!」
 キリアナはエニセイに跨り、飛び去って行く。
「慌しいなあ。
 とりあえず、連れて飛んで行っちゃえば追手も無し、っていう算段か」
 見送りながら、世羅儀が肩を竦めた。


「あちゃー」
 双眼鏡を覗いて、飛び去るエニセイを見ながら、トオルが、ダメだったか、と呟く。
 天を仰ぎつつ考えて、携帯を取り出した。
「繋がったら助ける、繋がらなかったら諦める」
 呟いて、番号を押す。
「あ、もしもし、おっさん? 俺俺。今何処?
 は? タシガン便が欠航で? 今酒場に着いたとこ?
 今すぐ空港に戻ってくれよ! ちょっと頼みたいことがあって。今飛空艇は持ってんのか?
 なけりゃ調達してくるけど。いやいや、借りるだけだって!」
 電話しながら走った。
 電話を終えると同時に、駐車場近くで、ドミトリエ達の姿を見つける。
「いたいた。皆、急いで飛空艇発着場へ!」
「え?」
 ドミトリエ達は、ぽかんと振り返った。
「俺の知り合いの、ヨハンセンって飛空艇乗りがいる。話はつけてあるから。
 後を追ってくれる。エリュシオンに入る前なら、シャンバラ上空で追いつけばまだ、何とかなるんじゃないか?」
 ドミトリエ達は顔を見合わせる。
 仲間達に知らせる為に、翔一朗が慌てて携帯を取った。
「こっちよ!」
 祥子がドミトリエを促した。



◇ ◇ ◇



 キリアナは、じっと睨むようにその方向を見据えていた。
 まだ会って間もないが、キリアナの笑顔しか見たことのなかったセルウスは、その緊張した表情に驚く。
「……何やの。シャンバラのお人やないね」
 近づいて来る、屍龍の群れ。
 その先頭の龍に、人影がある。黒いローブの男だ。
「突破するか……無理やろか」
 戦うしかないか。
 剣を取りながら、キリアナがそう判断した時、セルウスが動いた。
「!? 馬鹿っ……」
 隙をついて、エニセイから飛び降りたのだ。
 キリアナは慌ててセルウスを掴まえようとするが、取った腰のベルトが引きちぎられて、セルウスはそのまま落ちて行く。
 しまった、という顔をして、落下しながら、セルウスは振り向いた。
「セルウス!」
「師匠っ…………!」
 キリアナの手に、クトニウスだけが残る。

「…………何て無茶な子や」
 呆れ返って見下ろせば、下はサルヴィン川だった。
 ふう、と苦笑して、キリアナはナイフを取り出す。
「エニセイ、ちょっとだけ堪忍な」
 ぴ、とその表皮に傷をつけ、滲んだ血で指先を塗らす。
 その指先でクトニウスの後頭部に軽く何事か書き付けると、ぽい、と投げ落とした。
「うぉいッ!?」
「とっておきや。同じところに落ちるように」
 そして、自分は改めて、屍龍の群れに向かう。

「うちは、こっちが先や」

 すら、と剣を抜いた。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 
 お待たせいたしました。
 「追う者と追われる者 第二話」リアクションをお送りいたします。

 武闘大会の組み合わせは、本当に全くのランダムです。
 我ながら、これ仕組んだと思われるんじゃないかと驚いたカードがいくつもありますが。
 PCさんのどなたかに、大会優勝者の称号をつけてさしあげられず残念ですが、どの対戦もアツく描かせていただきました!

 それでは、また次回もよろしくお願いします!